悲しい過去
◯アーサー
そこは小さな墓地だった。
そこに一際たくさんの色とりどりの花が供えられている墓がアーサーの目に入った。
「これがネロか」
「ああ。ネロだよ」
アーサーは帽子を取ると、しゃがみこみ、墓に刻まれた文字を見つめた。
「愛すべき家族ネロ。安らかに。愛すべき家族?飢え死にさせたのにか?」
「お前、その顔できついこと言うなあ」
「本当のことだろ?」
ロッシュは真っ直ぐネロの墓を見つめた。
「ネロが死んだあと村中の人間が後悔したんだよ。何かもっとできたことがあったんじゃないかって。何かしてあげてたら飢え死になんて」
ロッシュは言葉に詰まって俯いた。
「村の人間はネロを愛していたのか?」
アーサーは顔を俯けて拳を力強く握り締めているロッシュを見つめた。
しばらくして、ロッシュは拳をふりほどき、顔を上げた。
「ネロは、おじいさんとふたり暮らしでさ、貧乏な生活だったけど、幸せに暮らしてたんだ。村のみんなもそんなふたりの生活を見守ってたんだよ。でも、おじいさんがそのうち病気で亡くなって、それからネロはひとりで生きていかないといけなくなった。それでも、村の人たちはネロを支えてくれてた。あの風車小屋の事件までは。あの事件で、ネロが風車小屋を燃やしたって目撃した奴がいてよ。そいつが、この村の領主であるアロアの親父、コゼツの旦那と仲が良くてな。で、お前ももう知ってるとおり、コゼツの旦那は、ネロが嫌いだった。だから、風車を燃やしたのはネロだと言い張って、村からネロを孤立させたんだよ。こっからは・・・わかるだろ?」
ロッシュの青い瞳は潤んでいたが、アーサーと目が合うとにっと笑った。
「ネロってさ、おじいさんが死んだ時、ひとりで抱え込んで、俺たちには決して弱音を吐かなかったんだよ。だから、ネロを元気づけようと俺とアロアはネロを連れて隣村にあった映画館に忍び込んだんだ。2階にある映写機の横に子供ふたり分座れるスペースがあってな、足元にはたくさんの観客がいてよ、自分たちだけの特等席って感じだった。その時上映してた映画はコメディ映画でさ、俺は見張りをしていたからちゃんと観てはいなかったんだけど、ネロは笑ってったんだ。俺とアロアはその顔を観て安心したよ、でも、ふと気が付いたら、ネロがさ」
ロッシュの声が震えた。
「泣いていたんだよ。でも、泣き声は聞こえなかったんだ。下にいた観客たちの笑い声にかき消されて。でも俺たちは一生忘れねえよ。あの時のネロの悲しみ。一生忘れねえよ」
ロッシュの青い瞳から涙がこぼれた。
「悪ィ。思い出話になっちまって。とにかく、俺が何を言いたいかっていうとさ、ネロはただの子供だったんだよ。それを大人が、国が、ひどい扱いをして、あいつを殺したんだよ」
アーサーは立ち上がり、声を震わせて俯くロッシュをまっすぐ見つめた。