国王軍の裏切り
◯トリスタン
「必ず気が変わるよ」
マンホールの下にいたトリスタンの頭の中でその言葉がずっと響いていた。
もうあいつは行ったかな。
じっと聞き耳をたて、外に誰もいないことがわかるとトリスタンはマンホールを押し上げた。
このまま下水道の中を歩けば、アジトに着くが、今のアジトは国王軍で埋め尽くされているだろうし、後の事をトリスタンはイズーに任せていた。
外に出たトリスタンは大きく息を吸った。
彼の顔は満面の笑みになっていた。なぜなら
もうすぐずっと会いたかった両親に会えるのだ。
彼は拳を開いた。
そこには小さな銀色のロケットに入った4人の幸せそうな家族写真があった。
「もうすぐだ」
トリスタンは意気揚々と路地裏を出ると街の大通りに出た。彼の中にはもうボーマンの言葉は全く残っていなかった。
大通りに出る直前でトリスタンの足が止まった。
目の前から数人の少年達がこちらに向かって走ってくる。
あいつら・・・俺とイズーの計画に気づいて怒っているんじゃ・・・
仕方ない、あいつらの親の分も国王軍に掛け持ってやるかとトリスタンはこちらに向かってくる少年達に手を振った。
「おい!お前ら・・・」
しかし、大きく左右に振っていたトリスタンの手が止まった。
「え?」
少年達の姿はボロボロだったのだ。
顔はあざだらけ。
足を引きずりながら走っている者もいた。
呆然と立ち尽くし少年達を見つめるトリスタンの服を一人の少年が掴み、叫んだ。
「てめえ、国王軍に何しやがった!」
「何って…」
「てめえとイズー、国王軍が血眼で探しているぞ。あいつら、ガキに騙されたとか、喚いて俺達を殴りまくって、てめえらの居場所をかぎまわってんだよ」
「騙された?待て、何の話だ?」
「それはこっちが聞きてえんだよ!」
「おい!国王軍が来たぞ!!」
足を引きずりながら走る少年が叫んだ。
トリスタンの服を掴んでいた少年は、舌打ちをし、トリスタンの服から手を離した。
「仲間をこんな目に合わせておいてただで済むと思うなよ」
そう言うと、少年は、足を引きずる少年の体を支え、ふたりでトリスタンの横を通り過ぎた。
トリスタンはそこで、ぼうっと立っていた。
走り出す気にも歩き出す気にもなれなかった。
どういうことだ?
なんで国王軍はそんなに怒っている?
イズーは失敗したのか?
足音が聞こえてきた。
あいつらが殴られた?
トリスタンはまだ動かない。
なんで?
大通りから、国王軍が飛び出してきた。
「見つけたぞ!トリスタン!」
トリスタンはそこでやっと走り出す気になった。
気が付くと無我夢中で走り、先程の路地裏にまで来ていた。
トリスタンは再びマンホールの下に潜った。
頭の上で声がする。
「ちっ。見失ったか」
「あのクソガキ、俺たちを騙しやがって」
「まあまあ。騙しているのはお互い様だろ?」
そこでくくくと笑い声が聞こえた。
「うっせえな。俺たちは、騙しているんじゃねえ。ガキのやる気を引き出してあげたんだよ」
「ありゃ笑ったぜ。親に会わせてやるって言った時のあいつらの顔」
「犬みたいだったよな」
トリスタンは体中が熱くなるのを感じた。
彼の頭上では大きな笑い声が響いている。
「ガキは単純だと思っていたがまさか俺たちを騙すとはな。おい、新入り、あいつらは指名手配の盗人を街の広場に誘い出すって言ったんだよな?」
「はい!そうです!」
「土壇場で気づきやがったか」
「あんな忠犬がそんな土壇場で気づくとは思えねえな。広場に誘い出すのを失敗したんじゃねえか?」
「ま、それでも構わねえけどな。ガキを殴る口実が増えるだけだ」
トリスタンの頭上で響く笑い声が遠のいていく。
頭上から何も音がしなくなってもトリスタンは動かなかった。
彼の頭の中はひとつの疑問でいっぱいだった。
広場に誘い込む?
トリスタンの思考は少しずつ動き出した。
イズーか?
いや、直前まで俺たちは打ち合わせをしていたし、あいつが裏切るはずがない。
そもそも、裏切るメリットなんてない。
でも、あいつは気づいていたのかもしれない。
国王軍が俺達との約束を守る気なんてないこと。
そこでトリスタンは両手で顔を覆った。
俺たちは父さんと母さんに会えないのか。
しばらく時間が流れた頃、トリスタンは両手を顔から離し、下水道の奥へと歩き出した。
彼の行先は決まっていた。
アジトではなく、あの料理店だった。
なぜなら、彼の中で再びボーマンの声が響き出していたからだ。
必ず気が変わるよ。と言ったボーマンの声が。




