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新しいお母様がやって来た。

キリアと抱き合って、ひとしきり泣いてから、私は改めて彼女の顔を見た。

あれから27年が経つ。年をとるのは仕方のないことだが、それでもキリアは変わっていないと思えた。


「キリーに会えて良かった。びっくりさせてごめんなさい」


「いいえ!いいえ!こうしてお嬢様と再会出来るなんて夢を見ているようです」


「キリーは私がセレスティーネだと信じてくれるのね」


「勿論です!私をキリーと呼ぶのはお嬢様だけでしたし、それに──約束のことは誰にも言っていませんでしたから」


誰かに聞かれていたとしても、27年も前のことを覚えている者などいないだろう。

約束した当人以外は。


「キリーが信じてくれて良かった。新しい生を受けたけれど、やはり前世の自分も私だから。私だけ覚えていればいいと思ったこともあるけど」


いっそ、生まれ変わるのが100年後とかであれば、前世で知ってる人間に出会うこともなかったのだろうが。いや、前世の記憶がなければ何も問題はなかったのだ。


ふと何か迷ったように視線を動かしたキリアは、実は──と話し出した。


「私が生まれ変わりの人間に会うのは初めてのことではないんです。妹が──生まれ変わりでした」


「えっ?」


あまりに思いがけないキリアの言葉だったので、私は驚きに目を瞬かせた。


「私の三つ違いの妹は、昔、子供の頃遊んでいて木から落ちて亡くなった、母の妹の生まれ変わりでした。妹が突然、母のことをお姉ちゃんと呼んだ時はほんとに驚きました。最初は信じなかったんですけど、妹は母と亡くなった母の妹しか知らないことを話し出して。私は知らないことでしたので、何を言っているんだろうと思いましたけど、母は違いました。間違いなく妹だと言い切ったんです。だから、私も信じました。不思議なことだけど、そういうこともあるんだなと思ったのです」


「そうだったの‥‥知らなかったわ。そんな話、全くしてくれなかったから」


「普通は言っても信じてもらえない話ですからね」


それはそうね、と私は頷いた。

転生というものを理解はしていても、信じるかどうかは別だ。

私は自分が二度も経験しているから信じるしかないが、普通の人間には荒唐無稽な話だろう。


「でも、お嬢様が生まれ変わっておられたなんて。こんな喜ばしいことはありません」


笑顔を浮かべながらも涙をこぼすキリアの腕を取り、私はそっと自分の顔を寄せた。


17歳だったセレスティーネはキリアと身長が変わらなかったが、今の自分は12歳。キリアの胸の所までしかなかった。


「私も生まれ変われて良かった。こうしてキリーに会えて話もできたし。ねえ、お父様やお母様はお元気なの?アロイスお兄様はもうご結婚されてるわね。相手はどんな方なのかしら」


