それぞれの再会
「イズー!?」
「あ、姉さん!」
イズーは、手を振りながら駈けようとしたが、気を失う国王軍の大群を見て足を止めた。
「うわ、なんだこれ。姉さんがやったのか?」
「違うわよ。いくら私でもこれだの人数は倒せないわ。そこで待ってて。私たちがそっちに行くわ。行きましょ。アーサー」
アロアがアーサーを見つめると、アーサーはイズーの方をじっと見つめていた。
アーサー?
アロアはもう一度視線をイズーに戻した。
すると、イズーの後ろに人影が見えた。
アロアは、その姿を見つめた瞬間、息が止まりそうになった。
だから、声はでなかった。
そのかわり、走り出していた。
アロアは地面を蹴ってあの懐かしい姿へ向かってただ走った。
そして、瞳を見つめるわけでも、言葉を交わすわけでもなく、強く抱きしめた。
その時、ずっと心の奥にしまいこんでいた思い出がアロアの中で溢れ出した。
憎いけど懐かしいあの故郷。
美しい夕焼け。
楽しい笑い声。
いつもそこには、あなたちがいた。
「アロア、相変わらずだな。お前は」
アロアは、涙が止まらなかった。
どうして?
どうしてここに?
そんな疑問よりもアロアの中にあった感情が口から言葉になって飛び出していた。
「ずっと、ずっと会いたかった。ロッシュ。本当よ」
「手紙も全然よこさなかったくせに」
アロアは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
抱きつくアロアを見下ろすロッシュの顔も涙でぐしゃぐしゃだった。
ロッシュは微笑んだ。
「お前、本当に変わってねえな。俺ァ、お前が変わっててわからなかったらどうしようかと思ってたのによ」
アロアも微笑んだ。
「あなたこそずっとそのまんまじゃない。昔からそのまんま」
ふたりは、泣きながら笑っていた。
「よかったなあ。ロッシュの兄さん。アロアの姉さん」
ふと横を見るとイズーまで泣いていた。
「お。おい。イズーまで泣くことないんだぞ」
「そ、そうよ」
アロアとロッシュはイズーに駆け寄った。
「でも、ずっとばらばらだった友達がやっと会たんだから俺、うれしいよ」
「イズー、もしかして・・・私の村に行ったの?」
「イズーだけじゃないぜ。アロア」
そう言って、ロッシュは視線をアーサーに向けた。
「アーサーが?」
アーサーとロッシュ。
このふたりを見ていると、アロアは本当に昔に戻ったような、ずっとこの3人であの村で暮らしていたような不思議な気分になった。
「アーサーは、俺の無茶な頼みを聞いてくれたんだよ」
「無茶な頼み?それって」
「アロア!」
アロアはいきなり名を呼ばれてびくっと体を震わせた。
声のした方を見つめると、路地裏からボーマンが飛び出してきた。
「アロア!お前どこに行ってたんだ?みんな心配してたんだぞ・・・って、なんだこれ」
ボーマンは血まみれで倒れる国王軍を見て唖然としていた。
「お前ひとりでこんだけやったのか?」
「私じゃないわ。あそこにいる人よ」
ボーマンがアロアの視線の先を見つめると、口をぽかんと開けて、言葉にならない声を上げた。
「お、お、お」
「久しぶりだな。鼻男」
「王子!帰ってきたのか!」
ボーマンの顔に笑みがこぼれた。
「鼻男は余計だ。それにこいつら倒したって一体」
ボーマンはじっとアーサーを見つめた。
「そうか。お前」
アーサーは、ふっと微笑んだ。
「おーい。ボーマン。アロアいたのか~?」
ボーマンの後ろからトリスタンが出てきた。
トリスタンは、国王軍の大群をぽかんと見つめた。
「な、なんだこれ」
「兄貴!」
イズーがトリスタンに駆け寄った。
「イズー!」
久しぶりに再会を果たした兄弟は抱き合った。
「お前、ひとりで寂しくなかったか?」
「全然だよ。むしろひとりの方が気楽だったよ」
そう言いながらもイズーが力強くトリスタンを抱きしめているのがアロアにはわかった。
ボーマンが心配そうな顔をアロアに向けた。
「アロア、ランスロットとグウィネヴィアがすごく心配してたぞ。それに、これだけの国王軍が戻ってこないとなれば、また別の軍がここにくるかもしれねえ。早くここから離れたほうがいい」
「確かに、そうね。一旦、隠れ家に戻りましょう」
アロアは、その時、はっとしてアーサーを見つめた。
ぎゅっと剣を持つ腕に力を込めるアーサーの瞳は悲しい色をしていた。
ランスロットとグウィネヴィア。
アーサーにとって彼らは、まだ思い出したくない仲間なのかもしれない。
でも・・・それでも
アロアはロッシュを見つめた。
会ってしまえば楽しい思い出が溢れ出てくる。
さっきの私のように。
きっと、アーサーも。