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04. ハプニングはいつも突然に


 いよいよ待ちに待った放課後がやってきた。ホームルームを終えた俺は真っ先に教室から出て二年棟の入口までたどり着いた後、食堂前の部員歓迎の集まりを確認する。やはり、神阪の情報通り部歓迎はやっていた。そうなると、四ツ橋さんは多目的室か生徒会室にいる可能性が高い。ひとまず、多目的室と生徒会室を探すために俺は近くに貼られていた校内地図版を見ようとするとーーー


「おーーーーにーーーーーいーーーーーちゃあーーーん!!!」


 自分の目の前に長身の女が鬼のような形相で駆けつけて突進してきた。俺は圧力に負けて思わず後ろに転んでしまう。


「いたたたた……何するんだよ、お前。」


 派手に転んでしまったものなので俺はそう訴える。訴える対象は、長い髪をカチューシャで額が見えるぐらいまでにまとめ上げ、首に『募集中』とホワイトボードを垂らして体操服を着ている細身で、俺と身長があまり変わらないくらいの長身の少女ーーー交野つるみ、俺の双子の妹である。


「やっと見つけたわ! お兄ちゃん、あたしお兄ちゃんに謝ってほしいことがあるの!」

「な、何……? むしろ謝ってほしいのは今お前にぶつけられたこっちなんですけど……」


 俺は原因不明な怒りを俺にぶつけている理不尽な妹に逆に質問する。


「お兄ちゃんのせいであたし、近藤先生に交野妹って変なあだ名つけられたじゃない! それまではずっと普通に『交野』だったのに交野って同じ学園に二人もいるからややこしいって区別化されて早速先生にそう呼ばれたのよ! おまけに他のみんなからも『妹の方の交野さん』だとか言われたのよ! どうしてくれるのよ!」


 そう至極どうでもいい理由を怒りながら答えるつるみ。どうもこうもそれは近藤が勝手につけたあだ名だからどうしようもないと思うのだが、ここで反論しても感情論で押し通すこいつには通用しないだろう。

 地図版がつるみのどでかい体で邪魔になって多目的室と生徒会室を確認できない。どうしようか。そう思っていた矢先、遠くの方からつるみと同じように体操服を着たショートカットの女性が声をかけてくる。


「おや? つるみ、どうしたの。」

「あ、額田(ぬかた)先輩!」


 これは助け舟だろうか。それとも新たな邪魔だろうか。とりあえず怒り心頭の妹の気が逸れたのは有難い。額田先輩、恩に切ります。すると、額田という女性はつるみの隣にいた俺にいきなり近づいてじーっと俺の顔を見る。


「ふむふむ、これが噂の交野通君ね。よく見たら、つるみと顔がそっくりね! 二卵生なのが信じられないぐらいだわ。」


 俺の顔ってそんなにつるみに似ているのか。少なくとも背はあまり変わらないーーーというか、俺がつるみに追い抜かれそうなぐらいの身長ではある。しかし、容姿についてはどうだろう。つるみの方はよく可愛いと周りに言われていたが、俺については何も言われていないので至って凡人の顔だと思っていたのだが、彼女は視力が悪いのだろうか。それを察したのかつるみもあり得ないというような顔をし、

「どこがそっくりなんですか! 全然似てませんよ!」

 と、額田に返す。つるみにはっきり言われるのは癪だが俺も彼女の意見には同意である。


「似てますかね、俺……?」

「似てるよー、特に背と顔が。さすがに体型までは……似て……なくも…………いや、似てないかな!」


 額田はつるみの平地のような体型を見ながらそう言う。


「先輩、どこ見て言ってるんですか? 今お兄ちゃんに言ってるんですよね?」

「う、うん、そうだよ? いくらそっくりだからって体型までは似てるわけないじゃないー。やだなあ、つるみったら。」


 誤魔化すように苦笑いをしている額田。どう見ても言い訳しているようにしか見えない。


「先輩、気を使わなくて結構ですよ。そいつ元々ひん……ぐえっ!」


 俺が額田にフォローしようとしたとき、つるみによる鉄拳が俺に降りかかってきた。


「どうせあたしはまな板ですよ! 昔なんていつもお兄ちゃんと一緒にいると小学生の時まで弟と間違われたから中学になって頑張って髪を伸ばしたのに体だけ……」

 自分で言っていくうちに自己嫌悪に陥り、落ち込んでその場で体育座りして顔を埋めるつるみ。額田は慌ててつるみを励ます。

「つるみ、大丈夫よ! あなたはその分、スレンダーでモデル体型なんだから胸のちょっとやそっとなくたって気にしなくていいって!」

 多分、胸に来るはずの栄養が身長に来たんだと俺は推測するが、これ以上言うとまたつるみに何されるか分からないし本人も傷つくだろうからそっとしておこう。というか額田先輩よ、それはフォローになっているのか。

