食堂の少年
「こっちにもおかわりー!!!」
「はーい!ちょっとお待ち下さい!!」
案内された宿はこの村の食堂としても兼ねているようでここに来ている冒険者数人とリンスの団員達、それと村の半数が入るほどに大きな建物だった。
この食堂に隣接して宿が造られているようだが、普通なら一つの建物に2つが兼用されるもの。それをあえて分けているように思える。
「何だこの肉はッ!!!めっちゃくちゃ美味え!!!」
「肉汁が溢れてくる!!!」
「なんで周りがカリカリなのに中がこんなにも柔らかいんだ!!!!」
その理由はなんとなく分かっている。
いまここに出されている料理がかなり上手いからだ。
目の前にあるのはカリカリに焼かれた肉。鶏肉らしい。
初めは焼きすぎて固まったと思われて団員もふざけるな!!こんなもん出すな!!と怒っていたが、一口食べると中は柔らかくジューシで肉汁が溢れてくる。
そしてこのカリカリとした食感がアクセントとなってかなり美味しい。
どうやらこれが流行り元々兼用していた宿は食堂の方が繁盛してしまい、別館を建ててそっちに食堂としてやり始めたようだ。
すると一人で注文や料理を運んでいる女性が
「団長さん。良かったらこれをかけてください」
「これは……柑橘類か??」
「はい。さっぱりしていくらでも食べられますよ」
そう言って柑橘類の実を切ったものを置いていった。
どうやらこの実の汁をかければいいようだと思い、その肉に汁をかけて食べてみると
「…………うまい……」
「ちょっと団長だけズルいですよ!!それ!俺もください!!!」
釣られて団員達もその実の汁をかけて肉を食べる。
この汁は脂っこさを柑橘類の酸っぱさで打ち消してくれる。
こんな食べ方は初めてで新鮮。きっと首都でも、王族でも知らないだろう。
それだけこれは上手い。
こんなものがこんな外れの村にあるなんて……と驚いていると
「母さん。後は僕がやるから片付けしてて」
「そう?じゃお願いするわね。もう少ししたらマリーちゃんも手伝いにくるから」
そういって母親である女性は店の奥へ行き変わりに少年が現れた。
どこにでもいるだろう平凡とした顔つきと体型。変わったものがないためにすぐにでも忘れてしまいそうなそんな印象を受ける。
しかし一点だけ気になったのは
(両手にブレスレット……??)
少年にはあまり合わないブレスレットが両手首にキラリと輝いていた。
いや付けていることが悪いというわけではない。
しかしそれでもどうしてもその"ブレスレット"に違和感を覚えてしまうのだ。
そんな彼がさっきの料理を持ってこちらへとやってきた。
「お待たせしました」
「ありがとう。これは実に上手いな。作り方を教えてもらいたいほどだ」
「そう言ってもらえて嬉しいです。まだ試行錯誤ですが……」
「まだ完成品ではないのか??」
「僕の知っているカラアゲはもっと美味しかったんですけどどうしてもその味には届かなくて……あっ、すみません。こんな事を………」
「いや、気にしなくていい」
その言葉から察するにこの少年が作ったようだ。
これだけ美味しいというのにまだ上がある。そしてオリジナルではなく何かしらから知った味を再現していることになる。それはつまり元があるということ。
(だが、こんな辺境地ではない限り王都に届かないなんてことがあるか??)
まぁ、たかが食べ物でそんな陰謀論みたいな考えを持っても無駄だろう。とすぐに頭を切り替えて目の前の料理に手を伸ばす。
「遅くなりましたー!!!」
「そんなことないよマリーちゃん。ごめんけどエルと一緒にね」
「はーい!!!」