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王立学園を追い出されました。

更新、遅くなりました。

翌朝レガールへ戻るレベッカを見送ってから、私は寮の部屋でミリアと一緒に朝食をとった。


「レベッカ様が早く学園に戻ってこられたらいいですね、お嬢様」


「ええ、ほんとに」


5歳の時に王宮で初めて出会ったレベッカは、今では私にとって親友とも言える存在になっていた。

前世でも友人はいた。だが、親友だと思える相手はいなかったと思う。

何故なら、今、会いたいと思える前世の友の顔が思い浮かばないからだ。

だがレベッカは、私が再び生まれ変わることがあり、また前世を覚えていたなら、きっと会いたいと思える友に違いない。


しかし、その親友が私と同じ悪役令嬢と呼ばれる存在であったことには驚いている。

前前世である芹那が初めてやった、セレスティーネ・バルドー が悪役令嬢となっている乙女ゲームのタイトルはたしか、【暁のテラーリア】だったと思う。

サブタイトルがついていたと思うが、それは思い出せない。


テラーリアというのがゲームの舞台となる世界の名で、ちゃんと地図が作られていた。

大陸と、小さな島々があり、それぞれに国の名前が記入されていた。

そのせいか【暁のテラーリア】は出た当初からシリーズになるのではないかと言われていた。

なので、レベッカがレガール国の悪役令嬢で、断罪イベントが存在するとわかった時、ああ、やっぱりそうなんだと思ったのだ。

私がやっていた乙女ゲームは、シリーズになっていたのだと。


私は第一作目だけしか出来なかったが、続編が出ることは知っていた。

それから、テラーリアに存在するそれぞれの国の物語が作られたのだとしたら。


いくつかあった島国の名前までは覚えていないが、私のいるシャリエフ王国とレベッカのいるレガール国、そしてガルネーダ帝国。大陸に存在する大きな国はこの三つ。

それは、我が家にある地図でも確かめた。


ゲームがどこまで作られたのかわからないが、それぞれにヒロインがいて、攻略対象がいて、悪役令嬢がいるのだとしたら。

そして、私のような転生者がいるとすれば────

少なくとも、私が知る異世界転生者は二人。母マリーウェザーとレベッカの弟のルカス。

ルカスは間違いなく、ゲームを知っている人間だと思う。

だから会ってみたい。彼はどこまでゲームのことを知っているのだろうか。




この日の授業は、昨日夜会があったため午後からになっていた。

昼もミリアと一緒に食事をしてから私は教室に向かった。


マリアーナ様はどうされただろう。

実家に帰られたので、今日は登校はされないだろうが。



昨日の夜会で目にした光景は確かに私の前世の記憶を刺激したが、マリアーナ様の堂々とした対応には感動した。

それにしても、婚約者候補の段階であっても、第二王子のあの一方的な言い方はどうかと思う。それも、人の目の多い場所で。

マリアーナ様の血の気を失った顔は、今も思い出せるし、理不尽だと思う。


「アリステア・エヴァンス」


「はい?」


教室へ向かうため、二階の渡り廊下を歩いていた私を呼び止めたのは、昨日の夜会でエイリック殿下と共にいたレオナード・モンゴメリだった。

呼び捨てされたことには気づいていたが、私は何も言わなかった。

レオナード・モンゴメリは侯爵家。伯爵であるエヴァンス家より爵位は上だ。

とはいえ、初めて声をかける女性に対して呼び捨ては失礼ではあるが。


なんだろう?私を見る目が冷たい?


