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07. 初めての【仮武器】

 翌日の放課後。ルクレチア秘密基地内にて。


「それでは、これより通君の科学研究部兼ルクレチア加入歓迎会もとい研修を開始する。」

 

 千代美が開始宣言を上げた。

 現在、その場にいたのは俺と千代美以外は谷町と神阪が同席していた。四ツ橋さんは演劇部の練習、つるみは吹奏楽部の練習で少し遅れるため後から参加すると聞いたので、先に時間通りで俺の研修を始めるようにしたらしい。

 開始宣言を上げた直後、真っ黒の画面だった大型スクリーンが突如未波が映っている映像に切り替わる。


《ドンドンドンドンパフ、パフー! 記念すべき通さんの研修会はじまりはじまり〜! さ、部長様! 前振りをドウゾー》


 未波がそばにある太鼓を叩きながら、千代美に振った。千代美は少し咳払いをしてからこう言う。


「まず、通君。今回はこの科学研究部に入部してくれてありがとう。そして、ルクレチアに協力する上で入ったことには心から感謝している。今回、この研修では表向きで科学研究部として行なっている部活動の内容、その後にルクレチアとしての活動や知識、そして試験を行ってもらう。」

「試験?」

「試験といっても大したことではない。適性検査のようなもので、通君にはどのような立場のコントラクターが向いてるかのテストみたいなものだ。」


 千代美がそう言うが、正直俺は試験というものにはあまり自信がない。というか抵抗がある。搭乗試験のときもなかなか合格できず結局親のコネでロゼッタ学園に入学することになった今の俺には少し『試験』という言葉に対して最近トラウマを持っている。

 その試験で不適合と出てしまったら皆から白い目で見られるないしは迷惑がかかってしまうのではないか。いや、それよりも前に迷惑がかかってしまうことによって良からぬことが起こらないかが心配である。

 俺は気がかりがある原因である神阪の隣にいる谷町に目を移す。やはり冷たい目線で俺に向けているのは相変わらずだ。

 絶対皆に迷惑をかけないように気をつけなければいけない。特に谷町には気をつけよう。少しでもヘマをしたら後で色々難癖をつけてきそうだ。

 俺の不安そうな表情が顔に出ていたのか千代美がこう声をかけてきた。


「安心したまえ。試験をした後に不適合と判断することはまずないさ。仮に適合率が総合的に低かった場合はその分補強する対策もこちらでは整っている。なので心配することはないよ。」


 曇りなき裏表のない笑顔を向けてくる千代美。そして、また思っていることが顔に出てしまう癖が出たのか神阪が横で声を押し殺すようにして手で口を覆って笑っている。

 千代美先輩、励ましの言葉を投げかけてくれたのは凄く有り難いのですが、何だかその笑顔と言葉は逆に気持ちが複雑になります。そして、神阪が鬱陶しく感じる。



 その後、千代美から科学研究部の活動についての説明会が始まった。

 科学研究部としての活動は、結構ごく普通の部活らしいものであった。主にロボット開発を行なっていて、作られた作品は文化祭で展示にて発表される。また、少しお遊び感覚の簡単な実験も行なっているらしい。

 話を聞いていて、科学研究部というものは理数系の集まる難解な部活だと思っていたが、結構気楽にできる部活なんだなと思いながら、俺は千代美が部活動内容を紹介するスライドが表示されている大型スクリーンを眺めていた。

 そして、千代美は一通り科学研究部の部活動紹介を終えた後、ふうと一息をついてから切り替えたかのように、


「それでは、ここから科学研究部の裏の活動ーーールクレチアのことについて説明しよう。」


 と、真剣な顔つきになってルクレチアについての話題に変え出した。

 そして、千代美は突然自分の付けていたマイクロアクセサリーである両耳のイヤリングを外す。

「まず、コントラクターとは我々ルクレチアの隊員のこと。そして……〈サクリファイス〉!」

 千代美は説明しながら呪文を唱える。

 四ツ橋さんがバレッターーーいいや、彼女のマイクロアクセサリーに向けて唱えた言葉と同じだ。千代美は四ツ橋さんのときと同様に制服姿から一瞬で昨日見た迷彩服の姿に変わった。イヤリングの持っていた手はライフルに変わり、そのライフルを手に彼女はこう言う。


