【終】ガーフィールド家の大型犬
私の目の前では1歳半になった息子、ウォルトのマイブームの鳥ごっこが始まった。お弁当を開けてから早くも3回目、飛ばす担当として駆け回っているロイも少しお疲れの様子だ。
「子供の成長は早いものねぇ……」
「全くだよ……。この間まで首も据わってなかったのに」
「あなたのことも言ってるのよ? クレア」
「お母さん…………」
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ロイの婿入りという形で、私たちは結婚した。
異例の話だと思う。父親の勧めもあったとは言え、彼は爵位を捨てて下の家に婿入りする道を選んだのだ。お義父様の提案にもそれを受けたロイの即決にも当時の私は腰を抜かしかけたのだが、本人は一切後悔していないと言う。
距離が縮まるにつれ、ロイ坊やクレア姉ちゃんという呼び方は自然消滅していった。今はお互いを呼び捨てで呼ぶことがほとんどで、子供が産まれてからはパパ、ママなんて呼びかけも開発された。
あれから、私たちの身の回りには少し動きがあった。
セシルとはあれから1度も会っていないが、お目付け役も付けられて相当厳しく躾け直されたようでここ最近は女性関係で何かをやらかしたという話は聞かない。
父親の分からない子を孕み、悪評も広く拡散してしまったフィオナは街に居られなくなり、田舎にあるガーフィールド家の別荘に引っ込むことになった。
継母と数名のメイドが付き添いとして彼女に付いて行き、入れ替わりで元々その別荘に追いやられていた私の産みの母がこちらへ帰って来たのだ。
再会したお母さんは少し痩せ、金色だった髪もすっかり白っぽくなってしまったけれどもまだまだ元気そうでほっとした。歳が近い昔馴染みだということもあって、私の専属メイドのマリオンと友達のように語らっている姿をよく見かける。
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今日はロイと私、ウォルト、お母さん……息子にとってはおばあちゃんの4人でハイキングに来ている。そろそろお昼にしようとお弁当を広げたものの、ウォルトの鳥ごっこ欲が爆発してしまったのでパパが出動したという次第だ。
「本当に驚いたのよ? 久々に帰ってきたら、まだ子供だと思ってた娘が1ヶ月後に結婚するなんて話が持ち上がってたんだから」
「それに重ねて許嫁まで変わってて、嫁入りじゃなくてお婿さんで、そりゃもうびっくりでしょう?」
「ほんとよ。でも、良い旦那さんで安心したわ」
「たまーに1歳児以上の甘えん坊と化すけどね」
「良いじゃない、あつあつで」
「あつあつって言い回し、今日び…………あっ……ウォルト寝たなアレ」
ロイに肩車されてご機嫌に両手を広げていたウォルトが、父の頭にもたれて目を瞑っていた。
私が立ち上がって大きく手を振ると、ロイはやっとウォルトがぐっすりと寝ていることに気付いて戻って来た。
「ふぅぃー…………」
「お疲れさま」
「そろそろこのブーム終わって欲しいな。いつか躓きそうで怖いったらねぇよ……」
「最近じゃスピードまで求め始めたからねぇ……。はい、お手拭き」
「サンキュ」
すやすやと寝ているウォルトを降ろしたロイは30分遅れで昼食にありついた。と言っても、まさか彼がここまで消耗することになるとは思っていなかったので軽くつまめるような物しか用意していない。足りなかったかもな……。
「んー、美味い」
「ごめんね、足りないでしょう?」
「いや、まだ歩くからこんぐらいがいいよ」
「じゃあ、帰りにいいお肉を買って帰ろうか」
「やったぁ」
用意したホットドッグ2つをあっという間に平らげ、ロイはのんびりとお茶をすすり始めた。
その時、お母さんに抱っこされていたウォルトが何かの拍子で目を覚ましたようだった。
「あら~起こしちゃった。ごめんね~」
「ばー、ばー?」
ウォルトはまだあまり話せないが、一番最初に覚えたのはまさかのおばあちゃんを呼ぶこの言葉だった。その後も順当におばあちゃんっ子の道を進んでいる。
「ん~、かわいいね~!」
「キャー!」
ウォルトは抱っこから抜け出すと、おばあちゃんの手を引いてどこかへ駆けだそうとする。
「あっコラ、待ちなさい。すぐに片付けるから……」
引き止める私と立ち上がろうとしたロイに対してお母さんは言った。
「ちょっとウォルトちゃんとお散歩してくるわ。ちょっとしたらここに帰って来るから、あなたたちは休んでいて」
「え、でも……」
「せっかくこんなにのどかな所へ来たんですもの。たまには夫婦水入らずで楽しみなさい」
「ちょ、お母さん…………! 行っちゃった」
「……せっかくだし、お義母さんのご厚意に甘えさせてもらうとすっかなぁ……」
そう言うと、ロイはシートの上にドサリと仰向けに倒れた。
まあ、行っちゃったものはしょうがないか……最近はロイと二人っきりっていうのも減ってたしな。私も久々に彼の隣で、同じように仰向けに倒れた。
「寝そうならそう言ってね? どっちか片方は起きてないと万が一の時危ないから」
「俺は平気だよ。クレアこそ、今朝は早かったから疲れたろ? 遠慮せず寝てくれな」
「そんなこと言って、知らないよ? 私3時間爆睡コース突入しちゃうかもよ、寂しくない?」
「そりゃ寂しい」
そう言って、彼は体を捻ると私に抱き着いてきた。そして私の体を巻き取りながら元の仰向けに戻り、最終的にうつ伏せの私が仰向けのロイに乗っかるような体制になった。
「これでよし、寝ていいよ」
「寝れないよ、このスキンシッパーめ。これだからガーフィールド家の大型犬なんて呼ばれんだぞ? 聞いてんのか、次期当主?」
「狂犬よりは100倍マシだろ? ここ1年半くらい、ライバルが強すぎて甘え足りてないの」
「息子に対抗するんじゃないよ23歳児。まったく」
私たちは笑い合うと、そっと唇を重ねた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。今回で完結となります。
もしもこの作品を気に入って頂ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。(続きは多分ないけれど、ブクマ外さないで頂けるととても嬉しい)
さて、4万文字も書かずに完結と相成りましたが、これ以上引き伸ばしても仕方がないと思いこのような形にさせて頂きました。
とある事情でろくにプロットを考える余裕もなく書き始めた小説なので、掘り下げ不足(侯爵とか伯爵夫人とか名前すら考えてませんからね)や強引な展開、ざまぁタグ2つも付けているのにその描写のおぼつかなさなど様々なボロを出しながらも、ひとまず着地に持っていけて本当に良かったと思っています。(完結まで持って行けたの自体今回が初めてです)
改めて、有限の時間の中で本作をクリックして頂き本当にありがとうございました。
皆さまに1話に300PV(直前に書いてた小説の累計PVと同じ)も付けて頂き、ブックマークまで頂けたことで何とか初めてのジャンルを書ききることができました。次もがんばろうと思います




