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物事が動き出す時 4



「姉さん!姉さん!」


朝の準備をすませ、イリヤと共に食堂に向かって歩いていたレベッカ・オトゥールは、早朝とは思えない騒々しさに眉をひそめた。

バタバタとうるさく音を立てながら廊下を走って来たのは、弟のルカスだ。

いつもはもっと遅い起床である筈の弟が、既に制服を着ているのを見てレベッカは不思議に思う。


しかし、よく見るとルカスが着ているシャツが変に皺が寄っていた。

もしかして、昨日から着替えてない?


「姉さん、アリステアと二人で話がしたいんだけど、だめかな?」


はあ?とレベッカは眉をひそめた。


「駄目に決まってるでしょ。だいたい、何セレーネを呼び捨てにしてるのよ?」


「どうしても聞きたいことがあるんだ!お願い!彼女に会わせて!」


拝むように両手を合わせる弟の姿に、レベッカはムッツリした表情になった。


「図書室のことは、私が頼んだことだけど、二度はないわ。セレーネには婚約者がいるのよ。いくら私の弟でも二人きりにはできないわ」


「アリステア様とは、早朝、東屋でお会いしてるのですからご一緒すればどうですか?」


イリヤが言うと、それじゃ駄目なんだ!とルカスは首を振った。


「そんなに簡単な話じゃないんだよ!せめて半日!」


はあぁぁぁ?とレベッカは思いっきり顔を歪めると、却下!と言って背を向けた。


「姉さん!」


「ふざけるんじゃないわよ!私でさえ、クラスが違うからセレーネとは長く会えないというのに!昨日、やっとセレーネと街に出掛けられたのよ。それでも、門限があるからたいして一緒にいられなかったんだから!」


「お願い、姉さん!一生のお願い!アリステア嬢と話せる機会を作って!」


この通り!とルカスは姉のレベッカに向けて膝を折り頭を下げて頼んだ。


「嫌よ」


レベッカはプイと顔を背けて歩き出した。

ルカスは、慌ててレベッカの制服の裾を掴んだが、彼女の足は止まらない。


「姉さん、お願い!」


お願いぃぃぃぃ〜なんでもするからさぁぁぁぁ!



──────────────

       ───────────────────



レベッカと一緒に王都の街へ遊びに出た翌朝、寮の部屋に思いがけない訪問者があった。


朝、目が覚めてベッドから起き上がった私は、いつものように部屋の窓を開けると、突然外から何かが飛び込んできた。


驚いた私が小さく悲鳴を上げたので、アスラとミリヤが大きくドアを開けた。


「アリス!」


「お嬢様!」


私の顔の横を掠めるようにして飛び込んできたそれは、パニックに陥っているのか壁や天井にぶつかりながら飛び回っていた。

ぶつかるたびに、それは高い声でピーピー鳴いた。


鳥?


よく見ると、それは手のひらに乗るくらいの小さな鳥だった。

興奮が収まらないのか、小さな鳥はバタバタと羽根を動かしながら、部屋の中を飛び回り続けた。

今の所、誰にもぶつかってはいないが、危険ではある。

身体は小さくても、嘴で突かれては怪我をしかねないと判断したアスラが、飛んでいる鳥を叩き落とすためか、手近にあったクッションを掴んだ。


「待って、アスラ!」


私はクッションを振り上げたアスラを止めると、鳥に向け語りかけた。


「落ち着いて──このままじゃ、怪我をするわ」


おいで、と私が右手を伸ばすと、鳥はフワッと天井近くまで上昇してからゆっくり降りてきて、それから私の指先に止まった。

小さく細い足が、しっかりと私の指を掴んでいる。

ついさっきまでのパニック状態が嘘のように落ち着いていた。


大きさは、文鳥くらいだろうか。

全体に鮮やかな青色で、頭の一部だけ三日月のような白い線があった。

嘴と目は黒い。大騒ぎしていた鳥だが、今は私の指先にチョンと止まっている。


「いったい、なんなんでしょう?」


「大きな鳥に追われたか、猫にでも襲われたんじゃないか」


大人しくなった青い色の鳥は、小首を傾げながら私を見つめていた。

可愛い。


「これは何という鳥かしら?」


私が尋ねると、2人は、さあ?と首を傾げた。


「村にいた時、青い鳥は見たことがあるんですけど、こんな全体が青いのは初めて見ます。大抵、首から腹の部分は違う色なんですけど」


「私も、こんな鳥は初めて見る」


そう……と私は呟くと、指の先に止まっている小さな鳥を顔の前まで引き寄せた。


「あなたは、どこから来たの?」


そう尋ねると、鳥は身体を伸ばしてスリ……と自分の頭を私の頬に擦り付けた。

それを見たミリヤが、目を丸くする。


「まあ!えらくお嬢様に懐きましたね!人に飼われていた鳥でしょうか?」


「え?だったら、放さないで保護した方がいいのかしら?」


私がそう言った時、バサッと鳥が羽根を広げた。

あっと思った瞬間、鳥は開いていた窓から外へ飛び去っていった。




「全体が青い色の鳥?」


今朝、部屋に飛び込んできた鳥のことをレベッカに話すと彼女も首を傾げた。


「私も見たことがないわ。でも、青い鳥って何か素敵ね。良いことがありそうな気になるわ」


「じゃあ、それはきっと、幸せの青い鳥ね」


そう笑みを浮かべて言うと、レベッカは大きく目を見開いて、そういう物語もありね、と笑った。

それからいつものように私たちは楽しくお喋りして、そろそろ学校へ、となった時、レベッカは急に溜め息をついた。


「どうしたの、レヴィ?何か心配事?」


「あのね、セレーネ──弟のルカスが、今朝、急にセレーネと2人っきりで話がしたいって言い出したの」


え?


