ネロの面影
◯ロッシュ
ああ、なぜだろう。
涙が、涙が止まらない。
ロッシュは、鼻をすすった。
ロッシュは扉が開かれたままの部屋の前に立っていた。
本当はわかってる。
あいつが、顔だけじゃなくて、全てネロにそっくりだからだ。
その時、部屋から少年が飛び出してきた。
目が合った少年の顔も涙でぐちゃぐちゃだった。
少年はすぐロッシュから目をそらし、帽子を深くかぶると階段を足早に降りていった。
「あ、おい!待てよ!」
ロッシュは少年の後を追った。
◯アーサー
「ジョルジュ?どうしたの?」
1階に降りると、キッチンで洗い物をしていたエリーナに声を掛けられたが、アーサーはそのまま玄関の扉を開けて、外にでた。
そのまま向かうあてなどなかったが、アーサーは走り出した。
村はまだ朝が早かったためか、あまり人がいなかった。
ただ真っ直ぐ走り続けるアーサーの目の前に、焼け焦げた建物が目に入った。
アーサーは立ち止まり、その建物を見上げた。
「風…車?」
大きな風車は半分焦げて、半分地に落ちていた。
巨大な風車を支えていた建物はほとんどが真っ黒な色に焦げており、少しだけ元のレンガ色が残っていた。
「風車小屋だよ」
アーサーが振り帰ると、ロッシュが立っていた。
◯ロッシュ
「お前、何勝手に逃げてんだよ。おばさん、心配してたぞ。まあ、顔も見られてなかったみたいだから適当にごまかしたけどよ」
少年は風車小屋を見上げた。
「火事があったのか?」
ロッシュはむっとしつつも風車小屋を見上げた。
「昔、ちょっとしたボヤがあってな。まあ、ボヤってレベルでもないんだが」
ロッシュは、風車小屋を見上げる少年の顔を見つめた。
「ネロがやったんだ」
少年は、驚いた顔をしてロッシュを見つめた。
「ってことになってたんだよ。燃えた当時はな。ひでえよな。」
少年は、表情を変えることなく、ロッシュをじっと見つめる。
「ついてこい。ネロに会わせてやるよ」