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01. 出会い

 夢を見ていた。何の夢だったかはよく覚えていない。そもそも夢というものは、夢の中で行動しているときは覚えているはずだが目を覚ますと余程のことでない限り忘れているものだ。

 自分の夢もきっとその類のものなのだろう。そうだとしても、曖昧なものにしてはなぜだかそれは自分のことであり、悲しい出来事であったというのが漠然と頭に焼き付いている。


『次は、新出島(しんでじま)ーーー新出島でございます。』


 そうだった、俺は今モノレールに乗っていたんだった。電車のアナウンスを聞いてハッと我に返る。ぼんやりと物思いに耽っていた自分の状況をたった今思い出すなんて我ながらどうかしているものだ。俺は目的地である新出島駅が到着するまで急いで身支度を整える。

 モノレールが緩やかに停止し、新出島と繰り返すアナウンスと共に電車のドアに移動する。ドアが開き、新出島駅で降車した瞬間ふと外を見回す。

 渋滞になっていた有象無象の中から宙に浮き、飛行機ほどではないが地上から約100メートルの高さで飛ぶ一つの自動車。新出島から出発して次の駅へ向かったモノレールの操縦者は機械で動いている。所謂無人運転である。


『ーーー今日も事故、犯罪等は0件でした。』


 巨大なビルに映る大型ホログラムに映る映像のニュースのアナウンスの声が聞こえる。

 ふと時間が何時になっているか気になり、俺は手を差し出すように手のひらを広げてこう声を上げる。


「---コマンス。」


 目の前にホログラム状の映像が開き、同時に時刻も表示される。これは、《コマンスフォン》という携帯電話である。ただの通話機能だけでなく、あらゆるアプリを利用してメールができたり、ゲームや漫画などの娯楽を楽しめたり、タイマーなどの便利機能が備わっている優れものだ。また、普段はこの開いている映像が周囲の人に見えてしまうのだが、映像の右端に『表示システム』というものが存在し、これを『非表示』にすることで自分にしか見えない状態にも出来る。

 この世界は、ほとんど機械で出来ているといっても等しいくらいだ。


 しかし、歴史学者の父から以前この光景は、今から21年前ではあり得ない世界だったと口にしたのを聞いたことがある。

 21年より前は、モノレールのような無人電車は数えるほどしかなかったし、車が飛ぶということもなかった。ましてや昔は事故や犯罪が起こることはしょっちゅうだったらしく、連絡手段に関しては、スマートフォンやタブレットという小型端末の携帯電話が存在していたらしいが宙に画面が浮いて操作することなんて影も形もなかったらしい。


 世界がこのようになったのも全ては黒磯(くろいそ)誠太郎(せいたろう)という人物のおかげと言われている。




 かつて世界の紀元が『西暦(せいれき)』と呼ばれていた時代――遺伝子組み換えによって作られた有毒な小麦によるウイルス感染症・WIDに人々は侵されていた。その数、約半数が感染され、人類は滅亡の危機へと直面していた。

 しかし、そんな最中、この病を救った英雄が存在した――それが黒磯誠太郎である。

 彼は、元は一科学者であったが、対WID用の新型ワクチンを開発し、有志で配布したことから注目され、そのワクチンは世界中から出回り、彼は一躍有名になった。

 この頃から人類は二つに分類され、WIDから免れた生き残りの旧人類を『ルディーユ』、新型ワクチン摂取によって救われた新人類を『サクレ』と呼ばれていた。

 そして、「世は科学こそが、これからの未来に繋ぐものなり」という彼の思いにより、それぞれロゼッタ学園とクルセード学院が創立され、自ら理事長になるまで至った。そのため、両校の生徒達は彼を世界を救った英雄として奉っている。

 この頃から『西暦』という名の年は幕を閉じ、彼が世界を治めた年を『機動歴(きどうれき)』と呼ぶようになった。


 そしてーー現在機動歴21年、こうして今が存在する。

 この歴史は、機動暦が始まってから代々語り継がれている。かくいう俺交野(かたの)(とおる)も両親から嫌という程この話を聞かされていた。寝る前の絵本の代わりがこの話だったということもあった。同じ双子の妹であるつるみも俺同様に一緒になって聞かされて「その話もう飽きた」ってふて寝していたのを覚えている。

 俺やつるみの世代の人間は、『サクレ』と呼ばれる新人類であり、両親達の世代はこの機動歴以前の西暦という時代から生き残った『ルディーユ』と呼ばれる旧人類で、現在この機動歴で生き残っている人類は文字通り二種類存在しているのだ。



 コマンスフォン内の地図アプリで検索した目的地に着くため、新出島駅から大通りを抜けたところを真っ直ぐに行くと、ホログラム状で出来上がった桜の並木道が道を開いている。その道を真っ直ぐに行くと、白い瓦礫の門が開いている。その道を抜けると、父の図鑑でよく見たゴシック調の建築物のような建物がちらほら目に映る。


 ここが、ロゼッタ学園。通称、ロゼッタと呼ばれる。

 今日俺が転校する高校だ。以前は女子校だったのだが、去年になって共学校になった。



 サクレは3歳〜14歳の幼少中学生時代はそれぞれの地元の学校で義務教育を受けるが、15歳の誕生日を迎え、その年の9月になると<搭乗試験(とうじょうしけん)>という試験がある。これは、かの黒磯誠太郎が設立した名門校であるクルセード学院とロゼッタ学園の入学試験だ。男子生徒はクルセード学院、女子生徒はロゼッタ学園に入学するための搭乗試験だ。勿論筆記試験もあるのだが、これはあくまでも目安らしくほとんどはこの搭乗試験で合否というものが決まる。その割合は搭乗試験7割筆記3割というぐらいこの搭乗試験は大きい。筆記試験の点数が悪くても搭乗試験の点数が良ければそれで合格できるというケースもある。つまり、この試験で運命が決まると言っても過言ではないのだ。

