魔法作成
「まだ、部屋から……」
「あぁ。まさかだったからな……」
エルの部屋の前で両親がそんな話をしていた。
誕生日から3日。その日から俺は部屋から出ていない。
扉は薄いから声も聞こえてくる。だけど、それでも、いま誰にも会いたくない。
「使えないって、なんだよそれ…」
せっかく異世界転生して、特典ももらったのに、魔法が使えないって……そんなのアリなのかよ……
確かに魔法が使える。という前提で特典をもらったけど《《実際に使えるのかどうかは別物だったようだ》》。
そんなの特典貰えるときに教えてもらいたかった。
これじゃ魔法量最大値なんてあっても意味がない。
身体能力向上はどうにか使えるだろうけど、魔法作成も使えないか………
「いや、ちょっと待てよ……」
よく考えたら"魔法作成"はあくまでも"魔法"を"作り出す"だけ。つまりは魔力を使わなくても魔法を作ることは出来るのか?
魔法作成は"どんな魔法なのか""どんな効果があるのか""属性は何なのか"など必要なものを頭でイメージし、浮かんでくる呪文を唱えれば使える便利なもの。
でもそれを呪文ではなく、例えば、魔法陣のようなものでも……
そう考えたとき頭に魔法陣が思い浮かんだ。そう、指先から火を出す魔法だ。
すぐさま紙に魔法陣を描き、そこに魔力を…………
「………………やっぱり、だめか………」
魔力を放出させることさえも出来ない。
いくら魔法作成が出来たとしても魔法そのものは出来ない……
はぁ、とため息をつき紙をホイッと手放す。
転生したという記憶が戻る前から魔法に憧れていたのだ。
それがまさか、全く使えないなんてなると…………
「やる気、出ねぇ…………」
またベットに倒れ込んで目を閉じるのだった。
それからどれだけ経ったのか。ドンドンと扉をノックする音が聞こえて目が冷めたエル。窓を見るとすでに日も上がりどうやらあれから寝てしまったようだ。
そんな中でも鳴り止まないノックに、無視を決めるエル。
いまは一人にしてほしかったのでしばらくすればやむだろうと思っていたのだが
「"パワーアックス"!!」
いま、トンデモナイ呪文が聞こえた気がした。
すると次の瞬間、部屋の扉が破壊されたのだ。魔法が使えないと分かり物に当たっていたエル。部屋の中が散らかっているためにその物が衝撃波により舞いがっている。
やっと部屋の中を噴き上がっていた風が止んだところで見えてきた姿。
恐らく扉を突き破ったと思われる斧が床まで破壊し、その先には見覚えのある女の子が身体をワナワナと震わせていた。
そしてエルはこう思った。あっ、殺されるかも。と……
「エ、エルの………バカアアァァァッッ!!!!!」
「こんな事を仕出かすマリーに言われたくないよッ!!?」
エルと同じ身長ながらも軽々と大人でも大変な斧を使うこの子はマリー、マリー·クラネットという。家が木こりであり小さい頃から親の仕事の手伝いをしていたマリーは去年から魔法を覚えて、さっき使ったパワーアックスを使って仕事をしている。
そして驚くべきはそのパワーアックスを使わなくても軽々と斧を振り回せるところにある。
だからエルはどうしても言いたかったのだ。
なんでここでパワーアックスを使う必要性があるのかと。
おかげで床まで、いや、よく見たら床下の土までも抉っているのだ。
「これで人生が終わりなんて…言わないでよ………」
そんな事を呟き座り込みすすり泣くマリー。
しかしエルは言いたい。誰もそんなことは言っていないと……
だけどずっと部屋から出なかったことに変わりはなく、それが結果的にマリーをここまでさせたとなると
「………ごめん………」
「………バカ………」
いまは何も言い訳せずに謝るしかないとマリーが泣き止むまで隣で待つしか出来なかった。
…………………………………………………………
「これって………魔法陣!??」
「まぁ、結局は魔法は発動しなかったけど……」
泣き止んだマリーに誕生日が過ぎてからの話を終えた時、ふとついさっき思いついた魔法陣についても話した。散らかった部屋の中、その一枚の魔法陣を探すのに手間はかかったが、隠していたテスト用紙が見つかったという犠牲を払いつつマリーにそれを見せた。
「でもこれって、凄いんじゃないの!!!
王国魔道士の中でも一級魔道士しか出来ない"魔法陣"よ!!」
この世界の魔法は詠唱による魔法発動と、無詠唱によるもの、そして魔法陣によるものの3つがある。
詠唱による魔法は具体的なイメージを掴むためと魔力を込めるために必要な工程。誰でも最初はこの詠唱を覚えて魔法を使う。
無詠唱による魔法は言葉の通りに詠唱を行わずに瞬時に魔法を発動が出来る。しかしその為には詠唱に必要なイメージよりもハッキリなイメージが必要となりかなりの練習と慣れが必要となる。
どちらとも戦闘中に敵に邪魔されれば集中が途切れ魔法が発動しない。
そんなリスクを減らしたのが魔法陣である。
具体的なイメージもいらない。すでに魔法陣にそのイメージが書いてあるために後は魔力を注ぎ込めば誰でも使えるという魔法。
欠点という欠点はないが誰でも使えるために悪用されやすいというものがある。
そしてこの魔法陣が書けるのは無詠唱が使え、それを陣として書くことが出来るほんの一部の人間。一級魔道士と呼ばれる人間しか使えない品物なのだ。
「ねぇ!!!もしかしたら私なら使えるかも!!!」
「じゃ、やってみる??」
「うん!!!」
一応危険がないようにと外に出ることにした二人。
外へ出る途中でそんな二人をエルの両親が見て「エ、エルが出てきたわ……」「良かったな……」と感動しているのを見てしまいちょっと申し訳なかったと感じた。
「………あとで、謝りなさいよね」
「分かってるよ。ほら、始めよう」
マリーに言われずとも心配をかけた両親にはキチンと話す。
それよりいまはこの魔法陣が本当に使えるのかが気になる。
ただ自分が魔法を使えないだけなのか、それとも……
「じゃいくわよ………!!」
魔法陣に魔力を込めるマリー。
陣に魔力が流れて光り、その陣の中心から火がボッと現れた。
それはエルが夢までみた魔法………
「や、やったわよ!!エル!!!成功よッ!!!!」
「で、出来たんだ………」
魔法陣はキチンと使えた。そう魔法陣が使えないわけじゃない。
それが分かっただけでもホッするエルだったが、すぐに喜んでいた表情は暗くなる。
「………でも、やっぱり……自分で使いたかったな………」
その火は自分で灯したかった。
こんな簡単な魔法一つ使えないなんて………
ユラユラと揺れる火はやがて魔力が尽きて消えてしまった。
「…………エル……」
陣が消えただの紙となったそれはマリーの手からこぼれ落ち風に乗り何処かへと消えていった。