馬車にて
◯アーサー
「お、おい、お前ら、でかい声でそんな大事なことここで言うなよ。他の乗客に聞かれたらどうすんだよ」
ロッシュが慌てて口に人差し指をあて、小さな声でそう言った。
「大丈夫だよ。周り見てみなよ。みんな仕事で疲れてぐっすり寝てるよ」
ロッシュは周りを見渡した。
アーサーも外の景色から目をそらして、馬車の中を見渡した。
アーサーたちの周りには、ドロドロに汚れた服を着て死んだように眠る人たちで溢れていた。
馬車の中は汗臭いにおいが充満し、寝息やいびきでにぎやかだった。
皆、国にお金を納めるために自分の村から離れた場所で必死に働き、馬車で自分の村へ帰っているのか。
ロッシュはその光景に納得したようにそれもそうだなと言い、アーサーを見つめた。
アーサーは怪訝そうにロッシュを見つめ返す。
「何だ?」
「それでも、そいつを殺そうとするのはおかしいぜ。アーサー」
アーサーは、ロッシュが何を言っているのか一瞬わからなかったが、ああとつぶやいた。
「さっきのイズーの話の続きか」
ロッシュは頷いた。
「だって、お前はマーリンを殺そうとしたんだろ?」
「そうだぜ!兄さん、リーダーに・・・マーリンに向かって持ってた剣を振り下ろしたんだ」
「お前、いくら間違った人間を王にしたからってそれはないだろ」
アーサーは、ふっと微笑んで、また日が沈みかけている王国を眺めた。
「ああ。そうだな。私は間違ったことをした。マーリンはもうずっとわかっていたのにな。自分がとんでもない罪を犯したこと。だからこそ、あいつは」
ガウェインやグウィネヴィア、ランスロットに私を出会わせて剣を探させたり、アロアに助けてもらうように根回しをした。
「自分の責任から逃げなかった。マーリンは逃げなかったのに私は逃げていたのだな」
ロッシュとイズーは何も答えなかった。
何も言わないふたりが気になり、アーサーは再び馬車の中を見ると、きょとんとした顔で、ロッシュとイズーがこちらを見つめていた。
「何だ。貴様らその顔は」
「だってよ、なんかお前変わったなあと思ってよ」
「俺もそう思う。兄さん、なんか変わったよ」
アーサーは、そんなふたりを見て笑った。
「そうかもしれないな」
「やっぱり変わった!」
ロッシュとイズーが声を合わせてそう言った。