アーサーの答え
「私は、あの時、ただアロアの父親に何も悪くないということを伝えたかった。悪いのは、この国だ。貧しい者とそうでない者。前王のときにはなかった階級のようなものが、今はある。もし、前王のときにネロのような少年がいれば、きっとあんな死に方はしなかったはずだ」
アーサーの金色の瞳がじっと暗い馬車の中でこちらを見つめるロッシュを捉える。
「アロアの父にそう伝えようとしたとき、思ったんだ。それをきっとネロもわかっていたんだと」
「ネロが?」
「ネロはきっと誰も責めたことなどない。悪い者なんて誰もいないとわかっていたのだ。そう思ったら、あんなふうに話せていた」
ロッシュの青い瞳が震えたのがアーサーにはわかった。
「ネロを知っている貴様ならわかるだろ?ネロは誰かを恨むような者じゃないと。だから私は」
「わかった。わかったから。アーサー」
ロッシュは、涙を拭っているようだった。
そんなロッシュをアーサーはまっすぐ見つめる。
「私は、ネロではない。ロッシュ」
ロッシュはぐすっと鼻をすすりながら小さい声でそんなことわかってるとつぶやいた。
「ただ、あんまりにもお前がネロに似てるから。顔だけじゃなくて、話し方まで。だから、もしかしたら・・・なんて馬鹿なこと考えちまった。悪かったな。俺ァもう寝るよ!おやすみ!」
そう言ってロッシュはアーサーに背を向けて寝転がった。
その背に向かってアーサーはつぶやいた。
「もし、私がネロのような者であったら、剣は折れたりしなかったんだろうな」
その時、ロッシュががばっと起き上がり、アーサーに振り返った。
アーサーは、驚いて目を瞬いた。
「お前は優しいよ。アーサー。俺も、コゼツの旦那もお前に救われたよ」
しばらく、ロッシュはアーサーを見つめていたが、おやすみと一言いうとまた寝転がった。
アーサーはきょとんとしていたが、ふっと微笑み、また星空を眺めた。
もう、私は逃げない。
そう決めたのだ。