表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

6話 愛

 すぐに向かったのは『猫部屋』だ。

 お気に入りの猫たちを抱っこし、猫を抱っこし、猫と寝転がる……

 猫じゃらしで飛び跳ねさせたり、おやつをあげてみたり。

 時には大型猫、猛獣とされる彼らのスペースに行き、彼らの様子を眺めたりもした。


「本当に、ダブルは動物が好きなのがわかる! 私も好き!」

「そうだね。私はネコ科の動物が、特に好きだね」

「犬は?」

「彼らは従順なところがいい。でも、猫は気まぐれな感じがいい。……やっぱり、猫が好きかな」


 二人の時間は一分一分減っていくが、だがその分、二人のデータが積み重なっていく。

 ダブルも記憶はないものの、残りの感情データが作用しつづけたせいか、出会ったばかりの雰囲気に戻っていた。



 6時間のスリープをおいても、ダブルの様子はそれほど変化がなかった。

 確かに、足りなくなった感情の隙間を、残されたデータで無理矢理結んでいる『心』ではあったが、彼は彼でいられている。


「まさか、最後がこんなに充実して過ごせるとは思っていなかった」

「私のおかげだね、ダブル」


 ゼロは猫を抱えて、まるで猫がしゃべっているように話してくる。

 ダブルはそれに笑い、真似をする。


「ありがとう、ゼロ」


 猫といっしょにおじぎした顔が、可愛らしくゼロには見える。



 お互いに、よく笑い、よくしゃべり、そして、ダブルが空を眺める最後の時間になる────



「ダブルが空を見る時間だ」


 猫部屋からダブルを連れ出すと、ゼロは外が見えるデッキへと移動していく。


「ここだよね?」


 ドーム型にある窓は空全体を見渡せる。

 空といっても、ここは宇宙のため、真っ黒なのだが、それでもあちこちに星が浮かび、星雲もあり、美しくはある。


「ここで何を見るんです?」


 ゼロが言うと、ダブルははにかみながら、微笑んだ。


「ここで見ていたのは、あなたの寝顔です」


 その言葉に、ゼロは止まった。

 理解ができない。

 なぜなら、自分はここにはいなかったからだ。


「………? 意味が、ぜんぜんわかりません」

「そうでしょうね。あなたの寝顔を、ここでループさせて、眺めていたんです。人がする、妄想みたいなものです」


 ダブルはゼロの肩をそっと抱く。

 それの意味はゼロにはわからなかったが、ダブルの顔がよく見える場所だと理解する。


「私は、あなたとこうして空を眺めるのが夢だったんです……」

「夢……」


 ゼロは繰り返した。

 夢は、目標であり、理想であるものだ。

 だが、自分と空を眺めることが夢だった、というのは、理解がしがたい。


「私はね、引き継がれるときに、君のことも引き継いだ」

「ボディーメイキングルームですか?」

「そう。もう、君の次の体は出来上がっている頃だろうね。……ワンに言われたんだ。J70191、彼女はずっと私を見ていたそうだ。起きる時間がわかっていても、私と喋る日を楽しみにしていたと。そう言う思いが連なると、それがいつか『愛』になる、と」

「………愛」


 ゼロは繰り返した。

 愛というのは、情だ。

 確かに、ゼロは、好き・嫌いの判断はできるが、それ以上の判断はない。

 『情』というものを理解ができないのだ。


「………やっぱり、私にはまだわからない感情です」


 ダブルはそっとゼロを見つめる。


「私は、ここで君を思い出して、こうして美しい空を眺めていたいと、ずっと、思っていた。……永遠に続けばいいとさえ、思っていたんだ……愛はね、勝手に芽生えて、膨れる感情だよ。……自暴自棄になっていた私を救ってくれて、ありがとう、ゼロ……」


 そう言ったダブルの唇が、ゼロに重なる。

 そして同時に、感情のコードが繋がれた────

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