「このスピリットウェポンの所有者のことだ。」


 両手でライフルを持ち、キメ顔と決めポーズをとっている千代美。

 谷町がそれを見て横でこう言う。


「その格好、今見せる必要あったんですか?」

「ぬなっ! 大アリに決まっているじゃないか、紫君! ルクレチアとはこのような活動をしているというちょっとしたお披露目だよ、お披露目!」

「部長が変身したかっただけじゃないんですか? マシン・モードになるのはラクロワとの戦闘時のみ以外は使わないようにして下さいね。マシン・モードでマシンスーツに変身するたびにエネルギーが消費されるって未波さんからも言われているでしょう?」

 谷町の厳しい正論で論破された千代美はぐぬぬの謎の呻き声を上げる。そして、ため息をついてがっかりとした表情を浮かべる。


「では、分かったよ。……〈リサシエイト〉」


 渋々千代美が棒読み気味で聞き慣れない新たな呪文を唱えると、先程の制服姿に瞬時に戻った。俺は千代美と谷町の会話の中で、新たな用語が飛び交ってきたので、千代美にこう尋ねた。


「マシン・モードって何ですか?」

「ああ、そうだったね。話が逸れてすまない。まず、マシン・モードとは我々コントラクターがマイクロアクセサリーもといスピリットウェポンを使って変身する状態のことだ。その際は先程私が着用していたマシンスーツという機械型のスーツに切り替わるのだよ。」

「なるほど。……って機械!? 皆が着ていたあの服って機械でできてるんですか!?」

 俺が驚くと、千代美はふふっと笑ってこう答える。

「いかにも。君には信じられないだろうがあのスーツは機械で作られているのさ。これもミス・サウスポートーーー未波さんが設計してくれたおかげなのだよ。」


《いやあ、そんなことを言うと照れちゃいマスねえ〜》


 千代美が未波を陰ながら褒めている横で聞こえていたかのように大型スクリーンが未波の画面に切り替わって未波が照れ笑いを浮かべる。


「では、肝心のスピリットウェポンの話をしよう。」


 そう言って、千代美は大型スクリーンから少し横に置かれていたホワイトボードに黒いマーカーで説明文らしき文字を書き出した。そして、説明文を全て書き終わると次にこう説明する。


「スピリットウェポンとは、我々科学研究部が対ラクロワの武器として開発された科学兵器だ。先程の変形されたマシンスーツと武器を併せて変身できるもの。故に先程私が武装変形したあの姿自体がスピリットウェポンなのだよ。ただ、昨日も言っていたがあの姿のままだと物騒なので普段はこのマイクロアクセサリーとして形を変形している。」

「なんかその説明だけ聞くと凄いですね……変身した姿自体がスピリットウェポンって……。」

「まあ確かにそう思うよね〜。例えていうなら変身ものとロボットアニメの構造が合わさっていて気持ち悪いものに思えるだろうけど、感覚としては変身スーツみたいな感じのものだと思っていいんじゃない? 実際オレらもそんな感じでやってるし、注意点だけ気をつけたら特に何ともないし。」


 俺が間にいう横で、フォローに入る神阪。

 そして、千代美もこう返答する。


「ああ、そうだね。側から聞いたら少し怖いものに聞こえるかと思うが、神阪君が言っているようにこのスピリットウェポン自体は変身スーツみたいな感覚で認識してくれて構わない。ただし、注意点だけ気をつければね。」

「注意点って何ですか?」


 俺は二人の言っていた注意点が気になっていたので、間に質問を返す。それに対して、千代美はこう答える。


「なるべく使いすぎない、使用する際は加減をするように、人には極力見られてはいけない、この三点かな。スピリットウェポンというものは、非常に繊細なもので兵器であるからして消耗品みたいなものだからね。これを使用する際は結構多分なエネルギーを消耗するのだよ。加えて、その状態で戦闘をしなくてはいけないためその分も併せて莫大なエネルギーが消費される。なので、なるたけ使用する際は加減をして、なるべく必要最低限のこと以外には使用してはいけないのさ。」

