わがまま王子冬空の下で
◯アーサー
手が今にもかじかんでしまいそうだったのでアーサーはコートのポケットに手を突っ込んだ。
結局、ここの店でも相手にされなかったなと思いながら青く澄んだ冬空の下に浮かぶ街並みを見廻した。
街は空の色と反対に灰色に荒んで見えた。
ふと路地裏を見ると子供がゴミを漁っている。
この街はだめだ。いやもう国自体がだめだ。
「全部あいつのせいだ」
思わず声にだしてつぶやいていた。
「おい、お前止まれ!」
はっと我に返り、声のする方を見た。
声をかけて来た男は青空と同じ色の服を着ており、その上には分厚い白いコート。
黒く光ったズボンを履き、そして手には大きな銃。 行きゆく人々は皆薄く灰色のような服を着ていたためか、その格好はとても高貴なものに見えた。
相変わらず派手な軍服だ。
何か用か?と言いかける前にアーサーは敬語というものの存在を思い出した。
「国王軍の方が僕に何かご用ですか?」
ひどく棒読みな問いかけになったが、アーサーは気にしない。
「お前、この辺りでは見かけない顔だな?親はどうした?」
にやついた国王軍の男の顔を見て、雑用を押し付ける孤児でも探しているのだとわかった。
王国の西側を旅している最中に国王軍が孤児を捕まえては、雑用させているのをアーサーは何度も目撃していたからだ。そして、雑用を終えた子供たちに報酬を与える代わりに暴力を振るっているところも何度も見た。
「僕の親は」
適当な言い訳を考えていた時、男がアーサーの担いでいる荷物をじっと見つめていた。
その様子を見てアーサーは自分の情報がすでに出回っていることを察した。
「お前、まさかそれは剣か?」
アーサーは、今まさに問われたその荷物を両手でつかみ、勢いをつけて男の顔面にむかって殴りつけた。 男が顔を押さえ、よろめいて倒れたのを見ると、その場から走って逃げた。
「だれかそいつを捕まえろ!」
後ろでそう叫ぶ声を聞きながらとにかく走り出していた。