お兄様は、セレスティーネと4歳違いだったから、もしかしたら孫がいるかもしれないと思うとつい笑みがこぼれる。


「‥‥‥‥‥」


この時、私はキリアの顔を見ていなかったので、彼女がどんな表情をしていたのか知らなかった。

何故、キリアがバルドー公爵家ではなく、街のカフェで働いているのか。

もしかしたら、セレスティーネが死んだせいかとも私は思ってしまった。

自惚れではなく、キリアは本当に私を‥‥セレスティーネをとても大事に思ってくれていたから。

私はキリアといた日々のことを思い出していたので、私の問いかけに対しキリアが答えを返していないことにしばらく気づかなかった。


「キリー?どうかした?」


「いえ──お嬢様は、今おいくつですか?」


「12歳よ」


「では、もう社交界には」


「デビューしてるわ。婚約者ももういるのよ」


そう遠くない日に破棄されるかもしれないけど。


「婚約者ですか!いったい、どこの誰なんですか!まさか、王家の人間とか」


いいえ、と私は首を振った。


「侯爵家の嫡男。サリオン・トワイライト様。ご両親はとてもいい方よ」


「トワイライト‥‥いつもボ〜っとしていた、あの男ですか」


私はクスッと笑った。


「そうよ。覚えていたのね、キリー」


「お嬢様と同学年だった方々のことは全て把握しておりましたから」


「そうなのね。キリーは本当に優秀だから。いつも側にいてくれて、とても助かってたわ」


いえ!いえ!とキリアは大きく頭を振った。


「私はいなければいけない時にお側にいられませんでした!あの時、私がお嬢様のお側にいれば!」


「無理よキリー。あの場にキリーは入れなかったもの」


それに、あんなことが起こるなんて誰にも予想できなかった。

きっと、あの場で私を断罪したレトニス様にも。


あの日を思い出し黙り込んだ私とキリアだったが、聞こえたノックの音でハッと我に返った。


「お嬢ちゃん、メイドさんが戻ってきたよ」


「あ、はい!あ‥‥まだケーキ食べてないから、お茶でも飲んで待ってるように言ってください」


「あいよ。キリアもまだ話があるんなら、ゆっくりしておきな。店はあたしらがみてるから」


「ありがとう、ネラ」


足音が遠ざかると、キリアはカップをトレイにのせた。


「お茶を入れ替えます。ついでにおしぼりを持ってきますね。綺麗なお顔が汚れてしまっているので」


「あら。キリアもよ」


「ええ。私も顔を拭ってきます。お嬢様はゆっくりケーキを召し上がっていて下さい」


「美味しそうなケーキね。キリアの手作りなの?」


「いえ、それはネラが」


「ネラって──さっきの人?」


「はい。この店の先輩です。ネラはカフェの以前の経営者からこの店を譲られた、現経営者です」


「あ、そうだったのね」


キリアはカップののったトレイを持ちあげた。


「あの、お嬢様。今のお名前を伺っても?」


「あ、ごめんなさい。まだ言ってなかったわね。アリステア・エヴァンスよ」


「アリステア・エヴァンス‥‥もしや、エヴァンス伯爵様?」


「やっぱり知ってた?私、エヴァンス伯のことはよく知らなくて。実は、今もよくわからないけど」


「はい?それは、どういう?」


「お父様は、めったに家には帰ってこられないから。ずっと王都なの」


「そんな──では、お嬢様のお母様は?」


「私が7歳になる前に馬車の事故で亡くなったわ」


「そう‥‥でしたか。ご兄弟は?」


「いないわ。アロイスお兄様のようなお兄様がいたら良かったのだけどね」


「‥‥‥‥」




まだ話したいことがいっぱいあったが、ミリアを待たせるわけにはいかないので、私はまた会うことを約束してキリアと別れた。


その夜、私はミリアが購入してきた、コック長おススメの紅茶を楽しんでいた。

トワイライト侯爵夫人から頂いたクッキーは、やはりキリアの手作りで、私はとても幸せな気分だった。


「ねえ、ミリア。昔のことを知ろうと思ったらどうしたらいいかしら」


「昔って、どれくらいですか?国の成り立ちからこれまでのことなら、歴史書に載っているかと思いますが。確か、図書室にあったかと」


「そういうのじゃなくて、王国の貴族の名簿みたいなものとか」


「貴族の名簿ですか?」


「ちょっと調べたい貴族がいるの」


「そうですね。そういうものなら、やはり王立図書館とか」


そうよね、と私は溜息をつく。

王立図書館は王都にある。今の私は勝手に王都に足を踏み入れることはできない。

第一、王立図書館に入るには伯爵以上の許可をもらわなくてはならない筈だ。


「旦那さまにお願いしてみられたら」


「お父様には知られたくないの」


「じゃあ、トワイライト侯爵様に頼んでみられてはどうです」


あっ、と私は声を上げた。


「そうね!そうだわ!」




私は早速トワイライト侯爵にお願いの手紙を書いた。

二日後、手紙の返事を持ってやってきたのは、婚約者のサリオン・トワイライトだった。

会うのは社交界デビューの夜会以来だ。

サリオンは騎士団に入りたいらしく、最近はずっと剣の稽古に励んでいるらしい。

見習いとして騎士団に入れるのは13歳になってからなので、それまで頑張って身体を鍛えるそうだ。


私は、サリオンが乗ってきた馬車に乗せてもらった。


「王立図書館に行きたいんだって?一応、父上の紹介状を持ってきたから行けるが、何を調べたいんだ?」


「あの‥‥学園に入る前に、貴族の方々のことを知りたくて」


「貴族のって?何が知りたいんだ」


「貴族のお名前や、ご家族のこととか。どのようなお役目を持っておられるとか」


「なんだ。そんなことでいいなら、わざわざ王都まで行かなくても俺の家の図書室で事足りるぞ」


「え?」


「このまま家に行こう。母上がまたおまえとお茶をしたいと言っていたから丁度いい」


馬車は行き先を王都からトワイライト侯爵の館に変更した。


トワイライト家には何度かお邪魔したが、図書室に入るのは初めてだった。

驚いた。王立図書館並の蔵書ではないだろうか。

三階まで吹き抜けの広い部屋にびっしりと書棚が並んでいる。


バルドー家の図書室でもここまではなかったわ。


おまえが知りたい本があるのは、あのあたりだ、とサリオンが指差したのは、二階部分右端の書棚だった。


「終わったら呼べ。途中呼びにくるかもしれないが。母上がお茶の用意をしてる」


そう言ってサリオンは図書室に私を一人残して出て行った。


夫人とのお茶会は楽しみだ。夫人の話は多種多様で面白く、また勉強にもなる。

私は細い階段を上り、サリオンが指差した本棚を眺めた。


(‥‥あった)


