お茶会に誘われました。
遅くなりましたが続きです。
私の婚約者であるサリオン・トワイライトと親しげに話をしていた、赤髪の少女と私は同じクラスだった。
名前はエレーネ・マーシュ。
マーシュ伯爵家の令嬢らしいのだが、前世の記憶を探ってみてもマーシュ伯爵という名に聞き覚えがなかった。
私がセレスティーネだった時、貴族、特に伯爵以上の名前は全て覚えていた筈なのだが。
レベッカは、赤髪の少女と話しているのが私の婚約者のサリオンだと知ると一気に険しい表情になったが、それだけで何かを言うことはなかった。
ただ、眉をひそめ何事かを考え込んでいる様子だった。
昔、婚約したばかりのサリオンが、私に向けて好きな人がいると言ったことを、レベッカに送る手紙に書いたことがある。
その時レベッカは私のためにとても怒ってくれて、直接説教をすると言う彼女をイリヤと彼女の弟が必死に引き止めたという経緯があった。あの時は本当に申し訳なかった。
二人が何を話していたのかはわからない。
親しげに見えたが、実際親しいのかもわからなかった。
何故ならその日、サリオンとは一度も顔を合わせることがなかったから。
昼食時、食堂にもサリオンの姿はなかった。
代わりといってはなんだが、食堂で私は奇妙な光景を見た。
伯爵令嬢のエレーネと第二王子であるエイリック殿下、そして彼の身近なご友人らしい二人の貴族令息が仲良さげに食事をしている光景だ。
エレーネと王子たちとはクラスが違う筈なのだが。
入学前からの知り合いだったのだろうか。
「あら、嫌だ。あの光景、なんだか初めて見る気がしないわ」
レベッカと同じテーブルについて昼食をとっていた私は、彼女の言ったことに首を傾げた。
「何、レヴィ?」
「なんでもないわ。どこも同じだと思っただけ。まあ、あのバカがセレーネに近づいてこないだけ良かったわ」
ほんとバカで助かったわあ、とレベッカはクスッと笑った。
なんのことか私にはわからないが、レベッカが楽しそうなのはいいことだ。
慣れない他国で勉学に励む友人が、少しでも楽しんでくれると嬉しい。
ちなみに、レベッカのいうバカとは、十中八九、第二王子のことだ。
5歳の時、初めて王宮のパーティーに出た時にも、レベッカは第二王子のことをあまり良く思ってはいないようだったし。
不敬罪になるからやめろとイリヤから注意されても、聞かれなきゃいいのよと彼女は笑っていた。
第二王子のエイリックを見るのは、5歳の時に会った時以来だった。
その時は王子であることに全く気づかなかった。
記憶通りの薄茶色の髪に水色の瞳。
背はそれほど高くはないが、まだ14歳。これからどんどん成長していくだろう。
顔は幼さは残るが、整っていて美少年と言っていい。
ご友人だろう二人は同じクラスではないので誰なのかわからないが、一人は赤っぽい茶髪で華奢な身体付きをした美少年。もう一人は背が高く灰色の髪で大人っぽい顔立ちをしていた。
そんな目立つ少年たちが、赤い髪の少女を囲んで楽しそうに食事をしていたら、注目の的になるのは至極当然だろう。
貴族令嬢たちは王子やご友人方に見惚れていて、あの赤髪の少女はいったい誰だと気にしているのがありありとわかる。
貴族の令息方はというと、王子や高位貴族だろうご友人たちが気になるのと同時に、赤髪の可愛らしい少女にも関心を持っているようだった。
私はというと、彼らとは違う意味での関心があった。
あの光景はまさにデジャヴだ。
セレスティーネだった時に見た、子爵令嬢のシルビアと楽しげに語り合うレトニス王太子とそのご友人たちの姿が重なるのだ。
とはいえ、あの中に私の婚約者はいない。
だが、今朝見た光景が私の中に暗い影を落としているのは確かだ。
「気にしない方がいいわよ、セレーネ」
「え?」
「第二王子はバカだけど、あの男は少なくともバカではないから」
「あの男って?」
「今セレーネが頭に浮かべた男のことよ」
私はドキッとしてレベッカを見た。私が思い浮かべたのは婚約者のサリオンのことだ。
何故───
不思議そうに目を瞬かす私に、レベッカは赤い唇を弧にして笑う。
何だろう?と私は首を傾げるが、レベッカは、もうその話は終わりだというように最後のデザートに手を伸ばした。今日は苺のムースだった。とても美味だった。
その夜、私はエレーネという伯爵令嬢のこととエイリック王子とそのご友人方のことを、母マリーウェザーに送る手紙に書いた。
私が王立学園に入学したと同時に続編のストーリーは始まったと思っていいだろう。
キャラも内容も、この先どう展開していくのかもわからないが。
だが、私がセレスティーネだった時と同じ展開を辿るのであれば、婚約者であるサリオンとエイリック王子とそのご友人である貴族令息方が、おそらくヒロインであろうエレーネ伯爵令嬢に恋し、邪魔な私を排除しようと動くだろう。
そして最後は断罪か?