「勿論、2人っきりなんて絶対にさせないわ!ただ、あんまり必死に頼むもんだから……」


思い出しても腹が立つわ。なんでこの私が──と、レベッカはブツブツと口の中で文句を連ねている。よほど不本意なようだ。


「セレーネが都合のつく時でいいの。私の家に来て、ルカスに会ってくれない?」


「だったら……休みの日がいいかしら?」


パァ、とレベッカの顔が輝いた。


「ええ、そうね!そうしましょう!ルカスには早めに話をすませるよう言っておいたから、その後、サロンでお茶しましょう!お菓子もたくさん用意しておくわ!」


ええ、楽しみねと私が頷くと、レベッカは嬉しそうに笑った。

きつい顔立ちだと言われているレベッカだが、笑顔は本当に可愛らしい。

いつもは社交辞令でしか笑わないというレベッカだから、きっと誰も知らないのだろう。

本当にもったいない。


ルカス・オトゥールが話したいというのは、間違いなく私が日記に書いていたことだろう。

彼は〝暁のテラーリア〟を知っているから、当然、悪役令嬢のセレスティーネ・バルドーのことも知っている。

だから、書いた。もしかしたら、私がこの世界に二度生きることになった意味を、一緒に考えられるかもしれないと思った。


「行きましょう、セレーネ」


「今日も図書館に行くのか、アリス」


「ええ。また、いつもの時間にお願いね」


ああ、とアスラは頷き、学舎へ向かう私とレベッカを見送ってくれた。



─────────

     ────────────────



(あら、どうしたの?そんな顔をして)


(お母様……この頃、お歌が聞こえるの)


(まあ、どんな歌?)


(とても綺麗な旋律なの。でも、複雑で、歌おうと思っても無理なの。私じゃ歌えないの)


(そう。じゃあ、それを楽譜にできる?)


(やろうとしたけど、ダメだった。私が知ってるどの音にも合わなかったの。わからないの。どうしてかな、お母様?)


(そう……それなら、歌っているのは、人じゃないかもしれないわ)


(人じゃないの?)


(ええ、そうよ。多分、それは────)



夢を見た。どこかわからない場所。でも、何故かとても懐かしい……

眼下に広がる街は全体的に白っぽくて、エーゲ海の街並みに似ている。

そういえば、小さな女の子がお母様と呼んでいた女性は、顔はよくわからなかったが、ギリシャ神話に出てくる女神のようだった。目に鮮やかな青い髪が美しくて。


青い髪?青い髪なんて、この世界には──


コツ…と頭に何かが当たった気がした。

なんだろう?意識がゆっくり浮上していくのを感じながら目を開けると、青い色が見えた。

えっ!と驚いて目を開けると、その青いものは、ピッ!と小さく鳴いた。


「あら?あなた……」


瞬きをしながら頭を上げた私が見たのは、今朝窓から飛び込んできた、あの青い小さな鳥だった。


いったいどこから? と窓を見ると何故か少し開いていた。どうして?

 

青い鳥は枕に飛び乗ると、じっと私を見つめてきた。

おはよう、と私が挨拶すると。目の前の鳥は挨拶を返すように。ピィと鳴いた。

驚かさないよう、そっと人差し指を伸ばすと、鳥は青い頭を指にすりつけてきた。

可愛い……

こんなに人懐こいのは、やはり飼われていたからだろうか。


「飼い主が探しているかもしれないわね」

 

保護した方がいいのかもしれないが、なんだか、この子を鳥籠に入れたくない。

触れてみても、瘦せてないし、怪我もしていないから、このままでもいいかな。

綺麗な青──

うーん? どちらかというと──

瑠璃色かしら? と口に出すと、ピィィィと、唐突に鳥が大きく鳴いた。


「アリス!」


着替えの途中だったのか、白いシャツ姿のアスラが部屋に飛び込んできた。

と同時に、鳥が羽根を広げ、バサバサと羽音をたてながら部屋の中を一回りすると、開いていた窓から外へ出ていった。


「あの鳥は──」

 

茫然と鳥を見送ったアスラが、ベッドから起き出した私の方に顔を向けた。


「前に来た鳥が、また来てくれたみたい」

「アリス。夜は窓を閉めた方がいい。入ってくるのは鳥だけとは限らないんだ」

 

あ、と私は口を手で覆った。


「そうね。夜中に目が覚めたから、少し窓の外を眺めていたのだけど、キチンと閉めなかったみたい。気を付けるわ。朝早くに騒がせてごめんなさい、アスラ」

 

私が謝ると同時に、ミリアが寝起きのぼんやりした顔をドアからのぞかせた。


「お嬢様? 何かありました?」

 

いいえ、と私は笑いながら首を振った。


「何もないわ、ミリア」



すみません……ちょっと体調不良で、これから当分の間更新ができません。

他にも諸事情があって時間的余裕がないのですが。

できれば、夏までには更新を再開したいのですが、今のところなんとも……

少しでも書けたら更新したいとは思うのですが。更新待って下さってる方、本当に申し訳ありません!




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― 新着の感想 ―
[一言] 糞国王引きずり出して首に縄かけて吊るしてしまえ 過去の時点で簒奪することになろうとも屑の血を断っておくべきだったな
2021/04/28 19:19 退会済み
管理
[一言] お大事になさってください。 続きを楽しみに待っています。
[一言] 何をするのも、まずは健康第一です。 しっかり養生してご自愛くださいませ。 お元気になられてからの、更新再開を 心待ちにしています。
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