私は梯子を移動させ、注意しながら上るとゆっくり手を伸ばした。


気になっていた。前世の家族のことが。

前世を覚えてはいるが、もうあの人たちは家族ではない。

セレスティーネは死んだのだから。今の私はアリステアだ。

それでも、前世を思い出してからずっと気にかかっていた。

セレスティーネは死んで──殺されて、その後、父や母、兄はどうしただろうかと。

抗議したのではないか。婚約者だったとしても、相手は王族。しかも、王太子だ。

公爵である父にはどうすることもできなかった筈だが。


悲しんだだろう。でも無茶をして欲しくない。


私が家族のことを聞いた時、キリアは躊躇った。

触れていたからわかる。キリアは緊張し震えていた。

だから、前世の家族に何かあったのではと思ったのだ。

キリアに言えない事情があるなら、自分で調べるしかない。

どっちみち、今になるか、先になるかで、知る必要はあったのだ。


私は貴族名鑑を抜き取り下におりると、本を机の上に置き椅子に腰かけた。

そして、公爵家のページを開き、ゆっくりと名前を確認していった。


そうして、私は残酷な事実を知ることになる。

前世のセレスティーネのいたバルドー公爵の名は、存在は、名簿から消えてなくなっていたのだ。




私は再びキリアに会いに行った。

私は驚くキリアに飛びつき、しがみつくようにして、そして声を上げて泣いた。

私についてきてくれたミリアは突然の私の行動に驚いて戸惑っていたが、説明はできなかった。キリアと再会したことで、いつかは話さねばと思ってはいたが。


残酷な事実。

これまでは、第三者のように見ていた前世の出来事が、残酷な事実を知ったことでリアルに私に襲いかかってきたようだった。


セレスティーネの家族は、愛していた大切な家族は───もういない。


◇ ◇ ◇



「お嬢様、旦那様から午後には戻ると連絡がありました。お嬢様に会わせたい方もご一緒だとか」


「私に会わせたい?誰かしら?」


さあ?とミリアは首を傾げる。突然の伯爵の帰宅は、家の者たちにも少なからず困惑させている。

どうやら、泊まりの客らしく、部屋の用意や食事の用意も言いつかっているらしい。


「それにしても、お父様に会うのは何ヶ月振りかしら。最近ようやくお顔を覚えたのよ」


「お嬢様」


ミリアは苦笑いを浮かべた。


「冗談よ。お父様みたいな男前は一度見たら忘れないわ」


エヴァンス伯は少年の頃から美男子で有名だったらしい。

セレスティーネは会ったことはなかったが、友人たちの会話の中で何度か出てきた名前だった。

私は、その美男子の父に似た所はない。

似ていたといえば、生まれた時、父も私も赤毛で、成長してから色が変わったということくらいか。

もっとも、父は黒髪に、私は金髪になったが。


ミリアは庭で読書をしていた私に紅茶を淹れてくれた。

お茶菓子は、キリアの手作りケーキだ。

あれから、何度もキリアに会いに行っている。

家の者には、私がその店のお菓子が気に入ったから、そしてついでにミリアが紅茶の茶葉を買うというのが街に出る理由になっている。


ミリアには私の秘密を話した。

すぐには信じられない話だろうが、キリアも肯定したことで信じたようだ。

さすがに、ミリアの年で、27年前の出来事は知らないため、セレスティーネの名前を出してもわからなかったようだ。

ミリアには、私は17歳の時事故で死んだと言ってある。


私があんまりキリアのお菓子を褒めるので、最近ミリアはキリアにお菓子作りを習っている。いつかオリジナルのお菓子を作って私に食べてもらうのが夢だとミリアは言った。


アリステアは家族には恵まれていないが、しかし優しい人たちに恵まれていると思う。

私が暮らすこの家の使用人はミリアも含め皆優しいし、婚約者となったサリオンも、トワイライト夫妻も優しい。そして今はキリアもいる。


うん。これで、悪役令嬢の不安がなければ、今生は幸せな日々を送れそうなのに。


そうだ。学園に行かなければ、ヒロインにも、どの攻略対象にも会わずにすむ。

そうすれば、断罪イベントもなく、平穏に暮らせるんじゃないか。


って、無理だなと私はハァ〜とため息を吐いた。

貴族の子に生まれたからには、絶対に王立学園に行かなくてはならなかった。

ああ、なんで私はまた悪役令嬢なんだあぁぁあ!乙女ゲームなんかくそくらえだ!