ヒロインに対する悪役令嬢の虐めや嫌がらせに我慢できなくなった攻略対象たちが、元凶を断罪するというのが、あのゲームの定番だ。
おそらく、続編だったとしてもそれは変わらないと思う。
どのような形になるかはわからないが、普通は退学か国外追放だろう。
だが、悪役令嬢がヒロインと関わらなければ?
それでも断罪は行われるのか。セレスティーネの時と同じように。
「お嬢様。お嬢様宛に花束が届いたのですが」
「花束?どなたから?」
「サリオン・トワイライト様からです」
え?と私は驚いて立ち上がり振り返って見ると、メイドのミリアが黄色い薔薇の花束を抱えて立っていた。
ミリアの顔が見えなくなるほどの大きな花束だ。
花束を抱えたミリアが歩み寄ると、薔薇の香りが私の鼻腔をくすぐった。
「凄いですねえ。こんなにたくさんの黄色い薔薇は初めて見ますよ」
ミリアは主人の婚約者であるサリオンから贈り物が届いたということがとても嬉しいようだった。しかもそれが黄色い薔薇の花束だということが。
ミリアは私が黄色い薔薇が好きだということを知っているが、サリオンにそのことを言ったことはない。偶然か?
花束には手紙が添えられていた。
私が手紙を抜き取ると、ミリアは薔薇を花瓶に入れるため部屋を出て行った。
サリオンから手紙をもらうのは初めてではない。
婚約してから、何度か手紙のやり取りをしたことがあった。
サリオンが騎士になるために剣を学んだり、騎士団の訓練場に出入りするようになってからは手紙のやり取りはなくなったが、私がよくトワイライト夫人のお茶会に誘われて行くのでそこで会って直接話すことはあった。
手紙には入学を祝う言葉と、近況報告が書かれていた。
母から入学前に知人の娘を紹介され、ずっと領地の家で育ち家族以外の貴族と関わってこなかったようなので入学後は出来るだけ相談にのってやって欲しいと頼まれたことが書いてあった。
トワイライト夫人の知人の娘?
誰とは書いていないが、もしかしてエレーネ・マーシュのことだろうか。
入学式の日、彼女と話していたのは夫人に頼まれたから?
最後に、騎士見習いとなったサリオンは、早朝と授業終了後には騎士団の訓練場に顔を出さなくてはならないことと、第二王子のエイリックの護衛を頼まれたことが書かれていた。
「え?そうなの?」
食堂でレベッカが、サリオンのことは気にしなくていいと言っていたが、このことを彼女は知っていた?