 そのとき、俺はふと額田の持っているチラシが『吹奏楽部、部員募集!』という文字に気づいた。


「つるみと先輩って、吹奏楽部なんですか?」

 そう俺が質問すると、額田は俺に向き直してこう言ってきた。

「そうなのよ、交野君。私達、吹奏楽部をやっているの。今特訓込みで部活宣伝中ー。よかったら入部しない? 交野君も入ってくれたら交野兄妹揃い踏みーって感じで吹奏楽部のウリになるし!」

「お兄ちゃん体力ないから多分無理だと思いますよ。」


 横で小言を言うつるみに「こら、そんなこと言わないの」と額田は軽く注意する。


「お前……ことごとくいらん事を……。けど、先輩すいません。俺、実は他にも回っているところがあって……気持ちだけ受け取っておきます。」

「あら? もう何部にするか決まってるの?」

「はい。多分……演劇部?」


 額田がどの部活にするか尋ねてきたので咄嗟に俺はまだ未定の出来事を口にしてしまった。額田は相槌を打って納得する。


「なるほど、もうとっくに決まっていたのか。演劇部だったら多目的室で新歓の練習してるよ! 確か多目的室は第一別館の中かな。」


 つるみのでかい図体のせいで見れなかった多目的室の居場所が聞けて助かった。


「ありがとうございます! つ、ついでに生徒会室にも少し用があるんですけど……どこか分かりますか?」

「生徒会室? それなら本館の三階だった気が……」

「ありがとうございます! じゃ、すいません! まず多目的室に行ってきます!」


 額田から両方の居場所を聞けたので、俺は真っ先に多目的室に向かうため額田の「いってらっしゃーい」という言葉を後にして、彼女とつるみに別れを告げてその場を去った。





 二年棟を離れ、額田の言っていた第一別館にたどり着く。そこから階段で最上階である三階まで登ると、多目的室があった。

 少し覗くと、そこには演劇部員達が劇の練習をしていた。恐らく新入生歓迎会の催しのための劇であろう。しかし、一通りの部員を確認してみたが、肝心の四ツ橋さんがなぜかいない。これ以上覗くと、部員の一人に勘付かれてしまったら困る。俺は多目的室を離れ、階段を降りていった。


「あれ? 通ちゃん?」


 一階の方からトーンが高く、おっとりとした口調の女性の声が聞こえる。

 声の主を辿ると、そこには制服に羽織を背負い、光に反射すると桃色がかった赤髪で姫カットのロングヘアーを持つ少女がいる。千日桜(せんにちさくら)ーーー俺の幼馴染だ。


「桜!?」

「やっぱり通ちゃんだ! 久しぶりだね!」


 俺の顔を見て喜ぶ桜。

 彼女は、中学生の頃までつるみと共に三人で一緒だったが、受験勉強になったときから徐々に疎遠となり、俺の環境面もあってなかなか会うことができなかった。まさか、ロゼッタ学園に入学していたとは知らなかった。

 桜は俺のところまで階段を駆け上がり、ぱたぱたと足音を立てて近づいてくる。


「通ちゃん、ロゼッタ学園に入学してたんだね!」

「ああ、お前もロゼッタに入学してたなんて知らなかったよ。つるみから何にも聞かされてなかったから。」

 俺がそう言うと、桜は苦笑いでこう答える。

「多分……さくらとつるみちゃん、お互いにクラスが違うかったから会う機会がなくてあえて言ってなかったんだと思う。さくらはつるみちゃん入学してたの知ってたんだけど、つるみちゃん一年から吹奏楽部だったから忙しいかなと思って……」