「それさっき言ってた人が言う台詞ですか。」


 俺が間に思っていたことを鋭い指摘で答える谷町。千代美は図星を指されたかのようにぎくりとし、ぐうの音も言えないというような表情になったが、


「さ、さっきのは通君に紹介しなくてはいけなかったから、必要なことさ!」


 と言って、開き直る。先輩、ちょっと誤魔化したな。しかし、俺は立場上入部したばかりなので下手に責めても先輩が可哀想な気がしたのでそこには触れず、次にこう訊いた。


「二点にはついては分かりましたが、人には見られていけないとは?」

「これは、主に変身する姿を見られてはいけないことだな。昨日も言ったように我々は反黒磯派の者が集まってできているレジスタンスのようなものだ。このロゼッタ学園の生徒達は彼を象徴として絶対視する者がほとんどで、反対派は滅する対象とされている。この世界ーーー特にこの国では日本出身である黒磯誠太郎は絶対の存在であるからな。」

「それで、今回俺にどちらかの二択を……」

「ああ……我々の姿を見た者は直ちに記憶をなくしてもらうか、口止めとしてこの部に入部もといルクレチアのメンバーになってもらうかのどちらかというのはそのためなのさ。ほとんどの者は止むを得ず記憶を消去する措置を行った。」


 千代美が言っていくうちに憐れみの表情を浮かべる。俺は気になって間にこう訊く。


「結構辛いものだったんですね……。」

「あまり気持ちのいいものではないね。まあ相手が死に至る程まではいかないが、自分達でやっていて酷いやり方だったとは思ったことは何度もあるよ。」


 どのようなやり方で記憶を消していたのかは定かではないが他の二人が心苦しそうな表情をしている限り、想像し難いようなことなのだろう。あえて聞かないでおこう。

 そして、次に千代美はこう言い出す。


「しかし、今回君は『ユナイトシステム』を持っているということで君に歓迎を勧めた。昨日の件は色々あったとは思うが、記憶を消すというのはこちら側もあまりやりたくはなくてね……手荒な真似をしてすまない。」

「いえ、いいんですよ。確かにその話を聞くとそんな辛いことをさせたくはなかったですし、俺だって記憶を消されるのは嫌だったので……」


 俺がそう答えると、千代美は安堵した表情になった。そして、彼女は切り替えてこう話を変える。


「ならばよかった。では、改めて次にスピリットウェポンについての生態を説明する。スピリットウェポンは、昨日ダウンロードしたアプリ『R project』で作成できる。作成されると最初は武器のまま現れ、そこからマイクロアクセサリーに変形できたり武器に変えることができる。マイクロアクセサリーをスピリットウェポンに変えるには〈サクリファイス〉と言って起動させ、逆に戻すには〈リサシエイト〉と言って停止する。先程私が使った二種類の言葉だ。」


 途中、千代美はホワイトボードに用語を書いて付け加え、「ほら役に立ってただろう」とでも訴えるかのようなドヤ顔を谷町に向ける。それに対して谷町はアイコンタクトで通じたのか、はいはい、と呆れた様子を見せる。

 続けて千代美はこう説明を続けた。


「また、この『R project』は武器作成以外にも様々なことができる。ラクロワの位置情報や未波さんから送信されるラクロワらのデータ情報、武器錬成や強化システム、メンテナンスや通信等、ラクロワとの戦闘時はこれで一括で使用できる。『R project』は、対ラクロワとの対戦では必要なアプリだ。これからルクレチアの一員として活躍する上で最も重要になってくるだろう。」

「便利なアプリなんですね。だけど何だかアプリで武器とか作れるってどんな感覚か今ひとつ実感が湧かない……」


 俺がそう呟くと、未波が間に入るようにしてこう言う。


《大丈夫デス! やればなんとか実感が湧きます! この研修の最後に『R project』で通さんの武器を生成する儀式が始まりますので楽しみにして下さいね!》


 俺は少しぎょっと驚いてしまった。儀式って大層すぎないか。すると、千代美は彼女の話を聞いて苦笑いする。


「儀式は大袈裟ですよ、未波さん。だが、今回この『R project』で武器生成ができるのは事実だ。最後に行うので通君もしかと実感すると良いよ。」

 