あの朝、サリオンがエレーネと一緒にいるのを見たレベッカは何も言わなかったが、もしかして直接サリオンに会いにいったのではないだろうか。
思いついたら即行動の彼女ならあり得る。しかし、いつのまに‥‥‥
私は一つ息を吐き出すと、サリオンからの手紙を封筒にしまった。
事情がわかったせいか、なんだかホッとした。
私はサリオンに好意は持っているが、いまだそれが恋愛に変わるかはわからない。
今は友人のような好意しか持たないので、もし好きな女の子ができたら応援したいと思うし、勿論その時は婚約解消も考える。
だが、その相手がヒロインかもしれないエレーネ・マーシュであれば、私は嫌かもしれない。ゲームのことだけでなく、なんとなく嫌だった。
それは、エレーネ・マーシュが赤い髪の少女だからかもしれない。
そして、やはり私はヒロインという存在に警戒心を持っているのだ。
学園に入学した時はまだ吹く風にひんやりとしたものを感じていたが、学園生活に慣れてきた頃には明るさと爽やかな風を感じるようになった。
授業にも慣れ、同じクラスの令嬢たちとも話す機会も多くなったそんな頃、私とレベッカは侯爵令嬢であるマリアーナ・レクトンのお茶会に招待された。
マリアーナ侯爵令嬢はレクトン侯爵が溺愛する孫娘だという。
4歳年上の兄がいるようだが、当然卒業しこの学園にはいない。
レクトン侯爵のことは覚えている。
強面なので子供には怖がられていたが、性格は豪快で明るい方だった。
子供は令嬢がお一人だけ。夫人がもう子供を産めない身体なので婿養子をとるのだとよく言ってらした。
そのご令嬢は、私が会った時は確かまだ3歳くらいで、アッシュブロンドに紫の瞳の可愛らしい女の子だった。
母がたまに開いていたバルドー家のお茶会で、侯爵夫人とその小さなご令嬢を見かけることがあった。
マリアーナ侯爵令嬢は、あの小さな令嬢の娘なのだろうか。
お茶会は、学園内にあるサロンの一つで行われた。
お茶会は小さな社交場と言われている通り、学園内では大切な交流の場として奨励されている。
入学してひと月余り。まだまだ知らないことも多く、こういう交流の場は情報収集する上でも有難い。
この日、招待されたのは、私とレベッカ、そしてのマリアーナ嬢のご友人だという二人の令嬢たちだった。
マリアーナ嬢とレベッカが侯爵家、私を含めた三人が伯爵家だった。
皆今年の新入生だ。
マリアーナ嬢は、驚いたことに私の知るレクトン侯爵の小さな令嬢にそっくりだった。
アッシュブロンドの髪に紫の瞳の美しい少女。
まるで、前世で会った小さな少女が成長した姿のようだった。
「レベッカ様、アリステア様、いらして下さって嬉しいですわ」
微笑む顔はとても愛らしく、妖精かと思えるほどだ。
「レベッカ様は、レガール王国からの留学生でいらっしゃいましたね。アリステア様とはご入学された頃より仲がよろしいですが、お知り合いでしたの?」
「ええ。アリステアとは5歳の頃からの友達ですの」
「まあ、それは素敵ですわ。幼馴染みですのね」
「お二人は本当にお綺麗ですわ。お二人共入学された頃からとても有名ですのよ。ご存知かしら?」
は?と私とレベッカはマリアーナ嬢のご友人だという伯爵家の令嬢を見て首を傾げた。
有名とはいったい?