「お嬢様?」


「王立学園入学まで、後一年半ね」


「はい!ミリアがお嬢様付きのメイドとしてお供しますので!それまでに、キリアさんからしっかりお菓子作りを学んでおきますから!」


「ありがとう。心強いわ、ミリア」


私は微笑んで、ケーキを口に入れ、薫りのいい紅茶を飲んだ。





お昼を回った頃、父親が帰ってきた。

なんだか、いつもと違って表情が柔らかいなと思ったら、馬車から降りた父親に続いて、見たことのない女性が降りてきた。

父親に手を取られて降りてきた女性は、若くはないが、といって老けてもいない。

40前後くらいの美人だった。

柔らかくウェイブした、光に透けるような薄茶色の髪。

髪の色は薄いのに、瞳の色は深いダークブルーだった。


見知らぬ女性は私を見ると、にっこりと優しく微笑んだ。


「マリーウェザーだ。これからおまえの母親になる女性だ」


想定外!思いがけない父の言葉に、私は目を丸くした。

そして、納得した。母が亡くなってからもう五年以上がたつ。

父が再婚しないと考える理由は見当たらない、と。


「マリーウェザーよ。よろしくね、アリステア」


優しそうだ。どこの誰かはわからないけど。父は私に話す気はないらしい。

ポカンとしている私を置いて、父は新しい妻だという女性を連れて奥へ行ってしまった。


「お嬢様──」


「綺麗な人だったね、ミリア。私のお母さんだって」


不安そうな表情で私を見つめるミリアに私は笑ってみせた。

大丈夫。大丈夫、と私は心の中で何度も呟いた。

うまくやっていける。多分。




父は、三日間家にいて、それから王都に戻って行った。

再婚しても、やっぱり家にはいないんだ。

まあ、父がいてもいなくても、問題はない。

父は私という存在はないもののように考えているみたいだから。

生まれてから今まで、私は父とまともに顔を合わせたことがなかった。


迷子になったら、父は私の顔ではなく髪の色で判断しそうだ。

いや、髪の色も覚えているかな?いや、さすがにわかるだろう。金色だぞ。


「お嬢様。奥様が、お庭でお茶会をしないかと」


「あら、ご招待なの?行くわ。着替えるから手伝ってくれる、ミリア」


「はい」


今朝父が王都に戻り、一人家に残った新しい母は、ミリアから聞いたところ、積極的に動き回っているらしい。

どうやら、活発な女性のようだ。


最初に紹介され挨拶をした日から父が出かけるまで、全く姿を見かけなかったので、ちょっと不安を感じていたからお茶のご招待は嬉しかった。

最初の印象は優しそうだったが、人となりはちゃんと会話をしてみないと判断できない。

実の母親からは無視されまくったので、継母となる彼女とは少しでも話が出来たらいいなと思っていた。


着替えてから庭に出ると、継母のマリーウェザーが楽しそうに歌を歌いながらお茶の用意をしていた。

呟くような小さな歌声だったが、私はその歌を聞いてギョッとなった。

何故なら、昔聞いたことのある歌だったからだ。


この歌──知ってる‥‥‥


あら、と私に気がついたマリーウェザーが振り返った。


「良かった。来てくれたのね。嬉しいわ、アリステア」


やはり優しい笑顔。でも、少し緊張してる?う〜ん?


私は予想もしていなかった事実に、とにかく向き合うべく彼女の方へ歩み寄り、そして尋ねた。


「ソードキルダー、お好きなんですか?」


彼女が持っていた紅茶のポットが、ガチャンと大きく音をたててテーブルに置かれた。

いや、叩きつけた?


え?なに?と彼女は強張った顔で私を見つめてきた。


「ソードキルダーです。今歌ってたのは、映画版のオープニングですよね?私も見に行ったから知ってます」


え?


