放送
放送室はすぐに占拠することができた。
アーサー、ランスロット、グウィネヴィアが、城の地形や見張りの兵士がどこにいるかを把握していたからだ。
「ここは、一応私の家だからな」
アーサーはそうアロアに言った。
ランスロットが騎士団から引き抜いた数人の兵士が放送室の周りを見張り、アロアたちは、放送室の中へ足を踏み入れた。
アーサーはマイクの前に座った。
ランスロットは、アーサーの横に座ると、機械の使い方を教え始めた。
本番は、この放送の後だわ。
アーサーは、一体何を言うつもりなんだろう。
それにしても
「ロッシュ、あなたは隠れ家に残っていても良かったんじゃない?」
アロアは、ロッシュを見つめた。
「俺は、お前を村に連れ帰るまでは、お前から離れない」
「まだ、そんなこと」
「それに、お前に何かあったらおばさんや旦那にどんな顔して会えばいいかわからねえよ」
「私は」
「姉さんはめちゃくちゃ強いんだぜ!ロッシュの兄さん」
ロッシュの横にいたイズーがアロアの言葉を遮った。
「でも、アロアは女の子だぞ」
「普通の女の子が俺を片手で担いで、国王軍の上を飛び越えれるのか?」
トリスタンのその言葉にロッシュは口をぽかんと開けた。
「そういえば俺も担がれて教会まで運ばれたことがあったな」
ボーマンの言葉にロッシュはもはや言葉がでてこない様だった。
そんなロッシュを見てグウィネヴィアは笑った。
「ロッシュ、大丈夫よ。アロアはランスロットと互角に戦ったんだし」
驚きの連続で、ロッシュはただ目を瞬くだけだった。
少し顔が赤くなったアロアは、咳をした。
「そんなことより」
アロアはトリスタンとイズーを見つめた。
「あなたたちこそ帰りなさい。これからここは戦場になるのよ」
「姉さん、言ったろ?俺たち、姉さんたちを巻き込んだ身だ。だから、この国がどうなるのか見届けるって」
「だめよ。ここからは、国王軍との真っ向勝負になる。危険すぎるわ」
「イズー」
トリスタンはイズーの頭をやさしく撫でた。
「ここでアーサーの放送を聞いたら、隠れ家に戻るぞ」
「兄貴!?」
「俺たちは、足でまといになるんだよ。前みたいにマーリンがお前を守ってくれる保証はないしな」
イズーが、でもと小さくつぶやいた。
「トリスタン、お前」
ボーマンの青い瞳とトリスタンの青い瞳が見つめ合った。
「ボーマン、俺に言ったよな。俺は、強い奴らを傷つけてもいいって」
アロアは、ボーマンを見つめた。
ボーマンがそんなことを。
「今はあいつらを傷つけない。いや、傷つけられない。このまま一緒にいたってどうせ俺たちは、何もできない」
トリスタンは、にっと笑った。
「もっと力をつけてかしこくなって、それからあいつらとは違うやり方であいつらをやっつけたいんだ」
そんなトリスタンを見て、ボーマンは微笑んだ。
「私も、この放送が終わったら、トリスタンとイズーを連れて隠れ家に戻るわ」
アロアは、驚いてグウィネヴィアを見つめた。
「私こそ足でまといになるもの。誰にも迷惑はかけたくないしね」
グウィネヴィアこそきっと見届けたいはずなのに。
グウィネヴィアは、アロアに微笑んだ。
「私の代わりに、見届けて頂戴ね。アロア」
「ええ。任せて」
アロアは、そう言って力強く頷いた。
「お前ら、静かにしろ」
ランスロットが真剣な眼差しでこちらを見つめていた。
アーサーは、相変わらずマイクの前に座ったままで、こちらに振り向きもしなかった。
「放送を開始する」
アロアは緊張していた。もし、この呼びかけに国民が誰ひとりとして応じなかったら、それは自分たちの敗北を表しているからだ。
アーサーは一体何を言うつもりなんだろう。
放送の始まりを告げる鐘の音が鳴った。