「お二人ともご存知なかったのですね」
彼女たちは、ふふふと笑った。
漆黒の髪のレベッカ様と、黄金の髪のアリステア様が常にご一緒ですのでとても目立つのですわ、とマリアーナ嬢が言った。
「お二人とも、とてもお美しいですし、皆さん遠くからいつも見惚れていましたのよ」
「そうでしたか。少しも気づきませんでした」
私がそう答えると、彼女たちは、 まあと口元を抑えて笑った。
嫌な感じではない。なんだか、とても仲が良さそうな三人だった。
聞いてみると、社交界デビューの時に知り合い、友達になったのだという。
「マリアーナ様は、第二王子のエイリック様の婚約者候補ですのよ」
第二王子───レベッカを見ると、気の毒そうな顔で彼女を見ている。
まあ、まだ候補。婚約者になると決まってはいない。
だが、名家であるレクトン侯爵家のご令嬢マリアーナであれば、第一候補ではないだろうか。つまり、もうほぼ婚約者になることが決定している。
「エイリック様の婚約者になれるかどうかわかりませんわ。最近は気になる方が出来たご様子ですし」
マリアーナがそういうと、友人の令嬢たちがムッとした顔になった。
「あの赤髪の方ですわね。マーシュ伯爵令嬢でしたかしら。あの方、どういうおつもりかしら。エイリック様だけでなく、モーリス様、レオナード様にまでべったりと」
「そういえば、私のクラスの子爵令嬢の婚約者がこの所、マーシュ伯爵令嬢ばかり気にかけていて、話もしてくれないと怒ってましたわ」
「ああ、そういう話、私も聞きましたわ。彼女は私たちと違ってとても親しみやすく、愛らしくて守ってあげたいと思えるそうですわ」
「そうね。確かに可愛らしい方だわ」
「マリアーナ様!マリアーナ様の方が素敵ですわ!負けないでください!」
「そうですわ、マリアーナ様!あんな男たちをはべらして喜んでいるような下品な方が王子妃になるなんて、ゾッとしますわ!」
‥‥‥‥‥‥‥
なんか、早くも嫌われているな、ヒロイン───
前世でのヒロインも令嬢方にはかなり嫌われていた。
逆に令息方には好かれていたみたいだが。
だから、悪役令嬢がヒロインに好意を持つ彼らに嫌われ断罪されることになったのだ。
ヒロインだったシルビアが選んだのはセレスティーネの婚約者だったレトニス王太子だった。
だから、ヒロインにとって邪魔者だったセレスティーネが断罪されたのだ。
だが、今回は?
「侯爵家のサリオン・トワイライト様は、アリステア様の婚約者だと聞きましたが」
「え?はい、そうです」
私はマリアーナに向けて頷いた。
「あの方もマーシュ伯爵令嬢といつもご一緒のようですけど、ご心配じゃありません?」
「いえ。サリオン様は、エイリック殿下の護衛をされているので、いつもお側におられるのです。エレーネ様のお側についているわけではありませんわ」
エイリック王子がいつもエレーネ嬢の側にいるから、まるで取り巻きの一人のように見えてしまうが、注意して見ればサリオンの視線は常に殿下に向いているのがわかる筈だ。
食堂で私も何度か見ることがあったが、彼の視線はちゃんと殿下に向いていた。
エレーネ嬢に向く時は、話しかけられた時だけだ。
「そう。だったら良いのだけど。もし何か心配事があれば、いつでも言って下さいね。相談にのりますわ」
「ありがとうございます」
「いい方だわ。可愛らしい方だし。第二王子と婚約だなんて、なんてお気の毒」
「レヴィったら、相変わらずエイリック殿下の評価が低いのね」
「当然だわ。でも、5歳の時の印象を引きずっているわけではないわよ。ちゃんと成長していれば認めたわ。でもねえ、アレだもの」
マリアーナ様のお茶会を失礼した私たちは、寮へ戻るために中庭へと抜ける道を歩いていた。
道の両側の木々が、気持ちの良い葉擦れの音をたてている。
「ねえ、セレーネ。あなたのお部屋に行っても構わないかしら。もう少しあなたとお喋りしたいわ」
「勿論よ、レヴィ。ミリアが新しい茶葉を手に入れたって言っていたから淹れてもらいましょう」
私とレヴィは部屋に戻ると、早速ミリアに紅茶を淹れてもらった。
「ああ、美味しいわ。マリアーナ様のお茶会で飲んだお茶も美味しかったけれど、ここで飲む紅茶は絶品!」
「ありがとうございます、レベッカ様」
レベッカに褒められたミリアは嬉しそうに微笑んだ。
確かにミリアが淹れてくれる紅茶はどんどん美味しくなっている。
ここ最近はフレーバーティーにもハマっているらしい。
「それにしても、どこも同じなのね」
紅茶を楽しんでいたレベッカが、ふっと息を吐いた。
「どうかしたの、レヴィ?」
「そうね‥‥ああ、そういえば私の弟が変人だってこと言ったかしら」
変人‥‥って。
さあ?と私は首を傾げた。
「変人なのよ、昔から。実の姉である私に対して、悪役令嬢だなんて言うくらいにね」
───悪役令嬢!?
