ボーマンの留守番
◯ボーマン
ボーマンは、目の前の皿を洗いながら大きなため息をついた。
お金を持っていなかったボーマンは、支払いの代わりに皿洗いをさせられていた。
何枚洗っても終わりが見えないこの単純作業に何度もため息が漏れた。
だが、そんな呑気な作業は、今のボーマンにとっては少しありがたいものでもあった。
追っ手の国王軍どももここで俺が皿洗いをしているとは夢にも思わないだろうし、子供を追いかけて町中を走り回っている王子とアロアに比べたらここはとんでもなく安全だ。
あいつらは、犯人を捕まえられたのだろうか。
そんなことをぼうっと考えながら、ボーマンは、洗いかけの皿を見つめていた。
「悪いな。兄ちゃん」
後ろを振り向くと、お店の主人が優しく微笑みながら立っていた。
「財布を盗まれたところもちゃんと目撃していたんだけどな、一応俺も商売人だからよお」
「いや、食べるだけ食べて勝手に出て行ったんだからこっちにも責任はあるからな」
「しかし、近頃、孤児が増えて本当困っていたんだよ。さっきみたいにお客に紛れて、財布を盗んでいく子供が多くてね。ほら、ここ厨房からお客の席が見づらいだろ?だから、俺もガキが入り込んでてもわかんねえんだよなあ」
ボーマンは厨房からお店の中を見渡した。
確かに見づらい。しかも、お店は広く、アーサーの財布が盗まれた時はちょうど昼時ですごく混んでいた。
「おじさん、この店改装とかした方がいいんじゃねえのか?」
「そんな金あるわけねえだろ。お国に納める金が高すぎて、何にも残りゃしないよ」
ボーマンは口をつぐんだ。
国民が納めるお金は全て国王軍に渡される。
俺たちは、人が働いて稼いだお金を何とも思わず受け取り、その分の働きをするわけでもなく、ただ孤児に暴力を振るって毎日を過ごしていた。
その孤児が増えた原因は、国にお金を納める政策のせいであるのに。
でも、俺達にとっては最高の悪循環だったんだ。
ボーマンは思わず洗いかけの皿を掴んでいた手に力が入った。
「兄ちゃん?どうしたんだ?」
ボーマンははっと顔を上げた。
「いや、何でもない」
「悪いな疲れちまったんだろ?もうその皿終わったら友達の後追いなよ」
ボーマンは手元の皿を見つめた。
「なあ、おじさん。俺にもう少し手伝わさせてくれねえか?」