 そう言った後、千代美は次に改めてこう説明を続けた。


「それでは、次にユナイトシステムについて説明しよう。ユナイトシステムとは、かつてこの科学研究部によって選ばれた男性にしか使えない伝説の発明品だ。なぜ男性にしか使えないかは分からないのだが、我が校は女生徒がほとんどなのでこの腕輪は長い間封印されていたのだ。」


 千代美の説明の横でふと自分のマイクロアクセサリーである腕輪を確認する。

 昨日はあまりまじまじとは見たことはなかったが、改めて確認すると銀色の金属で形成されている真ん中の赤い宝石は、ガラスのように透き通ってはいるものの真っ赤な深紅色で、少し引き込まれそうになる。


「……この腕輪ってそんな凄いものなんですね……」

「ああ。しかし、今回……君がこのユナイトシステムが使える選ばれた男性だということが分かったのだ。」


 そう言いながら、千代美はつかつかと俺の元へと近寄る。そして、千代美は両手で俺の顔を近づける。やたらと妖艶な目で彼女は見つめ、キスする直前のように顔を近づけてくるので思わずこちらも顔が赤くなってしまう。


「ち、千代美先輩……? 顔が近いですよ……?」

「私には人を見抜くアビリティーを持っている。私はこのアビリティーで君を見つけた。」


 そう言った後、千代美は俺の元から離れた。

 危なかったーーー自分の理性がぶっ飛びそうになるところだった。


「あ、アビリティー……?」

「アビリティーというのはコントラクターになると持つ能力のことだ。このアビリティーには、二種類あって間接的に元から身につけているオリジナル・アビリティー、能力を武器として使用できる、すなわち魔法や超能力のように操作できるアクティブ・アビリティーが存在する。私のこの能力や皆がほとんど身につけているものは元々持っているオリジナル・アビリティーがほとんどだ。私のオリジナル・アビリティーは、目を見て相手の能力を見抜くことや相手の居場所を突き止めることができる能力なのさ。だから通君の能力を見抜くことができたんだよ。」


 そう真面目に説明する千代美。

 なるほど。ということは、さっきの行動は先輩のオリジナル・アビリティーである目を使っていたということだったのか。納得はしたが、彼女は突然積極的に迫ってくるから何かと心臓が悪い。

 俺がどぎまぎする横で谷町は千代美の行動をいつも知っているのか頭を抱えて呆れ、神阪はにやにや笑っていた。

 しかし、そんな俺らには御構い無しに千代美は説明を続ける。


「ちなみにこの間、ユナイトしたことによって、彩乃君を強化することができたのだが、これは実は初期段階で、さらに強化できる形態がある。それがユニオンだ。」

「ユニオン……?」

「ユニオンとは、コントラクター同士でユナイトすることで変形できる合体形態だ。」

 千代美がそう言った後、大型スクリーンの映像が未波が映されていたものから機械設計図のような画面に切り替わる。


《ユニオンを形成するには、スピリットウェポン同士を接触するユナイトシステムを使って発動しマス。発動後、ユニオンが形成され、その形態は言わば大型ロボットみたいなものが完成されマス。このユニオンは、本来のコントラクターが持つ力の進化形態デス。故にユナイトシステムを使ったことによりさらにコントラクターの力がパワーアップするのデス。例えていうのであればーーー現在目の前に写っている機械設計図のロボットみたいなものが完成されます。》


 未波の説明を聞きながら機械設計図の完成されたロボットに目を移す。

 背中に羽のような翼を持った真っ赤な機体だ。恐らく、ユナイトシステムを使うとこのようなロボットが形成されていくのだろう。


《まあ、これは飽くまで一例デスが。ユニオンは、コントラクターによって形態が色々ありますからね。それと……ユニオンは実はある条件を実行することでさらにパワーアップすることができる三段階システムとなってるのですが……この方法はまだ通さんには早すぎますので追々説明しますね。》


