ロッシュの疑問
◯アーサー
すっかり日が沈み、先ほどまで喋っていたロッシュとイズーは眠りこんでいた。
いつの間にか馬車の乗客はアーサーたちの三人だけになっていた。
眠れないアーサーは星空を眺めた。
正直、アーサーはまだ不安だった。王都に向かうのも怖かった。
でも、私は、もう・・・。
「お前、本当はネロだろ?」
アーサーは驚いて声のした方に振り向くと、ロッシュが起き上がり真っ直ぐアーサーを見つめていた。
「お前、ネロなんだろ?」
アーサーは、ロッシュを見つめ返す。
こいつ寝ぼけてるのか?
馬車の中は暗く、月明かりだけでは、アーサーはロッシュの顔が見えなかった。
「どうしてそう思う?」
「お前がコゼツの旦那と話しているとき、ネロの話し方と全く同じだったんだ。顔が似ているのは偶然にしても話し方まで同じなんておかしいだろ?」
「お前まだ」
そんなこと言ってるのか?と言いかけて、アーサーは星空へもう一度視線を戻す。
「もし、私がネロだったらどうする?実は生きていたとしたら?」
「コゼツの旦那と同じだ。言いたかったこと全部言って、そんで、アロアを連れ戻して3人で帰る」
アーサーはロッシュを見つめた。
「私の話し方はそんなに似ていたのか?」
ロッシュは頷いた。
「似てた。部屋の外でずっと聞いていたけど、俺ですら、本当にネロが帰ってきたような気分になったんだ。お前、なんであんな風にできたんだ?ネロのこと何も知らねえのに」
「何も知らない訳ではない。アロアや貴様から少しは話を聞いていた」
「それでも、あの話し方はできねえだろ」
アーサーは、あのときのことを思い出していた。
アロアの父親と話していると、自分は一体今まで何をしていたんだろうという思いが強くなった。
そしてそれ以上に思ったのだ。
自分は一体何を思っていたのだろう、と。
こんな間違った国にいる民はきっともう救いようのない民になってしまったと。自分が王になってもそんな民しかいない王国を救えるはずがないと。
そう思っていたんだ。
でもそうじゃない。
アロアの父親はただ、自分の、自分の家族の幸せを思って生きていた。それだけなのに、
ネロの死は彼の人生を狂わせた。
ネロもまた、自分のために、自分の好きな人と生きる道を選んだだけなのに、どうして死ななければならなかった?
誰も悪い人間などいない。
悪いのはネロが生きることができなかったこの王国だ。
そう強く感じたからこそ、アロアの父親には自分を責めて欲しくなかった。