風車小屋の犯人
「俺は、恨んだよ。国にお金が払えなくて、国王軍にいいように利用されて、殴られてボロボロになるネロを見て見ぬふりしたこの村の人間を。何よりも、国王軍が怖くて友達を救えなかった自分を。だから、アロアは出て行ったんだ。自分がこの村が許せなかったから」
ロッシュは涙を拭った。
「なぜだ?」
「何が?」
「貴様にとって、アロアの父親は憎むべき存在だろう?なのに、どうして私にネロの振りをさせた?」
ロッシュの青い瞳がアーサーを見つめる。
「さっき話した風車小屋の事件で、ネロを目撃した奴がいるって言ったろ?あれさ、俺の親父なんだよ」
アーサーは目を見開いてロッシュを見つめ返した。
「俺の親父はコゼツの旦那の金魚のフンみたいな奴でさ。でも、こんな世の中だろ?イライラして酒を飲んで酔っ払って、そんで、風車小屋に火をつけちまった。しらふに戻ったときはもう遅かった。だから、自分が疑われないために偶然通りかかったネロに罪をかぶせたんだ。馬鹿な親父だ」
ロッシュはしゃがみこんで、ネロの墓に刻まれた文字に触れた。
「親父はつい一ヶ月前に馬車で事故ってよ。その怪我が元で死んだんだがな。あの親父、死ぬ直前になって俺に言いやがった。俺たちが必死に風車小屋の犯人を探してたことを知っていたくせに」
「それとアロアの父親が関係しているのか」
「ああ。俺の親父はネロが死んだ後に罪の意識に苛まれたみたいでな。コゼツの旦那にだけは告白したらしい。でも旦那は、黙っててくれた。もし、このことが村中に知れたら、今度は俺たちが村からひどい目に合うってわかっていたから。親父は泣いて、旦那に詫びた。旦那はそんな親父を見放したりせず、今まで通り接してくれたんだ。だから俺たちは普通にこの村で生活できた」
ロッシュは立ち上がり、遠くに見える焼け焦げた風車小屋を見つめた。
「ロッシュごめんな。こんな父親ですまない・・・って親父に言われたよ。俺に謝るんじゃなくてその言葉はネロにかけて欲しかった。そう思ったらさ、自然に俺、親父の胸座つかんで殴りかかろうとしたんだよ。でも、その時の親父の目、まっすぐ俺を見つめる親父の目。あれは、ずっと後悔していた目だった。親父はわかってたんだ。コゼツの旦那や俺に謝っても意味がないこと。ネロに謝れなかったこと、ネロが死んだ時からずっと悔やんでいたんだ。だから、俺は殴れなかった」
アーサーはネロの墓を見下ろした。
「だから恩人であるアロアの父親にはあのまま死んでほしくなかったということか」
「気休めでもなんでもいい。親父のようには死んでほしくなかった。ま、本当はアロアを見つけ出して風車小屋の犯人が俺の親父だって伝えて、村に帰ってきて欲しかったんだ。旦那とアロアがこのまま死別しちまうのはやっぱりおかしい」
「アロアは父親を許してはいないのだな」
「心の奥底ではきっとまだ憎んでいるんだ」
アーサーはアロアの言葉を思い出した。
“アーサー、あなたは逃げている。
かつての私のように。
全て自分やマーリンのせいにして、大事なことから逃げている。自分で決めたことに責任は伴うものよ”
アロア、貴様もまだ・・・。
アーサーは金色の瞳を空へ向けた。