王国騎士団、第4小隊
5年後。
ここバレールに危機が訪れていた。
バレールを含む"カタレイト国"と隣国"ヤワサイル"の国境であるチュウワレン山脈。
ここには太古からドラゴンが住み着いておりそのドラゴンから溢れ出る魔力によって生み出された強い魔物が時たまに下山することがある。
その魔物を監視、報告、対処するのがこの村バレールである。
ココ最近は魔物が下山しても冒険者で対処できた。
しかし今回はそうはいかなかった。
「レザードラゴンだと!!?」
「それは本当なのか!!!」
「間違いありません!!!あの強固な鱗、冒険者の剣も魔法も跳ね返してました!!!!」
バレールの集会所にて報告を受ける村長。
いつなら魔物が現れ冒険者を派遣してもらい、撃退してもらうという流れだった。
なのに、その冒険者が遭遇したのがレザードラゴン。
昔から住むと言われるドラゴンの下位ではあるがそれでもドラゴンなのだ。
ただ強い魔物とはわけが違う。
「厄介だぞ……レザードラゴンとなると近くの冒険者ギルドに倒せるほどの実力者はいない……」
「いまは冒険者が足止めしてもらってますが長くは……」
「すぐに王国騎士団に連絡をッ!!!」
………………………………………
それから半日。
バレールの村に王国騎士団の一個小隊が到着した。
「私はこの第4小隊の隊長、リンス·フィーアードという!」
隊長の挨拶と共に後ろに控えていた隊員が一斉に村長に向けて敬礼をする。その足並み揃った行動は流石の一言。
リンス·フィーアードは茶色がかった肩まである髪と女性としては成人男性と同じぐらいの身長であり、その隊服は団員と少し異なっているがそれでもハッキリとした身体のラインが分かりながらも運動に支障なきぐらいに出てるところは出ている。
「王国騎士団長"アラカス·グランド"の命によりレザードラゴン討伐に参りました!!」
「バレール村村長のシシンです。どうぞコチラへ」
「カレスは付いてこい。残りは待機!!」
「「「はい!!」」」
シシンの後に続き集会所へ向かうリンスとカレス。
カレスは第4小隊の副隊長、リンスの右斜後ろにピッタリと付いてくる。
残された隊員達は"休め"の姿勢を取りその場で待機。
その姿にバレールの村の人達は物珍しさに集まってきていた。
そんな中、何処の誰かは分からないが
「………おい、確か第4小隊って………」
「………あの"死"の小隊か??マジカよ………」
「これじゃ、村から死人が出るかもな………」
と、明らかに村長のシシンまで聞こえる話をする村人に対して持っていた杖で制裁をと一歩踏み出そうとしたが
「おやめください。私は気にしてませんので」
「し、しかし……」
「どこにいっても言われてます。今更気にしておりませんので」
その冷静な対応に村長も従うしかなかった。
しかし誰が言ったかは分かったので後で仕置をすることは決定事項である。
そしてここにもその言葉に怒りを感じているものが
「……どうして止めたのですかリンス隊長」
「あんなことで血を見るつもりか??」
「あんな、ではありません!あの者たちは……」
「例え誤解を解こうともまた別の場所で言われる。同じことだ」
これ以上は取り合わないという雰囲気を出すリンスに押し黙るカレス。
"死"の小隊。その本当の意味を知らない者達へ密かに怒りが募るカレスだが絶対にそれをリンスに気づかれまいと必死に抑え込んだ。
集会所ではシシンの他に冒険者ギルドマスター"ドダン"とレザードラゴンを押さえていた冒険者パーティが集まっていた。
そしてもう一人、ここには合わない女の子が一人。
「村長、あの子は……」
「マリーと言います。村一番の実力者なのです。
よければ一緒に話を聞かせたいと思いまして……」
「分かりました。しかし邪魔をしないこと。いいですね??」
コクリと頷くマリー。
全員が席に付き上座にリンスが座り、全員が座ったところで会議が始まる。先に話すのはギルドマスターから
「改めましてバレール村、村長のシシンです。
今日はわざわざこんな村へ……」
「前置きは結構です。報告を」
「は、はい。
チュウワレン山脈から降りてきたレザードラゴンですがいまは村の家畜の一部を村から離れた場所で解き放ちまして村への進行を遅らせています」
地図を広げたシシンはチュウワレン山脈とここバレール村の間に広がる森林と草原、この境界線までレザードラゴンが来たと報告をした。バレール村に近いのが草原であり、森林に近いのがチュウワレン山脈。
森林とはいってもチュウワレン山脈の森がそのまま連なっているだけなのだが、国の所有権などの関係で地図上ではキチンと分かれてある。
そしていまいるだろうレザードラゴンの場所とどれだけの強さを持っているのかを話したところで村長が言いづらそうに、