 説明しながらなぜかにたりとした笑い顔を浮かべる未波。加えて、三人の様子もどこか異様に感じるのは気のせいだろうか。特に谷町は顔を俯いている。

 少し周囲の様子が気になったが、一旦そっとしておくことを選んだ。

「じゃあこれからコントラクターになったらそのユニオンが使えるんですね。」

「そう、本来なら、ね……」

 千代美が饒舌で喋っていたのが突如口ごもる。加えて、苦笑いしてどこか上の空を向き、顔をポリポリと掻いている。

「あ、あの……本来ならとはどういうことですか?」

 俺が質問すると、千代美が何か言いたげではあるのかうーんと唸り出す。

 すると、未波はヨヨヨと分かりやすい作り泣きを浮かべる。


《確かに本来ならユニオンはコントラクター同士でユナイトすることで完成されるものなのですが……通さん、あなたにとって非常に残念なお知らせがあります。》


 そして、未波は重い口を開いたかのように千代美の代わりに説明する。


《通さん、あなたはユナイトシステムは使えるのですが、コントラクターには現段階ではすぐにはなれないんデス。コントラクターというのは、本来ならばスピリットウェポンを持ってようやくコントラクターとして認定されるのデス。しかし、その前に手順としてこの科学研究部及びルクレチアに加入して手始めに研修した後、そこからスピリットウェポンを生成する前に先に『R project』で【仮武器(かりぶき)】を生成しなければいけません。【仮武器】を生成した後に先輩コントラクターの方に十分な指導を受けてもらい、そこから【仮武器】からスピリットウェポンにパワーアップできるーーーつまり、コントラクターになるのには時間がかかるということなのデス。》

 

 珍しく未波が真面目に説明した後、谷町が間に入ったかのように補足する。


「未波さんの言ってることは本当よ。コントラクターは、このルクレチアに入ったことで【仮武器】から生成し、歴代コントラクターに教えてもらい、それから指導者に認められた上で【仮武器】からスピリットウェポンに進化させた上で正式にコントラクターになれるの。これは、代々からこの部で受け継がれてるものよ。」


 未波と谷町が代わりに解説したので、千代美はぐうの音も出ないとでも言うかのように冷や汗をかきながらこう言う。


「未波さん、紫君、言いにくいことを代わりに言ってくれてありがとう……まあ、そういうことだ。通君。なので、君には申し訳ないがコントラクターになるまでは長い目で付き合ってほしい。」

「え……? じゃあつまりそれって……」


 俺が逆に未波に聞き返そうとしたときに彼女はニコッと笑い、こう答える。


《しばらく通さんにはユナイトシステムのみ使えるアッシー君として活躍してもらいマース♪ ですが、安心してクダサイ! 通さんはユナイトシステムを使えるという利点がありますのでユナイトを極めていくと先にユニオンが完成されるところもできてくると思います。なので、順序は少し違ってきますが通さんの場合はユニオンをどんどん作っていったらコントラクターになる確率がぐんと上がるので、ひたすらユナイトシステム使いまくるのデス!》


 何ということだ。要するにコントラクターになるまでは、それって半分役立たずみたいなものじゃないか。というかユニオンを完成させることの方が先って俺の扱いってどうなっているんだ。

 俺が途方に暮れていると、駆けつけた足音が聞こえ、誰かが部屋に入ってきた。


「練習長引いた〜……」

「先輩、遅れてすいません! 研修どこまで進みましたか?」

 

 つるみと四ツ橋さんだ。つるみは吹奏楽部の練習で疲れ切っている様子を浮かべ、四ツ橋さんは急かした様子で千代美に何かを尋ねている。


「おお、二人とも。ちょうどよかった。そろそろ最後の試験のところにいくところだよ。」


 彼女の答えを聞いて四ツ橋さんは、ほっと胸を撫で下ろして安堵する。つるみはよろよろとふらついた状態で空席だった神阪の隣へと移動していた。四ツ橋さんも同様に空席だったつるみの隣に座る。

