アーサーの戦い②
◯アロア
「すごい」
もしかして、私は今、とんでもないものを見ているんじゃないか?
アロアは、アーサーが次から次へと国王軍を倒して行く姿をただ呆然と見つめているだけだった。
なぜなら、アロアにできることは何もなかったらだ。
ひとりで、あれだけいた国王軍を・・・。
アロアの目の前にいた国王軍の大群は全員アーサーに倒されていた。
剣を握り締めるアーサーをアロアは何も言わず、見つめた。
それに気が付いたアーサーも金色の瞳でアロアを見つめる。
王の素質を取り戻した王はこんなにも強いのか。
アロアは、アーサーの名を呼ぼうとしたが、声が出なかった。
体も震えている。
私、恐いの?
アーサーが?
アロアは、反乱軍に囲まれたときのことを思い出した。
あの時もアーサーが恐かった。
「アロア」
アロアは名を呼ばれて我に返った。
「貴様、なぜここに?」
アロアは、少し考えてふっと笑った。
アーサーの顔つきは本当に変わっていた。
初めて会ったときは我儘な子供のような顔つきだったのに。
そして相変わらず、そっくりね。
「アーサー、おかえり」
そう言われたアーサーは、少し顔を赤くして、俯いた。
「貴様が、信じて私を待っているとイズーから聞いた」
「ええ。信じて待っていたわ」
アーサーは何かごにょごにょとつぶやいた。
「え?何?」
アーサーは顔を上げて、まっすぐアロアを見つめた。
「ありがとう。信じてくれて」
まっすぐ瞳をそらさないアーサーを見て、アロアは、改めて確信した。
アーサーは変わった。
いや、戻ったんだ。
これが元々のアーサーなんだ。
アロアは、微笑んだ。
「どういたしまして」
アーサーも微笑んだ。
アロアは、アーサーの笑顔を初めて見たような気がした。
笑顔も似てる・・・ってそんなこと考えている場合じゃないわ。
「それにしても、アーサーすごいわね。こんなたくさんの国王軍を倒しちゃうなんて」
アーサーは周りを見渡した。
「こんなにも倒していたのか」
「覚えてないの?」
「体が勝手に動いていた」
アーサーは手にしていた剣を見つめた。
「剣が私を導いてくれるようなそんな感じだった」
「選定の剣の力知らなかったの?」
「力?」
「選定の剣に選ばれた王は、剣を使う時、剣術だけじゃなくて身体能力も強くなるって昔、シスターからきいたことあったわ」
「だから、あんなに」
「アーサーは剣に選ばれた王だけど、王の素質が無かった。だから今まで剣で人を斬ることができなかったのね」
「なぜわかったのだ?私に素質が戻っていたこと」
「顔を見ればわかる」
アーサーは、少し驚いたような顔をしたかと思うと、なぜか納得したような顔になった。
今の理由で納得したのかしら。
「だが、これほどの国王軍がここに集まったということは、私が王都に来たことがばれていたのだろうか?」
「ああ、この国王軍は、私のせいよ」
「は?」
「ここに向かう途中、国王軍に見つかってしまって、それで追いかけられていたの」
「ここに?貴様はわかっていたのか?私がここにくること」
「まあ、当てずっぽうでここにたどり着いたんだけどね。今朝、シスターが教えてくれたのよ」
「マーリンが!?」
「アーサーが王都に戻ってきたから、迎えに行ってやってくれって」
「やはりマーリンがいたのか」
「会ったの?」
「いや、この辺にマーリンに似た人影を見たからここまで来たのだ」
「マーリンがここまで私たちを連れてきたのね」
「そうだな」
アロアは驚いて、アーサーを見つめた。
「アーサー、あなたもうマーリンを憎んでいないの?」
アーサーはアロアに力強く頷いた。
「私はもう誰も責めない。マーリンも、自分も、もう誰も」
「そう。よかった」
アロアは嬉しくて顔に笑みがこぼれた。
「でも、一体何があったの?あなたをこんなにも変えてしまうなんて」
アーサーが口を開けようとした時だった。
「おーい!兄さーん!」
アロアは驚いて、声のした方を見つめた。