「なんでしょうか、モンゴメリ様」


「マリアーナ嬢のことで、貴女に聞きたいことがあるんだけど、一緒に来てもらえるかな」


「マリアーナ様のことですか。はい、わかりました」


私は頷くと彼の後についていった。

この時、授業があるからと拒否すれば良かったのかもしれない。

彼の態度が、なんとなく、おかしいと思ったのに。


「ねえ、アリステア・エヴァンス。君って、虫も殺せないか弱い令嬢に見えるけど、実際は凄いんだね。こういうのをギャップというのかな」


「は?なんのことでしょうか」


私が首をかしげると、彼は口角を上げて笑った。


「そう!その顔!ほんと騙されちゃうよね」


「‥‥‥‥」


レオナード・モンゴメリは、サラサラした髪質の金髪の美少年で、頭は凄くいいが、どことなく子供っぽい印象があった。

そこがいいと令嬢方には人気だが、私はあまり関わりたくないタイプだった。

好き嫌いが激しいところがあり、感情がはっきり表に出るのだ。


明らかに、彼は私のことを嫌っている?何故なのかわからないが。


嫌な予感がする。ついていったのは間違いだったろうか。


その予感は、促されて入った部屋で待っていた人物を見て確信した。

そこにいたのは、エイリック殿下と、公爵令息のモーリス・グレマンだった。

サリオンの姿はない。


「よく来てくれたね、アリステア・エヴァンス伯爵令嬢」


私に向けて優しげに微笑むエイリック殿下だが、彼の薄い水色の目が笑っていないことがわかる。

ああ、彼らはまだ若いのだ。感情をうまく隠すことができないほどに。


あの目を私は知っている。

前世のセレスティーネが見た婚約者のレトニス様とご友人の二人の、まるでゴミを見るようだった、あの目とそっくりだ。

憎しみではなかった。あれは人を蔑む目だった。


そして、今アリステア・エヴァンスである私が向けられている目もまた、蔑みだった。


前世の時もわからなかったが、今この現状にあっても私にはわからない。

いったい、私が何をしたと言うのだろう?


私は覚悟を決めるように、心の中で深呼吸を繰り返した。


「マリアーナ様のことをお聞きしたいとお伺いしましたが」


「ああ、そうだね。でも彼女のことは今はいいんだ。昨日ちゃんと話したからね。マリアーナ嬢がちゃんと罪を自覚してくれれば、もう何も言わないよ」


私は眉をしかめた。

何故そんな言い方をするのだろう。


「マリアーナ様の罪とはいったい何なのでしょう?」


「ああ、君もわからないんだ」


「怖いよねえ。こんな綺麗な顔してて、中身は醜い嫉妬の塊なんだものね」


嫉妬?私は首を傾げた。

レオナード・モンゴメリは、何が言いたいのか。


「あの‥‥サリオン様はいらっしゃらないのですか?」


サリオン様は確か、学園内でのエイリック殿下の護衛をまかされていたはずだ。

なのに、この場にいないのは変だなと思って尋ねたのだが、レオナードは、ハッと鼻で笑った。


「それを知ってどうするの?また、やっちゃう?」


やっちゃう?何を言ってるんだ、この人は?

彼の思考回路は不可思議だ。言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。


「サリオンには、私の代わりに彼女の見舞いに行ってもらった。その方が、彼女も喜ぶからね」


「彼女?」


「君が階段から突き落としたエレーネのことだ。幸い軽い右足の捻挫ですんだけれど、下手をしたら怪我だけではすまなかったところだ」


そう言ったのは、モーリス・グレマンだった。


「階段の一番上から突き落としたんだって?死んでもいいとでも思ったの?」


「‥‥‥‥!」


私はエイリック殿下たちの言葉に、目を見開いた。

驚きで息がつまり、声が出せない。

やっとわかった。今、私は彼らに断罪されているのだ。


「わからないとでも思った?エレーネは何も言わなかったが、目撃者がいたんだよ」


「私が‥‥突き落とした‥と?」


「マリアーナ嬢がエレーネにした嫌がらせは許せるものではないが、身体を傷つけるものではなかった。だが、君がやったことは、彼女を死なせてしまったかもしれない。重罪だよ」


エイリック殿下が、私に対し反論を許さない口調で断言するのを見て、私はもう駄目だと思った。

王族である彼が、ヒロインであるエレーネ・マーシュを殺そうとしたと思い込んでいるなら、今の私にはそれを覆すことはできない。

これは、続編ストーリーの中の悪役令嬢を断罪するイベントなのだろうから。


昨夜のマリアーナ様の、毅然とした受け答えが思い起こせるが、今思えば、あの時の断罪は断罪と呼べるようなものではなかった。

レベッカも言っていた。甘い、と。

彼らが本気で断罪したかったのは、きっと私の方だったのだろう。


しかし、それは完全な思い違いだ。

私はエレーネ・マーシュを階段から突き落としたりはしていない。

なのに、私は否定するのではなく、怯えてしまうのだ。


「私を‥‥殺すのですか?‥‥私に死ね、と」


この瞬間にも、背後から剣を突き立てられる幻覚に私は襲われた。

背後には誰もいないというのに。


「はあ?何言ってんの?」


レオナードが可愛らしい顔を顰める。


「死刑にはしないよ。君がやったことは重罪だけど、彼女は無事だったからね。だが、罰は受けてもらう。君には学園から出て行ってもらおう。つまり退学だ。そして、王都に立ち入ることも禁止だ」