「確かに……吹奏楽部って体力づくりしなくちゃいけないから大変なのよーってあいつLINEで言ってたな……。」

 つるみ(あいつ)はストレスが溜まるとヒステリックなところがあるから、大人しい桜は気を使って声をかけなかったんだろうな。大体は想像がついた。


「何だかごめんな。気を使わせて……。」

「ううん、気にしないで。つるみちゃんと離れてもこっちでも友達いるから寂しくないよ。それに……通ちゃんがいてくれるなら、さくらはそれで……」


 そう羽織の袖口で隠れた両手で口を覆ってふふっと嬉しそうに笑う桜。途中で何言っているか聞き取れなかったので本人に聞こうとすると、なぜか真っ赤な顔して慌てて、


「ふぇ!? なななななんでもないよ!? とりあえずつるみちゃんのことは全然平気だからっ!」


 と、返答が返ってきた。そして、改めて桜はこう尋ねてくる。

「ところで、通ちゃんはこんなところで何してたの?」

 顔に人差し指を添えて、首を傾げる桜。四ツ橋さんに会いに演劇部を覗いたけど、四ツ橋さんいない上に生半可な気持ちで覗いてたから引き返したなんて言えないよなあ。

「えーと……部活の見学かなあ。」

 俺は無難な答えを選んだ。すると、桜はこう言ってきた。


「そうなんだ。確かにここの階って三階は演劇部が練習しているもんね。さくらもこの別館の二階で茶道部やっているの。通ちゃんもよかったら見に行かない? 案内するから。」


 瞳をキラキラと輝かせて俺を見つめる。桜が歓迎してくれるのは有り難いのだが、ここで茶道部見学をしたら肝心の四ツ橋さんに会えなくなってしまう。桜には申し訳ないがここは断ろう。

「ごめん、この後ちょっと用事があるからまた今度にするよ。」

「そっかぁ……」

 桜はしゅんとしょげてしまう。罪悪感に苛まれてしまった俺は思わず、

「とりあえず、茶道部のことはまた考えておくから。」

 と言ってしまった。すると、眩い笑顔で俺を見て「うん」と元気よく返事をして、俺に手を振った。手を振る桜を背に俺は別館を出て、生徒会室のある本館に向かうことにした。





 第一別館から引き返して本館にたどり着いた俺は、階段で三階まで登り生徒会室を探す。結構近くに生徒会室は見つかったので、生徒会室に近づき、ドアを開けようとした。しかしーーー、


「あれ? 誰もいない?」


 ドアの隙間にある小さいガラスを覗くと、案の定、四ツ橋さんがいなかった上になぜか誰もいなかった。教室の電灯はついている。誰もいなければ普通は鍵が閉まっているはずなのだが、ドアを開くと鍵も開いている。たまたまなのかもしれないが、誰もいないのに鍵もつけっぱなしで教室が開放されているのは無用心だな。

 そう思っていると、「きゃあ」と短い女性の悲鳴が聞こえた。振り向くと、紫がかったような長い黒髪をハーフアップに結っている少女が俺を見ていた。


「あなた、今日転校してきた交野通君よね。こんなところで何をしているのかしら?」


 そう言いながら、少し後退りして蒼白な顔を浮かべている。心なしか若干口が引きつっているように見えるのは気のせいだろうか。この学園は男が少ないのかやはり男が一人転校してくると目立つものなのか。その目立った奴が目立った行動をすると良い意味でも悪い意味でも注目されてしまう。ましてや生徒会の人間だ。悪い情報が出たら絶対後戻りできない。とりあえず何か答えよう。


「え、えーっと……人を探していまして……」

「人探しでそんなにまじまじと生徒会室を眺めるものなの?」


 黒髪の少女はジト目で俺を睨む。俺はそんなに真剣に覗いているように見られていたんだろうか。


「その、生徒会の人に用がありまして……四ツ橋彩乃さんって、どこにいるか知りませんか?」

「彩乃に何の用なの? ま、まさかストーカーじゃないでしょうね!?」

「なぜそういう結論になる!? 確かに四ツ橋さんは可愛いし人気者みたいだし高嶺の花って噂されるぐらいの人だけれど……ってか、ここ女子校なのにそもそも普段からストーカーっているのか!? そりゃ彼女のことは気になっているけど、別に不純な目的は……っ!?」


 俺は心で思っていたことを直接口に出してしまった。そのまま口を両手で塞ぐが少女は蒼白な顔から怒りを露わにし、どこから出してきたのか警棒を俺に向けてきた。


「よく分かったわ。要するにあなたは彩乃をふしだらな目で見ていたってことね。」


 黒髪の少女は、先程とは打って変わって般若のように恐ろしい形相で俺に標的を定めて俺の顔面に近づいてくる。俺は思わず彼女の威圧感に負けてしまい、腰が引け足は後ろに引き下がり、完全に壁際に追い詰められた状態になった。そして、左手で壁をドンと叩きつけ、警棒を振りかざす。