私はギョッとして目を大きく見開いた。
ミリアも驚いた顔で私の方を見つめる。
そんな驚く私たちに気づかずにレベッカは話を続けた。
「悪役令嬢というのは弟のルカスに言わせると、物語のヒロインをいじめまくって、最後は婚約者から婚約破棄される当て馬だそうよ。それが私だというんだから失礼だわ。血の繋がった弟でなければ、頭を踏みつけて謝罪させていた所よ」
まさか‥‥レベッカの弟は転生者?
「まあ、最近になって、弟が言ってたような光景を見るようになって、この私も、もしかして、と考えるようになったのだけど」
「光景って、どのような?」
「あの赤髪の女にデレデレな第二王子たちの姿。あれと同じものを私もレガールで見せられていたの」
「‥‥‥‥」
「ここでは学園に入学するのは14歳だけど、レガールでは入学は13歳なの。だから、一年間だけ、私はレガールの学園に通っていたのだけど。そこにあの赤髪の令嬢に似た子がいたのよ。男爵令嬢で、髪はピンクブロンド、瞳は薄い青色‥‥水色と言った方がいいかしら。そういえば、あの第二王子の瞳の色にちょっと似てるわね。顔は可愛くて、無邪気な笑い顔には貴族の令息方もメロメロだったわ。私の婚約者も例に漏れず彼女にべったり」
「婚約者!レヴィの!?」
私にとっては初耳だった。しかし、考えてみれば侯爵家の令嬢であるレベッカに婚約者がいない筈はなかった。
「5歳の時、予定より早く帰国したでしょう?あれ、急にお見合いが決まったからなのよ」
「お見合いって──5歳で!」
「まあ、レガールでも早い方ね。普通は7歳を過ぎてからだから。で、その婚約者は元から私に対して関心が薄かったけど、ピンクブロンドの彼女と出会ってからはもう完全に放置状態。まあ、どうせ留学するし勝手にすればいいわと私も無視することに決めたのだけど」
「それって大丈夫なの?」
「心配ないわ。私がこちらに来ると同時に向こうの学園に入るルカスと色々計画を練ってきたから。留学のことは誰にも言ってないし、いない間に私のことを悪者にするならすればいいわ」
「でも、学園に通っていたなら友人がいたのでは」
「いないわよ、そんなの。入学当初はやたらすり寄ってくる男女はいたけれど、興味ないから全部無視したわ。私、人を侍らすのって好きじゃないの。それより、こうして気の合う本当の友達と付き合いたいわ。レガールでは得られなかったけれど、ここにはセレーネがいるし。マリアーナも悪くはないわね。ただマリアーナはちょっと心配かしら」
「心配?」
「第二王子との婚約はまだみたいだけど、おそらく第一候補よね。それからすると、ルカスの言う〝悪役令嬢〟ってことじゃないかしら。ヒロインというのは、あの赤髪の伯爵令嬢で決まりでしょう。やってることが、私の婚約者に手を出してきた男爵令嬢にそっくりですもの」
ああ、そういえば乙女ゲームのパターンからいえばそう思えるかな。
マリアーナは侯爵令嬢で、婚約者候補は第二王子。その第二王子は、いきなり現れた、婚約者候補でもなんでもない貴族の令嬢にぞっこん。
しかも、王子の側近のような高位貴族の令息方も彼女にべったりだ。
なんだか、私よりマリアーナ嬢の方が悪役令嬢のポジションにいそうだ。
それでも、続編の悪役令嬢はこの私、アリステア・エヴァンスだ。それは間違いない筈。
もしかして、続編の悪役令嬢は複数いるのだろうか。
私はミリアに紅茶のおかわりを淹れてもらっているレベッカを見つめた。
さっきのレベッカの話が本当なら、彼女は別の乙女ゲームの悪役令嬢だということに?
彼女も悪役令嬢の役割を持たされ酷い目に合うはずだったのだろうか。
それを、転生者らしい彼女の弟が阻止しようと動いている。
‥‥‥‥‥‥‥
会ってみたいな、ルカスというレベッカの弟に。