血が滾るデート①
ロイ坊から手紙が来た。蝋を壊して中身を読むと、“1週間後に2人で遊びに行きたい、無理そうだったら空いている日を教えて欲しい、こちらが合わせる”というような内容が記されていた。
こちらから会いに行ってもいいかだなんて尋ねられたものだから、唐突に私の家に馬車で乗り付けてくるのかもなー、などと思っていただけに彼の配慮が意外だった。いくら何でも彼の精神年齢を低く見積もり過ぎていたかもしれない。
予定を空けておくこと、楽しみにしていることを記して返信した。
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約束の日まではたかだか1週間のはずなのに、それがとても長く感じた。
頭は忙しく迷走に迷走を重ねているというのに、無為に過ごしている時よりも時間の経過が遅いのだ。
そういえばあいつとは2人で出かけたことなんてない。どうしよう、何を着て行けばいいんだ!? というかどこへ行くつもりなんだ!? 街へ出るのか山へ出るのかで結構変わってくるんだけどどうしよう!?
などと頭の中を疑問符が駆け巡り、手元がお留守になることが増えた。
「お嬢様? お口に合いませんでしたか?」
お茶を淹れてくれた専属メイドのマリオンが心配そうに尋ねてきた。
子供の頃から世話を焼いてくれている、お母さんと引き離されていた私にとっては第2の母のような人だった。
「あ……違うんだ、おいしいよ。ちょっと考え事がね」
「そうでございましたか。……何かお力になれることはありますか?」
「うーん…………ちょっと恥ずかしい……」
「これでも年相応に人生経験は積んでおります。よろしければお聞かせください」
「結構興味津々じゃない。うーん……まいっか。私、知っての通りこの間婚約を破棄されたんだけど、実はその後次男のロイ坊に告白されて、今度一緒に出掛けることになってさ……」
「あらまあ!」
ぱちんと手を合わせて喜ぶマリオン。
婚約を破棄された際に色々と助けてもらったことだけは話していたので、彼女の中でロイ坊の好感度が爆上がりしているのだ。
「でね、お食事とか社交界はともかく、男の子に遊びに誘われるのは初めてでさ。どんな格好して行けばいいのかなーというのと…………その、シンプルに緊張を……」
「あら初々しい。良いですねぇ……」
「そんなじっくりと噛み締めないでよ! だから恥ずかしかったんだ……」
「うふふ、失礼しました。そうですねぇ……難しいとは思いますが、力み過ぎないことが肝要です。意識せずとも、今のお嬢様は既に充分な緊張感をお持ちです。それ以上気を遣おうとなさってもむしろ過剰になりかねません。ちょっと張りきる、程度でよろしいのではないでしょうか?」
「…………ちょっと張りきる、か……」
「アシュクロフト様は既にお嬢様への好意を明らかにしておられるのでしょう? でしたら、自然体でいらっしゃるのが一番です。いつも通りのお嬢様こそが、彼を恋に落としたクレア・ガーフィールド様なのですから」
「恋に落としたってさ、言い方……まぁうん、気張り過ぎないようにしてみる」
比較的着慣れた余所行きの中のお気に入りを使おうかな。そういう物を着ていた方が自然体に近い私でいられる気がする。小物とか上着は特別なものにしよう。
「ところで実際の所どうなんです? お嬢様から見て彼は」
「え? あ……その…………ね? 秘密?」
「ふふっ、婆は応援していますからね」
「…………ありがと」
私は気恥ずかしさをごまかすために、ぬるくなってしまったお茶を口に運んだ。
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