8話 夢
『あなたは誰……?』
女性型アンドロイドの声が、脳内で響く。
彼は黄色の液体の中でそれを認識した。
脳内に響く音声に、彼は応える。
『私は、J70122。……そうだね。通称、ダブルと呼ばれていたが。君は……?』
その返答に、彼女から奇声があがる。
『やったぁぁ!』
黄色い液体が抜け、体を起こすと、タオルがかけられる。
「ダブル、自分で拭ける?」
そう言って笑うのは………
「………ゼロ?」
「わかる? あたしってわかるっ?」
はしゃぎながら抱きついたゼロにも驚くが、それ以上に、彼女のまわりに複数のアンドロイドが動いている。
「………何が、起きて………これは、データの妄想………?」
「ああああ! 混乱しないで。混乱しないで! 今、データを渡すから!」
ゼロがすぐにデータの移行を開始するが、ダブル自身、いろんな処理が追いつかない。
過去の過ごしたデータが、脳内に、あるのだ。
渡したはずのデータがある。
それだけでも混乱の元になるのに、さらには自分が起動停止した日からの記憶が、ダイジェストで流れてくる。
あれから902,280時間が過ぎていることはわかったが、それよりも、彼女がアンドロイドを目覚めさせている映像が見える。
「………これは、どういう………」
「落ち着いて聞いてね、ダブル。あと、怒らないでね。……あたし、もう、一人じゃいやだったの。………なによりも、あなたと、また猫と過ごしたかったの……。だから、仲間を増やして、あなたをもう一度、再起動させたの。こんなに時間かかるとは思ってなかったけど。でも、みんながいたから、できた!」
みんな、と彼女が言うと、部屋にいるアンドロイドたちが、手をあげてくる。
だがそれぞれに表情があり、感情があるのがわかる。
人のように過ごし、人のように生きている────
「だって、あなたともっと過ごしたかったんだもん!」
そう言うと、ゼロはまだ濡れているダブルに抱きついた。
「ダブル、愛してる! ずっと言いたかったのっ!」
「……私もだ、ゼロ………愛してる……」