本編の無い物語~プロローグ~
それは幼少期の甘酸っぱい思い出。
夕暮れ時の電車の中、僕は初対面の同い年くらいの女の子と二人、じっとお互いの顔を見つめ合っていた。
一目惚れだった。
ずっと彼女のことを見ていたかった。
気付けば僕は目的の駅を乗り過ごし、終点に到着していた。
その時は一言も会話を交わさなかったし、その後会うこともなかった。
だからこそ、その思い出は僕の中でとても大きなものになっていった。
その後、高校生になった今に至るまで幾度も告白をされながらもその全てを断ったのは、ひとえに、彼女のことを想い続けたためだった。
友達からは馬鹿にされたりもした。なんてもったいないことをするんだ、と言われたこともあった。
その通りかもしれない。
でも不思議と後悔はしていない。
彼女が僕のことを覚えていなくても構わない。
ただもう一度だけ彼女に会いたかった。
そんなことを思っていたとある日のことだった。
彼女が転校生として再び僕の目の前に現れたのは。
クラスメイト達は静まり返っていた。
彼女のあまりの美しさに。
彼女は自己紹介をそつなくこなすと僕のほうへ近づいて来てこう言った。
「一目見た時から好きでした。私と付き合ってください」
僕は嬉しさのあまり身が震えた。
しかし、僕はずっと僕側からの一方的な片思いだと思っていたので思わず彼女に訊いていた。
「どうして僕?」
彼女はその大きな瞳を潤ませ、白い頬を微かに朱に染めて答えた。
「あなたは、私の王子様で神様だから」
その言葉の意味はよく分からなかったけど、僕は言った。
「僕からも言わせてください。一目見た時から好きでした。僕と付き合ってください」
こうして僕らは恋人同士となった。