「え?アリステア、あなた‥‥まさか───」


ああ、やっぱりな、と私は思い、ニコッと笑った。


「私も日本からの転生者なんです」


やっぱりぃぃぃ!とマリーウェザーは上半身を反らし、右の人差し指を突き出しながらカン高い声を上げた。

あ、なんだかギャップが───見た目は本当に上品な貴族のご婦人という印象なのに。


「そうよね!この世界でソードキルダーを知ってる人間なんていないもの!」


キャア〜!と声を上げながら、新しい母は私を抱きしめてきた。


「まさか、ここで私と同じ転生者に会えるなんて驚いたわ。奇跡よ!それも、こんな超美少女!」


ミリアはマリーウェザーが唐突に私を抱きしめたのでビックリ顔だ。

いや、驚くのが当然ね。私も驚いた。


〈ソードキルダー〉

TVアニメでそこそこ人気があったが、放送終了後映画化された途端爆発的な人気となって、毎年夏になると新作映画が公開されるようになった作品だ。

異世界に召喚された男子高校生が、人と魔族の戦いに巻き込まれる剣と魔法の物語。

中学の時からの友人が大ファンで、毎年映画館につきあわされていた。

まあ、面白かったからいいのだが。


テーブルを挟んで座ると、マリーウェザーは気持ちを落ち着かせようと深く息を吸って吐いた。


「私は某IT企業の社長秘書をしてたの。享年は、多分28歳」


「多分?」


「いつ死んだのか覚えてないのよ。多分覚えている最後の記憶からしてその年かと。死因は過労死かしら」


「過労死!ブラックだったんですか!?」


「そんなんでもなかったと思うけど。忙しかったのは確かね。あなたは?」


「私は大学生でした。二年。バイトの帰りに通り魔にあって‥‥‥刺されて死んだんじゃないかと」


「うわ‥‥災難だったわね」


「‥‥‥‥‥」


「でも、良かったわ。あなたが同じ転生者で。私、前世も今の生でも子供はいなかったから。あの人から娘がいるって聞いた時、どう接しようかと悩んだわ。だって、丁度思春期でしょ?難しい年頃 なのに。親の再婚なんて嫌だって思うでしょう?」


「あ、いえ別にそんな」


「大学二年なら20歳?」


「はい」


「だったら、もう思春期は終えてるわね。でも、突然知らない女が来て、新しいお母さんだと言われたら、さすがにびっくりするわね」


「そうですね。驚きました。マリーウェザーさんは、ご結婚されてたんですか?」


「してたわ。先立たれてしまったけど」


「そうですか。〝ご愁傷様です〟」


マリーウェザーはクスッと笑った。


「その日本語、懐かしいわ」


あの‥‥と、ずっと私のそばにいて黙って会話を聞いていたミリアが、耐えられなくなったのか会話に割って入ってきた。


「あら、ごめんなさい。あなたにはわけがわからないわね」


「いえ。お嬢様が一度亡くなって生まれ変わったことは聞いて知ってますので。奥様もそうだったのですね」


「ええ、そうよ」


「聞き取れなかったのですが、奥様が前世おられた国って」


「日本よ。ニホンって国」


「ニホン──聞いたことありません」


「でしょうね」


「でも、なんだかお嬢様も同じ国にいたような話に聞こえたのですけど。お嬢様。お嬢様は前世はこの国の公爵家のご令嬢だったのですよね?」


「‥‥ええ」


マリーウェザーは、えっ?という顔になった。


「どういうこと?あなた、日本からの転生者なのでしょう?」


「そうなんですけど、この世界に転生してから17年で死んでしまったもので。それから、 また同じこの国に生まれ変わったんです」


「ええ〜っ!?そういうことってあるのぉっ!だったら、あなた二度目の転生なのね?」


驚いたわ。じゃあ、私も死んだらそうなる可能性が、と彼女は戸惑ったように呟く。


「いつ亡くなったの?この国で生きていたのよね?最初の転生」


「27年前です」


「あら、それなら知ってるかもしれないわ。公爵家の令嬢だったのよね。どちらの?前世では、なんて名前だったの?」


「‥‥‥‥」


私は一瞬答えるのを迷った。

マリーウェザーの年齢から言って、当時のことを覚えているかもしれない。

いや、きっと知っているだろうな。


「セレスティーネ・バルドーです」


「は?」


まさか、とマリーウェザーの深い蒼の瞳が大きく見開かれた。


そんな、と私を見つめる彼女の瞳が、信じられないと語る。




セレスティーネ・バルドー ──────


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