 千代美は、「揃ったね」と一言添えてから次にこう言い出した。


「それでは、いよいよ最後の項目である試験を開始する。通君、昨日ダウンロードした『R project』を開きたまえ。」


 俺は頷いてコマンスフォンを呼び出す。

 そして、ダウンロードしたばかりなのか一番右端に置き去りになっていた『R project』を開く。しばしの間、『R』と書かれたロード画面が続いていた後、淡い緑と白の色合いのトップページに切り替わった。


「……開きました。」

「よし。では通君、今そのトップページに『クリエイト』と書かれたボタンがあるだろう。」


 千代美に尋ねられた俺はトップページ画面を再び確認する。

 その画面には色々な項目が並んでいたが、一番上に『クリエイト』と書かれている文字を見つける。


「はい、あります。」

「今から君には『クリエイト』ボタンを押し、【仮武器】を作ってもらう。」


 千代美が俺にそう指示する。俺は未波が先程言っていたコントラクターになる前にやる【仮武器】を作ることを思い出し、緊張で唾を飲んだ。


「さっき未波さんが説明されていた【仮武器】……ですか。」

「ああ。その【仮武器】だ。【仮武器】を持つことで将来の君のコントラクターの可能性がどのように進展するか分かる適性テストみたいなものだ。そして、スピリットウェポンの前身となる【仮武器】の種類で、今後の君の指導者が決まる。」


 そう千代美が答えた後、突然つるみ以外の部員の皆が席から立つ。そして、次に千代美が説明を続ける。


「【仮武器】は、現在所属しているメンバーの武器の元から選ばれるので、現在通君が決まる可能性のある武器は、剣、メイス、(つち)、銃のどれかから選ばれる。剣の場合は紫君、メイスの場合は彩乃君、槌の場合は神阪君、銃の場合は私が指導者を担当する。ちなみにつるみ君は最近コントラクターになったばかりなので今回の件については除外対象だ。」

「基準みたいなものがあるんですか。」

「ああ。指導者になるにも実は入部期間というものも影響されていてね。例えば、同じ二年でも彩乃君や紫君は一年の四月から、神阪君は二学期の九月から入部してるが、つるみ君の場合は三学期の二月になってから入部したからね。指導者になるには、最低でも三ヶ月以上、科学研究部に所属した者が該当されるんだよ。」


 千代美が説明する横でグロッキーになって倒れていたつるみの反応がぴくりと動き、こう呟く。


「なんか部長が天然で言ってるって分かっていても馬鹿にされているように聞こえる気がして複雑……。」

「つるみちゃん、考えすぎ。まあつるみちゃんは、二学期の初めにオレらが戦闘しているところを見てから入部したからね〜。でも、もし交野の【仮武器】が槌になったら交野がつるみちゃんの後輩になるんだよ!」

「なるほど……お兄ちゃんが後輩……ちょっと優越感になれるかも?」


 神阪とつるみが雑談する一方で、千代美は続けて説明した。


「ああ、ちなみにつるみ君の指導者は神阪君なんだよ。【仮武器】が槌だったからね。現在の彼女のスピリットウェポンであるハットチェットは、【仮武器】から錬成されたものなのさ。スピリットウェポンの形成についてはまだ先だからまた今度説明しよう。」

「分かりました。ありがとうございます。」


 なるほど。だからつるみと神阪はあんなに仲良くなったのか。先輩と後輩ーーーいや、あの二人は同い年だけど、そういう二人が恋愛関係になるというのはよくある話なんだろうな。

 俺も【仮武器】がメイスになれば四ツ橋さんと仲良くなれる機会が作れるだろうか。

 俺はちらっと彼女を見た。すると、四ツ橋さんは視線に気づいたのか俺に輝かしい笑顔を向けてきた。まるで天使のようだ。

 ただの愛想だとは分かっていても、何としても【仮武器】をメイスにするようこの『クリエイト』ボタンに賭けよう。


《ちなみに指導者になった方は、同時に通さんとの最初のユナイト練習相手にもなっていただきマス! なお、槌になったらつるみさん、通さんの先輩として京司さんの代わりにあなたが練習相手になってもらいマッス!》


