マーリンの姿②
◯アーサー
日が沈みかけた空を馬車の中から眺めていたアーサーの顔に冷たい風が刺さった。
しかし、アーサーは耳に入る馬の蹄の音が心地よく、そんな寒さの中でも目を少しでも閉じれば眠りに落ちてしまいそうだった。
「俺、やっぱりまだ信じらんねえや」
イズーは、そう言ってうーんとうなった。
「まさかリーダーが人によって違う風に見えていたなんて。しかも、間違った人間を王にしちまったなんて」
アーサーは、思い出していた。
アーサー、ガウェイン、グウィネヴィア、ランスロットの前に現れたマーリンの存在が矛盾していた時のことを。
ガウェインには、戦士に見えており、グウィネヴィアには少年に、ランスロットには街の女に見えていた。あの時、ガウェインがランスロットだけ女に見えていることを羨ましがり、俺と代われと騒いでいたな。
アーサーは空を眺めながら少し微笑んだ。
「預言者であるマーリンは、存在はひとつでありながらひとつの姿をもたないからな」
「でもさ、兄さん。俺たちずっとリーダーと暮らしててみんなが違う様に見えていたなんて気がつかなかったよ」
「ああ。マーリンの存在は普段は矛盾しないからだ」
「じゃあ、なんであの時みんな違う風に見えてるってわかったの?」
「私がいたからだ」
「兄さんが?」
アーサーの目に、あの日、あの街で、イズーの前に立ちはだかった老人の姿が蘇る。
「剣に選ばれた王がいる時、マーリンの存在は初めて矛盾する」
◯グウィネヴィア
「そう。アーサーの存在。剣に選ばれた王がいるとき、マーリンの存在は初めて矛盾するのよ。そうよね、ランスロット?」
ランスロットは、ふっと鼻で笑って、ああとつぶやいた。
あ、あの時のこと思い出してるわね。
ガウェインがランスロットに代われ代われって騒いでいたときのこと。
俺も女が見たい!美人なんだろ!ランスロット!?
そう言うガウェインの声がまだ残っていた。
頬を綻ばせるグウィネヴィアとランスロットをアロアたちは不思議そうな顔で見つめていた。
「ふふ。ごめんなさい。ちょっと昔を思い出していて。とにかく、今までマーリンの存在が矛盾しなかったのはそうゆうことなの」
アロアは頷いて納得した様に見えた。
「あの」
そう言ったのはボーマン。
「俺さ、ずっと気になっていたんだけど」
グウィネヴィアは、ボーマンにじっと見つめられた。
「グウィネヴィアはなんでイグレーヌって名前を使ったんだ?俺たちがグウィネヴィアの名前を出したときにすぐ名乗りで出てくれたらよかったのに」
グウィネヴィアは首をすくめた。
「嘘の名前を言ってしまって言い出しにくかったのよ。それに、あなたたちの目的がわからなかったし」
「グウィネヴィア」
ランスロットがじっとグウィネヴィアを見つめた。
「なぜ、イグレーヌの名を使った?」
「え?」
グウィネヴィアはランスロットの真剣な顔にきょとんとした。