マーリンの姿
大きな机、ふかふかのソファー、目の前には暖かい飲み物と食事。
これが、隠れ家?
アロアたちは、グウィネヴィアの隠れ家にいた。
少女は、やはり前王の娘であるグウィネヴィアだったのだ。
なぜ、ボーマン達にイグーレヌと名乗っていたのかアロアは気になっていたが、今は隠れ家の豪華さに驚いていた。
そこは、隠れ家というよりも、大きな庭のついた豪邸だった。
もしもの時のためにこの家を買っておいて正解だったわと微笑みながら、家を案内してくれたウィネヴィアはやっぱり王族の人間なのだとアロアは思った。
家の中に入ると、心配そうな顔をしたトリスタンがいた。
アロアとボーマンの姿を見ると顔に笑みを作り駆け寄ってきた。
アロアたちは、さっきまでの騒動が嘘の様に静かなこの家で、王都に忍び込み、ボーマンとトリスタンはグウィネヴィアに、アロアはランスロットに、それぞれ反乱を起こすように頼みに来たことを話した。
そして、アーサーとの出会いやトリスタンとイズーの騒動など今まであったことを話し始めた。
「じゃあ、お前らは、マーリンに会ったんだな」
そう言ったランスロットにトリスタンは、頷く代わりに首をかしげた。
「俺は、ずっとリーダーと一緒にいたぞ」
グウィネヴィアがきょとんとした顔でトリスタンを見つめる。
「リーダー?」
「ああ。マーリンは俺たちのリーダーだったんだ。俺たち街の親無しの子供を集めて一緒に暮らしてたんだ。でも、おかしな話だよな?アロアの命の恩人もマーリンで、でもアロアには、リーダーが女に見えてたなんて」
「シスターに見えてたのよ。トリスタン」
「俺もだ」
そう言ったのはようやく顔色が良くなってきたボーマン。
「トリスタンの言うとおり確かにマーリンはガキだったが、トリスタンとイズーと俺でもマーリンは違う人間に見えていたんだよ。俺はともかく、ずっと一緒にマーリンと暮らしてきたトリスタンたちまでなんで違うように見えていたんだ。しかもそのことに気がつかないで」
そう。
みんなマーリンが違う人間に見えていた。
王都に来る前に、アロアたちは、トリスタンとイズーにアーサーの素性も選定の剣のことも全て話した。
その時に、4人にはわからないことがあったのだ。
マーリンがどうして4人とも年も、性別も、格好も全く違う人間に見えていたのか。
そして、今まで一緒に暮らしていたトリスタンとイズーでさえも実は違う人間に見えていたということがわかったのだった。
「私が説明するわ」
そう言って微笑んだグウィネヴィアにアロアたちの視線が集中する。
「マーリンはね、ひとつの姿を持っていないの」
「ひとつの姿?」
「マーリンは見る人によって姿が違うのよ」
アロアは驚いて目を見開いた。
「そんなの、矛盾するじゃない」
現にあの時、矛盾していた。
「でも、今までアロアがいた教会ではそんなことはなかったでしょう?」
「確かに」
みんなシスターをシスターとして扱って・・・
あれ?
「今、思えば、シスターをシスターと呼んでいる人は少なかったかも、名前で呼び捨てにしている子供もいたし、シスターをとても小さい子の扱いをする人や、まちがって神父さんと呼んでいる人もいたわ。でも、それはかなり高齢の人だったから、シスターを孫のような扱いをしたり、ボケてしまって神父さんと呼んでいるのかと思っていたけど」
私、おじいさんがボケているのかと思って何度も神父さんじゃなくてシスターって訂正していたけど、おじいさんこそ私が何言っているのかわからなかったんじゃ・・・。
「でも、それならどうして、今まで矛盾しなかったの?」
「そう。私たちの時もそのことに驚いたわ」
グウィネヴィアはそう言って微笑み、アロアを見つめた。
「アロアが教会にいた時とトリスタンが街で暮らしていたとき、そして騒ぎの中でマーリンを見たときの違いは何?」
アロアは、少し考えてから、ああとつぶやいた。
「アーサーね」