「彩乃には指一本触れさせないわよ!」

「誤解だ誤解! 俺は全然、四ツ橋さんをそんな目で見てないよ!?」



「どうした、谷町(たにまち)。」



 俺と少女が口論をしていると、少女の後ろから落ち着いた男性の声がした。声のする方を確認すると、教師ではなく同じ生徒会の者なのか俺や神阪と同じ白ランを着ている青年だった。

 肩まで真っ直ぐつくぐらいの金髪で、外国人のような端正の整った顔立ち。長身ではあるが中性的な外見をしているので、ロゼッタ学園の女生徒と並べると女性と間違えるかのような麗しい容貌だ。

 谷町と呼ばれた少女は、ハッと気がついて彼の方を振り向く。


「会長!? 聞いてください。彩乃のストーカーがやってきて……」


 谷町は、理性を取り戻したかのように顔色が変わった。とりあえず助かったのか。しかし、生徒会長か何だか知らないがイケメンとは得をする生き物である。あれだけ怒っていた谷町をここまで正気に戻すなんて、同じ学園の男子でも俺や神阪と生きる世界が違うな。

 そう思っていると、金髪の青年は凛とした瞳で俺に眼力を向けてくる。まさかこの青年も谷町と同類なのか。そう恐れていると、また谷町の方へ向き直す。


「先程彼が言っていたように本当に誤解ではないのか?」

「そんなはずはないです! だってこの男、生徒会室を覗いてたんですよ? ロゼッタ学園(うち)の生徒でもたまに熱心な信者みたいなファンがいるのに男子が初日からここに覗くなんて怪しすぎますよ!」


 今君と話している相手も俺と同じ男子生徒だろう。それにしてもこの学園にも四ツ橋さんのストーカーは女生徒でもいるのか。四ツ橋さんも厄介な人間にからまれているものだ。しかし、そんな谷町に初日から厄介なストーカー扱いされる俺はやはり同罪になるのだろうか。男というだけで変態扱いされるのは何か違う気がするが、それを谷町に言っても頭が固そうだから聞いてくれなさそうだ。


「男子というだけでその偏見は良くないぞ、谷町。彼は何か用件があるから恐らくここに尋ねてきたのだろう?」

「うっ……それは……」


 後ろめたく感じたのか谷町は冷静になって考え直して「確かにそうかもしれないです」と反省をし出した。何という説得力だろうか。完全に谷町の方が劣勢である。この青年は美形であると同時に人徳者でもあるから生徒会会長に選ばれたのだろうと思うと納得がいく。そして、彼は改めて俺に向き直し、

「用件を聞こう。君は何をしに生徒会室に来た?」

 と尋ねてきた。俺は率直に答える。


「四ツ橋さんを探していたんです。」

「そうか……四ツ橋なら第二別館の理科室に向かっている。」

「ありがとうございます!」


 俺は彼に礼を言って、急いでその場を去った。親切な会長さんのおかげで助かった。





 第二別館にたどり着いた俺は、各所に貼られている案内板が近くにあったので確認する。


「理科室理科室はっと…………三階か。」


 そのとき、一階の階段から誰かが駆け上がったかのような人影が見えた。俺は急いでその階段を登る。人影の向かう場所は二階を通過したので、恐らく三階だということが登りながら分かる。人影は三階を登るとどこかへと急いで走っていく。俺も三階に着いたので、人影の方向へと視線を向けた。


 そこには、俺の探していた人ーーーー四ツ橋さんが理科室の前にいた。

 俺は声をかけて近づこうとしたが、四ツ橋さんは自分のバレッタを取り外し、そのバレッタに向けるようにして、


「ーーーー〈サクリファイス〉」


 と、呪文のように呟く。すると四ツ橋さんは制服とは違う格好に変わった。スカートの丈が少し短いチャイナ服のような格好をしている。加えて足には踵の先に棘がある長靴に鋭い爪がついているナックルのような武器を手に見つけている。そして、彼女はガラッと窓ガラスを開け、そのまま飛び込んだのだ。

 突然の行動に驚いた俺は思わず理科室の前に駆けつけ、彼女の開けた窓際の外を確認した。



 彼女は、黒い装甲で覆われた顔が青白い男性を空中から回し蹴りで向かっていたのだ。



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