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お弁当から始まる異世界建国記

短編ですけどそんな長くないです。

「…………え?ここどこ?」


辺り一面草だらけの草原。

草原すぎて草も生えん。

見上げれば青い空に白い雲。

ついさっきまで脱ぎっぱなしの服やゲームの箱で散らかった部屋で、築30年の汚れた天井を眺めていたはずだ。


「俺の部屋は?ゲームは?デラックス焼肉弁当は?」


周りを見ても草しかない。

壁に貼り付けている見慣れた水着アイドルのポスターも、ラスボス相手の1時間以上の死闘を制してクリアしたゲームも、たまの贅沢として近所の弁当屋で買ってきた弁当も、全てが見当たらない。


「俺、普通にゲームしてたよな?魔王倒して、クリアして、布団に倒れ込んで………それで?」


混乱しつつ自分を見る。

ダボダボの濃灰色のスウェットパンツに黒のTシャツ。

いつの間にか馴染みの赤い紐の草履を履いていた。

ポケットをまさぐると、くしゃくしゃになった弁当屋のレシートと最近変えたばかりの真新しいスマホが出てきた。

液晶をタップすると、デフォルトの待ち受け画面が出る。

右上には無情にも圏外の文字。


「意味わかんねぇ……何が起きたんだよ。」


空を見上げる。

相変わらずの青い空と白い雲、そして巨大な鳥。


「……………ん?んんん!?」


鳥?………いや、鳥!?

デカすぎだろ!!

結構遠くにいそうなのに、何でこんな大きく見えるんだよ!!


「ここ、日本か?……ていうか、地球なのか……?」


頬っぺたを抓る。

痛い。


「夢じゃない?ならここは………異世界?」


オタク歴13年の俺がこの状況で出す結論といえばそれしかない。

だがトラックに轢かれた覚えも神に会った記憶もないし、クラス転移に巻き込まれた覚えもない。

そもそも高校生でもない。

高校を卒業し、就職して7年が経つ、ごく一般的な社会人だ。

今日は休日で、趣味のゲームを思いっきり楽しんでいたはずだった。


「異世界なんてホントにあるのか?そんなもの信じてたのは10年前までだぞ。」


具体的には中学3年の夏までである。

当時はトラックに轢かれそうな猫を探して街を練り歩いたものだ。

夏以降は高校受験でそれどころではなくなり、受験に受かった頃には中二病を脱却していた。


「まぁ仮にここが異世界だとしたら……まずはあれだな。」


異世界に来て最初にすること。

正答率9割は下らないであろう問題である。

すなわち。


「ステータス!」


である。

果たして?


「お、おぉ!出た!ホントに出た!」


目の前には半透明の板。

上部には『ステータス』の文字。

その板を暫し眺める。




ーーーーーーーーーーーーーーー


『ステータス』


名前:丘田卓也(オカダタクヤ)

性別:男

年齢:25


身体:D

精神:A


異能:ほっともっと


称号:モーパッサン

   課長(笑)

   フィリピーノ

   ジャムおじさん

   魔王殺し(デーモンスレイヤー)


ーーーーーーーーーーーーーーー




「年齢まではわかるが……身体能力は、まぁ……仕方ないな。」


D評価というのは決して高いものではないだろう。

お世辞にもスレンダーとは言えない体を見下ろす。

腹回りの肉は摘むというよりも掴むレベル。


「精神は……どういう事だろ?A評価貰うほどメンタル強い気もしないけど………」


首を捻りながら精神の欄をトントンと叩く。

都合の良いことに注釈が出た。



『精神』

精神の強さを表す。

辛い経験をすれば成長する傾向にある。

精神の値が高いほど魔力量も増える。



辛い経験………あぁ、なるほど。

理不尽な姉共に囲まれて育ったからか。

幼い頃からの苦難の日々が想起される。

思えば辛い日々を送ってきたものだ……。


「………過去を振り返るのはやめよう。今を見るんだ。」


未だ詳細不明な異能や称号の欄をタップする。




『異能』

人類が極稀に持って生まれる特殊な能力。

あらゆる事象を超越する超常の力。



『ほっともっと』

魔力を消費し異世界の弁当を創造する。

消費魔力は弁当の単価に比例する。

ついでにお茶も創造できる。



『称号』

積み上げた実績や周囲からの評価が所有者に特異な力を与える。



『モーパッサン』

物理的衝撃への耐久力上昇。



『課長(笑)』

初見の相手に対する威圧感上昇。



『フィリピーノ』

異世界言語理解。



『ジャムおじさん』

食物の製造作業に補正。



『魔王殺し』

身体及び精神に補正。




「………ふむ?」


『ほっともっと』は……いつも近所の弁当を食べていたからか?