「………あと、レザードラゴンに傷を負っているで回復するまで進行はないかと……」
「ほう。それはスゴイ」
「この隊でも傷つけることが出来るのは隊長だけですよ。
そんな実力者が冒険者にいらっしゃるとは!」
しかしギルドマスターは渋い顔をしており、周りも同じように微妙な表情をしている。それに気づいたリンスは
「何か隠している、のですか??」
「それが、ちょっと………」
なんとも言いづらそうな表情をするシシン。
一体何があるのだと思ったところでフッとマリーが手を上げた。
邪魔をしないようにと注意していたのでいままで発言も何もしなかったがここに来て手を上げてきた。それでも勝手な発言をするわけでもなくキチンと伺いを立ててやるところはマトモだと感じ
「発言を許可します。言ってみてください」
「失礼します」
マリーに発言の許可を出すとサッと立ち上がり一礼をする。
最低限のマナーは分かっているようだが
「レザードラゴンの傷は私が付けました」
どうやら、妄想癖があるようだ。
その言葉に副隊長であるカレスは笑わなかった。ここに団員がいたら笑うやつもいただろう。しかしこの場がどうゆうものでその発言がどんな意味を成すのか分かっていないようだ。
「おかしなことをいう。そこのギルドマスターがいる冒険者ギルドには私の知る一級冒険者がいる。そしてそのものでさえも傷をつけられなかったレザードラゴンに傷をつけたというのか??」
「はい。そのとおりです」
「…………村長、ギルドマスター。それは本当か??」
それを隠していたのか??と軽く殺気を放つリンス。
ギルマスはともかく村長はその殺気当てられブルブルと震えながら
「わ、私は知りません!!マリーが勝手にそんなことを!!」
「こっちもレザードラゴンを発見したときにはすでに傷があった。もしその子が本当の事を言っているなら冒険者が駆けつける前に傷つけたとこになる。それもたった一人で」
「ですからあり得ないのです!!レザードラゴンに女の子一人で傷をつけるなど!!」
これが村長とギルマスが話すのを渋った理由だった。
確かにレザードラゴンを傷付けることが出来るのはこの中でもリンスだけ。もしマリーの言うことが本当ならマリーはリンスと同じ実力を持っているということになる。
「と、村長もギルドマスターも言っているが、どうだ??」
「私が傷を付けました」
「やめろマリーッ!!!どうしてそんな嘘をつく!!!!!」
「嘘じゃない!!!それに私一人じゃなくて……」
「やめなさいと言っているッッ!!!!!!」
机を強く叩き激怒するシシンに俯き黙るマリー。
一気に場の空気が悪くなり誰も言葉を発しない。
すると村長が立ち上がりリンスに向かって頭を下げながら
「大変失礼しました。この者は退室させます」
「そ、村長!!」
「いいから出ていきなさい!!」
一切話を聞かないと決めたシシンの態度にマリーも悔しそうで辛そうな表情をしながら部屋から退出した。そこで再びリンスに頭を下げて
「あの子には後でキツく叱っておきますので、どうか……」
「いえ。お気になさらずに。どうか寛大な処置を」
「……ありがとうございます」
王国騎士団。その地位はこの村を国王の命無しでも裁くことは出来る。
もちろん相応の理由がないといけないが村の住人一人、簡単に処分されても文句を言えないほどに権力のある騎士団。
リンスはいままでそんなことしたことはないが、この"死"の小隊と呼ばれてからはほとんどのものがリンスに対して失礼があれば助けてくださいと懇願してくるようになったのだ。
今回もそうでありここで深いため息をつかなかったことを褒めてやりたいと思うほどに憂鬱な気分なっていた。
「……それでは明日、レザードラゴン討伐を決行します。
悪いのですが一晩こちらに泊めていただけたら助かります」
「それはもちろん。冒険者様達と同じ宿にはなりますがごゆっくりされてください」
これで話し合いは終わったがリンスの頭にはあのマリーという女の子が気になっていた。この場に立てるほどの実力があるのに、レザードラゴンを傷つけたという嘘をいうほどの愚かな者かと…なにより、
((嘘じゃない!!!それに私一人じゃなくて……))
あの言葉の続きがどうしても気になった。
一人の手柄ではないと言おうとしていたように聞こえそれを私に聞かせないようにと村長が動いたように見えたのだ。
しかしそれを気にかけている場合ではないのも分かっている。
国の外れにある村に来るまでに団員は疲れているだろう。明日は朝早くから動くとするなら今のうちに休憩を取らせるべきと。
団長としてやることはある。
頭の片隅に置きながら団員達の元へ向かい明日に向けて宿へと行くことにした。