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雪猫の噂

「ジゼル団長、後ろのそれなんすか?」

 団長が自身の背後に迫る白いそれに気がついたのは、そんな質問を部下のエーリッヒに質問された時だった。

「お前…、なんで付いて来てるんだ。」

 自由気ままに生きるモンスターに対してそんなことを聞いたって答えが帰ってこない事を団長はよく知っているが、疑問の言葉を抑えることは出来なかった。

「おお、可愛いっすね。こいつ雪猫っすよね。俺、初めて見たっす。」

 モコモコでふわふわな可愛い生物にテンションの上がるエーリッヒ。触ってやろうと手を伸ばすが雪猫は団長の足を上手く使い、怪我が治りきっていないので動きは緩慢だが、逃げ回る。

「そいつは怪我してるんだ。辞めてやれ。」

 さすがに怪我をしているのか雪猫を追い回すエーリッヒを見ていられなかったのか止めに入るジゼル。一応触ろうと手を伸ばすのは辞めたもののエーリッヒの目線は雪猫の方へ向いたままだった。

「俺が見回りをかねてゆっくり戻って来たから付いて来ちまったんだな。どうしたもんか。あまり干渉するのは良くないんだが、怪我が治りきるまではここにいるか?」

 ぽんぽんと軽く頭を叩かれるのが心地よいのか、目を細めて大人しく撫でられている雪猫。

 大人しく撫でられているのを、自分も撫でたかったエーリッヒは指をくわえて見ていることしか出来ない。

 ひとしきり撫でた後、ジゼルが手を離すと頭を脛の辺りにぐりぐりと押し付けて雪猫は一緒に居たいアピールをする。

「やれやれ、本当に怪我が良くなるまでだからな。」

 こうして、しばらくの間、雪猫が警備団の宿舎に住み着く事になった。

 特にどこかの部屋に入れておくでもなく、自由に過ごせるように放し飼いの状態ではあるのだが、そんなに団長のことが気に入ったのか傍を離れようとはしなかった。

 訓練が厳しく、厳つい顔つきをしているため部下達から恐れられている団長であったのだが、そんな団長の影に、白くてふわふわの生物が着いて回るのを見て、ついつい頬が緩んでしまう団員も少なく無かった。

 そんな風に、警備団員達の空気が緩んでいることに気付いた地域住民達が、見回り中の団員に一体どうしたのかと尋ねることも多くなってきた。

 人の口に戸は立てられないとはよく言ったもので、初めは誤魔化していた団員達もしつこく聞かれると、ついついここだけの話ということで、雪猫を保護していることを喋ってしまう。

 秘密というのは一度漏れてしまえばあっという間に噂になるわけで、今警備団の団員達の訓練を見学に行けば雪猫を見ることができるかもなんて噂はあっという間に広がっていった。

 好奇心旺盛な人達は噂が本当なのか確かめる為に訓練の見学申請を本当に出してしまったりもしている。

「なんか最近見学申請が多いっすね。ちょっと前までは訓練に興味のある奴なんて殆どいなかったと思うんすけど。」

「どうせこいつが目当てなんだろ。機密だって言ってるのに誰かがこいつの存在を漏らしやがったからな。噂の真相を確かめる為に来ているやつばっかだろ。」

 ジゼルは今の状態に頭を抱えていた。なるべく穏便に野生に帰してやろうと思って上に報告を上げることも、保護について公表することもせずに隠していたのだが、こうも噂が広がってしまってはどうすることも出来ない。それに野生に帰そうと思っているジゼルの考えとは裏腹に、膝の上で腹を出してグーグー眠っている雪猫を見ると、こいつを野生に戻しても生きていけないのではと思ってしまう。

「隠しておくのも限界か…。」

「そうッすね。いっその事公表すればいいじゃないっすか。良いマスコットになると思うっすよ。」

 もはや公然の秘密になっているのであれば、公式に発表してしまった方が、住民の協力も得られて動きやすくなるかもしれない。そんな風に考えて、ジゼルは雪猫を保護していることを公表する決意をした。

「…エーリッヒ。明日の昼頃に町の広場に行ってくる。午後の業務時間になったら何人か連れて、町の掲示板にこいつの保護についてのチラシを貼っておいてくれ。」

「ハイハイ、了解っす。チラシはこっちで作っちゃっていいんっすか?」

「ああ、任せる。見回りは誰かに変わって貰って、間に合うように最優先で作ってくれ。」

 へーいと軽い返事を返して出ていくエーリッヒを見送って、相変わらず膝の上で寝ている雪猫を撫でるジゼル。

 明日は少し忙しくなりそうなことに、ため息を着くのだった。

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