アロアの故郷③
これがアロアの父親。
「ううう・・・ネロ・・・。許してくれ」
アーサーはその名を聞くと自然に足が部屋に入って行った。
男がうなりながら目を少し開けてこちらを見つめた。
アーサーは帽子を外し、顔に巻かれた包帯を解いた。
ネロ。
アロアの親友であり、私に似ている少年。
アーサーの金色の瞳が男を見下ろした。
男はやせ細った顔についていた青い瞳を震わせた。
「ネ、ネロ?なのか?」
アーサーは表情を変えない。
男は上半身を起こし、細い腕の先にある蜘蛛の足のように細くなった指をアーサーの頬にあてた。
「ネロ・・・。生きていたのか?」
アーサーは、未だに信じられなかった。
私はそんなに似ているのか?
いくら、病に伏せっているとはいえ、死んだ人間が生きていると思うほど。
アーサーはふと思い出した。
ロッシュと初めて出会った時のことを。
ロッシュも私をネロと間違えていた。
死んだ人間だとわかっていたのに。
男の青い瞳から涙がこぼれた。
「私は、私はお前になんてことを・・・。許してくれ。許しておくれ。私は、自分のことしか、自分の家族のことしか考えていなかったのだ。自分たちだけが豊かな暮らしができればと。そのために、お前の気持を踏みにじった」
ああ、そうか。
アーサーは涙をこぼした青い瞳をじっと見つめた。
この男はネロに会いたいと強く望んでいたのだ。
自分の責任のために。
きっとロッシュも。
アーサーは胸が痛くなるのを感じ、胸をおさえた。
ずっと自分を責めていたのか。
「お前がアロアを愛していたことも、アロアがお前を愛していたことも私は知っていた。それでも、私は」
男は咳き込みながらも流れ出てくる言葉が止まらない。
「お前が、貧しいという理由だけで、アロアから引き離したのだ。ただそれだけの理由でお前を見放したのだ。飢えて倒れるまで。お前が生きていたというのなら、ただ、ただ謝らせてくれ。私は、私は自分のことしか考えていない最低な人間だ。自分たちの幸せしか今まで考えていなかった。本当にすまない。こんな、こんな老いぼれもういっそ殺してくれ。お前の手で殺してくれ!」
男の青い瞳が力強くアーサーを見つめた。
アーサーの胸の痛みはどんどんとひどくなっていた。