ついでのお茶が地味に助かるな。

『モーパッサン』は学生時代の渾名が"脂肪の塊"だったからだろうか。

『課長(笑)』は会社での渾名だな。

入社当初から老けて見えると散々言われたもんだ。

『フィリピーノ』は………あれだな。

一時期、フィリピンに出張させられそうになっていたからだろうな。

結局他の社員が行かせられていたが。

『ジャムおじさん』も渾名のようなものだ。

この見た目と工場勤めという二つの理由でこんな渾名で呼ばれる事もある。

『魔王殺し』はゲームの中の話だろうが……。


「称号って……ほとんど渾名じゃねぇか。しかも大半が悪口だし………。」


溜息を零して前を向く。

見渡す限りの草原。


「ここで立っててもどうしようもないし………歩くか。」


幸いなことに水分と食事はどうにかなりそうだ。

楽観的すぎるのは否定しないが、異世界へ来たという事実に気持ちが高揚するのを感じつつ、最初の一歩を踏み出した。






「ありがとうございます!ありがとうございます!貴方様は、この村の恩人です!守り神様です!!」


俺はいま、派手さの欠片もない寂れた村で、頭に猫耳を生やした可愛らしい女の子に全力で頭を下げられていた。

俺が異世界へ来てから3日が経過している。

この3日間、ひたすら歩いていた。

歩いてはお茶を飲み弁当を食べ、また歩く。

ただそれの繰り返し。


だが3日目の夕方でようやく村を発見したのだ。

見るからに寂れたその村にいたのは猫耳や犬耳、狐耳などを生やした獣人達。

皆一様に痩せ衰えていた。



回想が面倒なのでこれまでの経緯を簡単に説明する。


獣人は国内でのカーストが低い。

獣人ばかりのこの村は国からの支援が薄い。

与えられるものは少なく、貢ぐものは多い。

子どもも大人も痩せ衰え、今にも死にそうだった。

たまたま訪れた俺が大量の弁当を創造して無償で与える。

俺、神の如く崇められる。←New



「いや、まぁ……気にしなくて良いから、皆食べてよ。」


あまりの敬われ具合に軽く引きながら食事を勧める。

だって村人は揃って土下座するし、女性達が性的な奉仕をしようとするし、村長は首を切ろうとするし。

土下座はいらないし村長の首はもっといらない。

女性の奉仕は時と場所を選んでほしい。

こちとら風俗でしか経験のない素人童貞だ。

どこでも誰でも抱けるような度胸は持ち合わせていない。


「タクヤ様………貴方様は、なんという………」


猫耳少女が涙を流す。

いや、そんな大したことしてないから。

お腹空いた犬猫にツナ缶あげたくらいの感覚だから。


「えっと、まぁ、その…………空腹は良くないよ…?」


この体型の俺が言うと説得力があるだろう。

自虐ネタが通じない異世界では、ただの善人キャラで通ってしまう事を、その時の俺は理解していなかった。






「陛下………陛下っ!起きて下さい!」


「………はっ!」


呼び声に応じて微睡みから覚める。

口の端から涎が垂れていた。


「陛下、お気付きになられましたか?」


「あ、あぁ…うん、おはよう。」


「はい、おはようございます、タクヤ陛下。」


超巨大なベッドで目覚めた俺の隣にいる彼女は、かつて寂れた村で出会った猫耳の女性である。


「えっと……いま、何時?」


「ちょうどお昼になる頃です。ぐっすりお休みでしたね?」


「ごめん、寝坊しちゃった……。」


「いえ、私も陛下の寝顔を見ていて、起こすのが遅れてしまったので………。」


可愛らしく赤らむ彼女。


「その呼び名はやめてくれよ。二人のときは……ね?」


「っ…は、はい!た、タクヤさん!」


「うん、やっぱりそれがしっくりくるね。」


「で、でもタクヤさんは一国の主ですし……」


「それを言うなら、君は一国の妃でしょ?」


「そ、そうでした!私、お妃様でした!」


はわわ、と慌てる彼女。

そんな彼女が愛おしくて、震える唇に口付けをする。


「へ、陛下!?」


「こら、陛下じゃないでしょ?」


「うっ……タクヤ…さん。」


「うん。」


満足そうに頷く。

立ち上がって窓際まで歩く。

窓の外からは城下町が見える。

猫耳、犬猫、狐耳……様々なケモ耳を生やした獣人達が笑顔で歩いていた。



「………あれから、20年か。」


俺ももう45歳。

だが見た目は全く変わっていない。

これも『魔王殺し』の効果である。


「どうかしましたか?」


妻である王妃が不思議そうに首を傾げた。

それを見ながら思わずクスッと笑ってしまう。


思えば遠くまできたものだ。

異世界へ来て20年。

不遇な獣人を救う為に戦い続けた日々。

世界を敵に回して戦い続けた。

理解してくれる人族もいた。

仲間になってくれる者もいた。

救いたいと思う全ての人々の為に戦い、そして勝ち取った土地、作り上げた国、最愛の人。


「いや、何でもないんだ。ただ……幸せだなって。」


「……そうですね。私も…幸せです。」


彼女が隣に立って俺の肩に頭を乗せる。

ピコピコと揺れる猫耳が頬を撫でた。

それがくすぐったくて笑う。

そんな俺を見上げて彼女も笑った。


「ホントに……幸せだ。」


「はい。………ねぇ、タクヤさん?」


「ん?」


「私、お腹空いちゃいました。」


悪戯っぽく舌を出して笑う彼女。

この世で最も愛おしい彼女を見て、俺もまた笑った。


「そうだね。なら、お弁当でも食べようか。」


「私、のり弁当が良いです!」


「君はホントにそれが好きだね。僕はやっぱり……デラックス焼肉弁当……かな。」


たまの贅沢。

こんな時くらい………良いよね?

作者はほっか○っか亭派です。




以下、連載中です。

ご一読いただけると嬉しいです。


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