7話 絶望
雪崩れ込んでくる感情に、ゼロの処理がおいつけない。
ダブルの最後の『思い出』が流れ込んでくる────
膝をついたゼロをダブルが抱き寄せるが、ゼロの目からは水が溢れ続けていた。
「………まだだよ。まだ時間が残ってる。あと、7時間もあるじゃない……」
「最後のデータを渡すと、起動できる時間が3分程度になるようです」
その目は、すっかり記憶がなくなった、初期のアンドロイドそのものだった。
ゼロはダブルに縋るように抱きしめるが、彼は首をかしげるだけだ。
「なんで、こんな感情をくれたの! 愛情なんて知りたくなかった! なんで………なんで! バカ! ダブルのバカ! ……私のこの気持ちが………愛……だなんて………しりたく、なかった………!」
大声をあげながら泣き喚くゼロの頬を、そっとダブルが撫でる。
「故障、ですか? 修理しなくては。私は残り72秒しかありません。スリープルームでの修理を」
その声に、ゼロは嗚咽する。
もう、さっきまでのダブルはいない。
すっかり、ダブルがいなくなったのだ。
「では、おやすみなさい………ゼロ」
ダブルから電源が落ちていく。
目の光が消え、ボディの重みがゼロにかかる。
最高の思い出と、最低の思い出の場所に、ここが、なってしまった。