03. 四ツ橋彩乃という少女
その後、神阪には少し長めの休憩時間を要して、色々なところを案内してもらい、ロゼッタのカリキュラムについても教えてもらった。その道中で見たのは、ドーム状で出来ている体育館や今朝方も確認したホログラム状の植木や草花。校門から少し離れたところに大きめのドールハウスのような飼育小屋があり、その中には『シャラパン』と呼ばれる新種の動物がいた。耳と体型はウサギ、顔つきは猫のような外見を持ち、尻尾は狐のようにふさふさとしている小型動物である。この動物はテレビでも見たことがあるがルディーユが人工的に開発した動物型のAIとして世間一般では話題となっている。シャラパンは、本来ならばまだ開発したばかりで極小のため、一般ではまた飼育することが出来ず動物園にも存在しないが、ロゼッタは理事長である黒磯が発案者であったことから理由に飼育小屋で飼われているとのことらしい。
また、体育は基本的な運動について学ぶのは実は中学までらしく、高校からはラヴィオプーペを搭乗しての実技訓練が主となっている。これは、高校卒業後にこの新出島から離れてサクレらが『本州』へ上京し、大学生活を送るか就職等の活動をするために必須条件となっているらしい。しかし、搭乗実技だけでなく、軽い遊びのようなものも存在し、それが体育館を使ってのe-Sportsである。
かつて、西暦の時代ではe-Sportsというものは、結構ハードなものであり、あまり一般的には出回っていなかったが、時代が変化していくにつれて以前より簡略化され、今では軽い運動として皆に愛されている。そのためか、学校でも実技の一つとして採用されている。
そんなこんなで、神阪から色々教えてもらっていくうちにあっという間に昼休憩の時間となった。
二年棟を出て渡り廊下を少し歩き、本館の隣に大きな食堂がある。俺は神阪に案内されてその食堂に着くと、入口前にレストランで前看板して建てられているようなメニュー表が目の前に置いている。入口から入ると、タッチパネル式の食券販売機が3台ほど設置されている。さらに奥まったところに覗くと、食堂のオーナーと補佐らしきルディーユが二人、後はほぼ俺達と見た目が変わらない人間型の従業員ロボットが数人で調理したり受付をしている。
かつて父の聞いた話によると、一般的な食堂というものはメニューを見て、食堂の従業員に注文し、注文したものを受け取るという方式をとっていたそうだが、現在の食堂の方針は変化している。
まず、入口に入ったところのタッチパネル式食券販売機に行き、投入口に紙幣や硬貨を投入したら、メニューが表示されるので好きな商品を選択し、注文ボタンを押す。その後、店内のカフェテリアの通路に入っていき、最終受付である注文口までたどり着いたら、従業員ロボットのスタッフから商品を受け取って食事をする流れとなっている。
西暦時代まで接客業や製造業、介護職等はルディーユが行ってきたが、現在科学が発展した機動歴になってからはそういったルディーユにとって億劫だった仕事は黒磯氏の方針によって全て彼らのような専用ロボットに任せるようになり、代表指示者等のみルディーユを残して人員を調整するようになったらしい。要するに彼のおかげでAIやロボットが急速に進化していき、今では性能がほぼ人間と同じ対応をするようになっているのである。便利な世の中になったものだ。
商品を受け取った俺達は席に座り、食事をすることになった。それにしても、神阪は一見チャラい割には塩サバ定食を注文するとは食の好みが渋いな。
「お前、好み変わってるな……。」
「え? やだな〜、大人って言ってよー。交野はハンバーグなんてベタだねえ〜」
サラッと笑顔で毒を吐く神阪。悪かったな、普通で。というか、ごく平均的な一般男子は皆ハンバーグかからあげが好きなものだと思うのだが。
「さってとー、食べながら本題に移ろうか。四ツ橋彩乃についての情報を教えるね。」
そうだ。肝心なことを忘れていた。神阪に四ツ橋さんのことを聞くんだった。俺は胸を躍らせながら彼の話を聞く。
「四ツ橋彩乃もとい四ツ橋さんは、さっきもオレが言った通りこのロゼッタの中でも高嶺の花の存在でね〜、所謂清楚なお姉様キャラと慕われていて先輩や後輩からも好かれる学園のアイドルって感じの人なんだよ。それが通じて彼女には『ロゼッタの姫』という二つ名があるんだ。ちなみに部活は演劇部と科学研究部をかけもちしていて、おまけに生徒会にも入っていて我がA組のクラス委員長を務めている働き者さ。後、誕生日は12月23日。山羊座のA型。出身地はヒラド。身長158センチ。体重48キロ。スリーサイズは、89・58・88だよ♪」
「そ、そこまでは聞いてない……。」
と、俺はそう言いつつも思わず少し想像してしまった。四ツ橋さん、結構胸あるのかーーーいかんいかん、何を俺は邪なことを考えているんだ。
「というか神阪、よくそんなことまで知ってるよな。」
「あったりまえだよ〜! オレ、女の子のことだったら何でも知ってるしリサーチ済みだからさ! まあ女の子のことじゃなくても他の分野でもリサーチ済みだけどね。情報収集にはかなり自信があるからオレのことは情報屋として頼ってよ。」
ドヤ顔で謎の決めポーズをとり、親指を立てる神阪。俺は彼の自信満々な態度を見て、引き気味になりつつも棒読みで「ありがとう」と返した。
「なんか心無い棒読みさが気になるけど、一応感謝の気持ちとして受け取っておくよ。」
神阪がそう返した後、「あ、そうだ」と思い出したかのように次にこう言ってきた。
「さっき四ツ橋さんは科学研究部と演劇部に所属しているって言ったけど……ここって、実は絶対何かしら部活に入部しなくてはいけない決まりがあるんだ。ロゼッタにおける部活動っていうのは、所謂本州へ上京する際の進学や就職に影響するステータスみたいなものなんだよ。まあ、お家の事情とかあるんだったら別に帰宅部でもいいらしいんだけど、入った方が本州に行った時に便利だから部活に一つでも入部しておいた方がいいよー。」
「本州行くのってそんなに大変なのか……知らなかった。ってか、そう言うお前は部活入ってるのかよ。神阪こそ帰宅部くさそうに見えるけど。」
「モチのロン! 一つはクリアしてるよ〜。」
何だって。いかにも帰宅部のきの字が浮いてそうなこの男でも部活に入っているだなんて。かなりショックだ。ここは元女子校だからなるべく目立たないように帰宅部で通そうと思ってたのにとんだ落とし穴があるとは……本格的に部活動することを考えなくてはいけない。
そう途方に暮れていると、神阪と座っていた場所の窓ガラスの向こうから何やら賑やかな集まりを見つけた。それに気づいたのか神阪も同じように視線を向ける。
「ああ、各部の部員が部の宣伝をしているね。この食堂前と正門口の中庭で部員のみんなが昼休憩と放課後に歓迎しているから一度行ってみたらどうかな? そう言えば演劇部だったらちょうど多目的室で練習しているんじゃないかな?」
今はちょっと時間がないから放課後の方がいいかもねー、と助言する神阪。
なるほど、つまり四ツ橋さんは演劇部と科学研究部の部室、もしくは生徒会にいる可能性が高いのか。神阪から四ツ橋さんの情報を聞けたので放課後にいざ実行してみることにしよう。
そう俺は胸に秘め、昼休みと午後の授業は過ぎていった。