 未波が生き生きと指差しし、つるみはそれを聞いて驚いて起き上がる。


「へ!? あたしがお兄ちゃんの練習相手!? なんでよ〜、絶対にいや〜!!!」

「仕方ないよ、つるみちゃん。一応ルールなんだからさ。」

「そうだって分かってても……お兄ちゃんとユナイトするなんて絶対にいやだああああ!」


 つるみが情けなく大泣きし、神阪は困り顔で宥める。すると、それに反して未波はケケケと奇妙な笑い声を発した後、こう言い出す。


《我儘はイケマセーン! これは顧問代理命令デースよ!?》


 未波さん、そう言いながらなんかめっちゃ嬉しそうだ。ある意味ドSの領域である。

 それにしてもこのユナイトシステムのルールってどうなっているんだろうか。

 部員の皆は、俺より先にユナイトシステムについて学んでいたみたいな会話がチラホラ耳にするが、槌になったら指導者は神阪だがユナイト相手はつるみってどういう基準なんだろう。単純に先輩コントラクターは二人いるから指導者係とユナイト相手係は分けてねってことだろうか。それにしてはつるみよ、拒絶しすぎやしないか。そんなに俺とのユナイト相手が泣き叫ぶほど嫌か。

 そう思っていると、未波はさっきのつるみをからかうときのテンションの高さで俺にこう振り出した。


《さあて通さん、そろそろメインイベント始めちゃってくださいな! 『クリエイト』ボタンをクリックしたらすぐに武器生成が開始されマース!》


 待ってくれ。そんな簡単に出てくるものなのか。そうすると、この『クリエイト』の文字のボタンがだんだん怖くなってきた。

 どんな感じで作られるのだろうか。もう押したらものの数秒で【仮武器】が出てくるのか。もし、そうならば少し気を張って臨まなければならない。

 【仮武器】生成ーーー少なくとも剣だけは絶対避けたい。あの氷の谷町だから。つるみがなんか槌にしたら狂ったように泣き崩れていたのがなぜか気になるから槌も出来るだけ避けた方がいいのだろうか。そうなると、とりあえず無難に千代美先輩の銃か四ツ橋さんのメイスであってほしい。

 俺がそんな思考を巡らす横で、千代美は笑みを浮かべてこう言った。


「通君、準備が出来たらクリックしたまえ。」


 彼女の顔を見た俺は、不思議と少し緊張が解けた。

 この感覚ーーー昨日俺が初めて四ツ橋さん達が戦っているところを見て狼狽えていたところに颯爽と現れた千代美先輩の感じと似ている。あのときの先輩は凛としていて、非常に頼もしいように見えた。そして、今浮かべている彼女の微笑みもそのときと同じ。先輩のその笑顔は勇気をくれる気がしたんだ。

 俺は彼女のその顔を見て、自信を持って『クリエイト』ボタンをクリックした。


 すると、途端に新たなロード画面が現れた。

 先程のトップ画面に移るロード画面と違い、銀色の背景に白い文字でロードパーセンテージが表示されているものに切り替わり、武器生成するのに時間がかかるのかゆっくりとパーセンテージの数字が動く。しばらくして90パーセントになった途端、秒速で100パーセントの完了画面に移り、『武器生成完了』の文字が浮かぶ。

 その後、目の前に白い光が現れ、その光に包まれて武器が現れた。俺は武器を確認する。


 現れた【仮武器】は、最初に柄から姿を現し、徐々に刃を見せていく。簡素ではあるが、ナイフにしては大きく刀にしては小型サイズのレイピアのようなものが出てきた。

 ということは、つまりーーー、


「おめでとう、通君! 君の【仮武器】は剣だね。指導者とユナイト相手は紫君になる。お互いに初めてのパートナー同士となるから仲良くするようにね。」


 俺が認識する前に千代美は何の悪意もないにこやかな笑顔でトドメのような一言を投げかけた。



 ぎょっとして驚く俺と、同じようにして血の気が引いて青ざめる谷町をよそにして。




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