エイリック殿下がそう私に告げた。

これが、彼の断罪か。


なんだか、バカバカしくて笑いがこみ上げてくる。

やっぱり茶番ではないか。

彼らの言う、私が犯したという罪などもとからないというのに、彼らは私を裁こうというのだ。


「私はエレーネ様を突き落としたりしていません」


「往生際が悪いね。目撃者の証言があると言ったろう。マリアーナ嬢も罪の認識がなかったけど、君のそれは悪質だからね。でも言い訳があるなら聞くよ」


私は目を瞬かせながら、エイリック殿下を見た。


「殿下は私を殺さないのですね」


「さっきから何を言ってる。そんなに死にたいのか」


いえ、と私は首を振った。


「ただ、レトニス様なら、ご自分が愛する令嬢に害をなした人間は生かしてはおかないだろうと思うので。冤罪だと訴える時も与えてもらえず‥‥‥なのに、殿下は私の話を聞くと仰ったので少し驚きました」


お優しいのですね殿下は、と私が言うと、目の前の顔は驚いた表情になった。


「何を───いや、それより、レトニスというのは父上のことか。父上はそんな非道な方ではない。相手が罪人だろうとちゃんと話を聞くぞ」


そうなのですか、と私は微笑んだ。


私の態度は奇妙だったのか、さっきまで責めるような目をしていた彼らは、ポカンとした表情を浮かべていた。


私は殿下達に向けて、淑女の礼をした。

それもまた、彼らには奇妙に見えたろう。


「エイリック殿下が私を罪人と仰られるなら、私には言うべき言葉はございません。王族の言葉は絶対ですので。殿下のご意思であれば、私は学園を出て行き、二度と王都に立ち入らないことを誓いましょう」


「あんた、何言ってるの。まるで、自分は無実だと言いたげだけど。エレーネはサリオンのことが好きで、サリオンもエレーネのことが好きなんだ。それは身近にいる僕たちには、はっきりとわかる。あんただってわかった筈だ。だから、エレーネに嫉妬して突き落としたんだろ」


「サリオン様は、私の婚約者です」


「解放してやれよ。あの二人は好き合ってるんだから」


「婚約者の心が自分にないのは辛いだろう。辛くて階段から突き落とそうとするくらいだから。許せる罪ではないが、同情はする。だが、私たちにとって大事なのは、友であるサリオンとエレーネだ。私は、彼らを傷つけることは絶対に許さない」


「‥‥‥わかりました。サリオン様が私との婚約を解消したいと思われているのでしたら、私はそのように致します」


私はエイリック殿下に向けて退室の礼をすると、部屋を出て行った。

彼らは何も言わなかった。最後に罵倒されるかと思ったのだが、意外だった。


部屋を出て、震える足を寮の方へと向けた私は、ホッと息をついた。

倒れなかった自分を褒めてやりたい。

怖かった。何度も殺される恐怖を感じて身体が震えた。

それを、殿下たちは罪を暴かれたことによる恐怖で震えているとでも思ったかもしれない。


続編の悪役令嬢であるアリステア・エヴァンスは、やはりヒロインに害をなしたという理由で断罪される運命だったらしい。実際は何もしていないのだが。前世に受けた恐怖で、意識を失ってもおかしくはなかった。踏みとどまれたのは、予想したよりもエイリック殿下が優しい性格だったからだ。

