ロッシュの告白
◯アロア
アロアは、隠れ家の大きな庭にあるベンチに座って、日が沈みかけている空を見上げていた。
「まさか、アーサーとここに来るとは思いもしなかったわ。ロッシュ」
アロアの横には同じように空を見上げていたロッシュがいた。
「俺も、まさかアーサーとアロアが知り合いだとはな、思いもしなかった」
「驚いたでしょ?アーサーの顔」
ロッシュは空から視線をアロアに移した。
「驚いたどころじゃねえよ。本当にネロが生きてたのかって思っちまった」
アロアは空を見上げたまま笑った。
「それなんとなくわかるわ。で、ロッシュ」
「ん?」
「アーサーに頼んだ無茶な頼みって?」
ロッシュはその言葉を聞いて、口を開きかけて俯いた。
かと思うとぼそりとつぶやいた。
「それは」
「父に会わせたわね」
ロッシュは、顔を上げた。
「アロア、聞いてくれ。大事な話があるんだ」
「父の話?」
「ああ」
「なら聞きたくない」
「いや、聞かなきゃだめだ」
「なんで?あの人のこと私はまだ」
「病気なんだ」
アロアは一瞬何を言われたのわからなかった。
嘘だわ。
私を連れ戻したいからそんな嘘を。
でも
アロアを見つめるロッシュの目は真剣だった。
「嘘でしょ」
「嘘じゃない。コゼツの旦那はもうあまり長くは生きられない」
アロアは大きく息を吐き、両手で顔を覆った。
「だから私に帰れって?父に会ってくれって?」
「ああ」
最期だから、だから会ってほしいなんておかしいじゃない。
そんなの嫌。
「アロア、聞いてくれ。ネロが濡れ衣を着せられたあの風車小屋の事件。あれは、俺の親父が犯人なんだ」
アロアは両手を顔から離し、驚いてロッシュを見つめた。
「俺の親父は、どうしようもねえ奴だ。覚えてるか?ネロが風車小屋の火事の犯人だって言いだしたのは」
「おじさんだった」
ロッシュは頷いた。
「本当にどうしようもねえだろ。ただむしゃくしゃして火をつけただけなのに、その犯人を子供になすりつけて、自分は平然と暮らしてんたんだぜ」
「まさか、そんな」
「そんなクソ親父をコゼツの旦那は見捨てなかった。旦那は親父を責めることも、犯人だと公表もしなかったんだ」
「そんなの、自分のためでしょう。あの人は自分のことしか考えていない」
「でも、ネロが死んで旦那は後悔していただろ。旦那はきっと、俺の親父を責めたかったはずだ。なのに変わらず、親父とは親しくしてくれていたし」
「そんなの当たり前よ。あの人に誰も責める資格なんてない」
「アロア」
「私は、父が許せない。死んでも許すことはない。そんなのロッシュが一番わかっているでしょう?」
アロアは立ち上がった。
「ロッシュ、お願いだからもう父の話はしないで」
そうロッシュに言い放ち、アロアは庭をあとにした。