 試験内容は、各々の男女の専用機体に搭乗し、その機体に搭乗者が適しているかのテストをされるというものだ。男子は『ルヴィオプーペ』、女子は『ラヴィオプーペ』という機体に搭乗し、試験官の指示通りに動いて試験官の方に自分達がその機体に適性されているかのチェックをしてもらう試験だ。その試験を合格後、晴れて彼らは各々の学校に入学することになるのだ。


 そうーーー本来ならば俺もクルセード学院に入学するはずだったのだが、なぜかロゼッタ学園に無理矢理入学させられることになったのである。

 なぜ俺がクルセード学院ではなく、ロゼッタ学園に余儀なく入学させられた理由ーーーそれは、自分自身がルヴィオプーペに適性されていなかったことが要因である。

 ルヴィオプーペは、元々自衛隊員の常用機体らしく、軍事用に特化しているのか身体的な能力に長けていることが条件の持つ機体なのだ。俺の場合は、試験官によるとルヴィオプーペに乗用するのには脆弱でルヴィオプーペ自身の反応が遅いらしく、それ故に俺が適性されていないということが判明されたらしい。

 ちなみに実は恥ずかしいことに俺は搭乗試験に一回落ちてるのである。何度動作確認を行ってもルヴィオプーペは反応せず試験に落ちては受け落ちては受けを何回も繰り返したが、やはり反応しなかった。あまりに俺がルヴィオプーペと適合しないので試験官が半ギレしてラヴィオプーペに乗れと無茶なことを言い出したので仕方なく乗用すると、あろうことか適合したのである。

 こうして俺は余儀なくロゼッタ学園転入行きとなったのである。なぜ俺がラヴィオプーペの方に適合されたのかーーー俺にも分からない。というか俺の方が知りたい。おおよその推測だが、恐らく俺はラヴィオプーペに乗用するぐらい自分が貧弱だったんじゃないかと思っている。おまけにロゼッタ学園に転入すると言った際は、妹に指差されて爆笑されてしまった。ちなみに一回落ちたとは言ったが、実は留年扱いにはならなかった。父が搭乗試験の試験官の人と知り合いらしく何とかコネクションと試験落選後の父の特訓のおかげで2年からの編入となったのである。


 確かにロゼッタ学園は、去年から共学校になったとは聞いてはいるが、俺の知っている限り元女子校なので現在同学年の男子は俺を入れると3名しかいないらしい。後はほぼ半数女子なのだとか。しかも、下級生は全員女子であるという噂を耳にしたので、ぶっちゃけ共学校といってもほとんど女子校の中に男三人だけという過酷な状況である。

 正直ここで俺はやっていけるだろうか。一抹の不安を感じる。



 俺は学校から郵送で貰った校内地図を片手に持って、渡り廊下の近辺で彷徨っていた。

 広い。ただ広い。広すぎる。ロゼッタ学園はマンモス校で、生徒数が1組に100名近くいるため、その組ごとに分けて棟が作られていると聞く。本当かどうかは定かではないが。

 目的地は職員室があるところの本館なのだが、本館の中でもだだっ広いため探すのに時間がかかりそうだ。

「あの、どうしたんですか?」

 後ろから声をかけられたので、振り向くとこの学園の生徒と思わしき少女が立っていた。

 臙脂(えんじ)色のブレザーに黄色のリボン、灰色のスカートを身につけており、ブレザーのセーラー襟と袖元がスカートと同じ灰色なのがチャームポイントとなっている。明るい栗色のセミロングヘアーを横で一つ結びに結っており、薄い青色の大きめのバレッタで留めている。柔らかそうな髪が風でたなびいているのをそっと片手で抑える彼女の姿は、可憐でとても美しく、洗練とされたデザインながらもきっちりと着こなされている制服に似合っている。

「? あの……」

 俺は思わず見惚れてしまっていると、もう一度彼女から声をかけてきた。

 俺はハッと我に返り、声が裏返って「はい」と返事をした後、こう応えた。


「えっと……俺、今日から転入しまして、職員室を探しているんですけど……職員室ってどこですか?」

「ああ、職員室ですね。こっちですよ、案内します。」


 そう彼女は笑顔で俺を職員室へと案内しようとした。俺は彼女が眩しい光に見えた。こんな見知らぬ俺に親切に接してくれるなんて、彼女はなんて優しいのだろうか。

 渡り廊下で移動の中、彼女に陽射しが当たっているから眩しく見えるだけかもしれない。しかし、そうだとしても雪のように肌が白く、穏やかな笑顔はまるで天使ーーーいや、女神のように綺麗だ。



「着きましたよ。ここが職員室です。」

 少女は、足をピタリと立ち止まって目の前の職員室を俺に案内する。

「ありがとう……ございます。」

 あっという間に辿り着いてしまった。呆けていたので次に来るときとかにちゃんと道を覚えているかどうか自分で心配ではあるが、ここまで案内してくれた彼女には本当に感謝している。すると、彼女は「いいえ」と応えた後、優しげな微笑みを俺に向ける。その笑みに不思議と、ときめきを感じてしまっていた。


 もしかしたら、これが所謂一目惚れというやつなんだろうか。



 気がつくと、彼女はその場から去っていた。


 またどこかで会えるだろうか。

 名前を聞いておけば良かった。

 そもそも、彼女は同級生なんだろうか、下級生か上級生なのではないか。


 そんな悶々とした思いを抱きながら、俺は職員室の中に入っていき、手続きを済ませた。


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