レベッカはエイリック殿下のことをバカだと言っていたが、傲慢とは言っていない。


続編を知らない私は、悪役令嬢が断罪の後、どうなるのかわからなかった。

だから、母と色々話し合った。

サリオンがヒロインと恋愛関係になれば、婚約破棄のイベントが起こるかもしれない。

その場合は、前もってトワイライト候に婚約解消の意思を伝えようと決めていた。

だが、サリオンがマーシュ伯爵令嬢と恋仲になっているようにはとても思えなかった。

だから、サリオンからの断罪イベントはないと母も言っていた。


まさか、第二王子のエイリック様から断罪を受けるなんて。




「お嬢様?どうされたんですか?授業は?」


授業に向かった筈の私が早々に戻ってきたので、ミリアは驚いた顔で歩み寄ってきた。


「ちょっと問題が起きたの。紅茶を飲みたいわ、ミリア」


「はい、すぐに」


私はソファーに腰を下ろすと、細く息を吐き出し、気を落ち着けようと目を閉じた。


「ほんとに、どうされたんですか、お嬢様」


ミリアが淹れてくれた紅茶を一口飲むと、私はやっと笑みを浮かべることができた。

私が硬い表情で部屋に戻ってきたので、ずっと気にしていたミリアもホッとした顔になる。


「エイリック様に学園を出ていくように言われたの。つまり、退学ね」


「退学!?何故、お嬢様が!」


「前世の時と同じね。私が何もしていなくても、断罪されるようだわ」


「わかりません!どうしてそうなるんですか!やっぱり、レベッカ様の仰る通り、第二王子はバカなんですか!」


「そうね。バカなんだわ。普通なら、人を罰するならその前にちゃんと調べる筈なのにね。私が悪役令嬢だから、最初から悪だと決めつけているのかしら」


「お嬢様が悪役令嬢であるわけないです!だいたい、ヒロインとか悪役とか勝手に役を当てはめるなんてあり得ないです!小説やお芝居じゃないんですから!」


そう、そうよね、と私はクスクス笑った。ああ、ミリアが側にいてくれて良かった。


「お嬢様‥‥エイリック殿下がお嬢様に何を言ったのかわかりませんが、お嬢様が無実だとわかってもらうことはできないんですか」


「本当ならそうするべきなんでしょうね。でも、できないの」


「何故です?マリアーナ様はちゃんと殿下に意見されたと聞きました。黙っていては罪を認めることになりますよ」


「‥‥‥‥‥」


私は、カップを持ち上げ紅茶を飲むと、ゆっくり口を開いた。


「学園に入る前からずっとお母様と話し合ってきたわ。どうしたら悪役令嬢の役を与えられた私がその役割を終えられるかって」


「役割を終える‥‥ですか?」


意味がわからないのか、ミリアは首を傾げた。

わからなくて当然かもしれない。

一応、ゲームの話はしていたが、やはり自分が人の作ったストーリーの中に組み込まれている、なんて納得できるものではない。


この世界は架空の世界であっても、そこに生きている者たちにとっては現実世界なのだから。


「話を一旦終わらせる、と言えばいいかしら。私はここで退場し、その後のことは成り行きに任せるの」


「成り行きに任せる、ですか」


「でも、お母様には何か考えがあるようだったけど」


「そうですよね!奥様が黙っていらっしゃるわけないですもの!」


明るく断言するミリアを見て、私も笑って頷いた。


「それで、お嬢様はお屋敷に戻られるんですね」


「いいえ。私は国を出るわ。ずっとではないけど」


「ええっ!まさか、お嬢様!国外追放とまで言われたんですか!?」


「違うわ。国王ならともかく、第二王子であるエイリック様にそこまで言える権限はないでしょう」


ああ、でも王都に足を踏み入れるなというのも、エイリック様だけの判断では無理かしら。

退学については、学園長に言えば可能だろうけど。


「これもお母様と話をして決めたことなの。もし王族が断罪イベントに関わることがあれば、しばらく国外に出ていることにしようと」


「その必要があるというなら仕方ないですけど───勿論、私もお嬢様について行きますから!」


「ありがとう、ミリア」


「奥様と決めたなら、どこへ行くのかも、もう決まっているんですね」


ええ、と私は頷いた。


「キリアとずっと話していたことがあるの。迷いもあったけれど、行くことに決めたわ」



私は、アロイスお兄様に会うために、ガルネーダ帝国へ行くわ。


次回は〝断罪された王子さま〟です。

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