アロアの故郷②
大きな食卓が華やかな食事で埋め尽くされていた。
ロッシュは目を輝かせながら、次から次へと料理を口に運んでいく。
「久しぶりだなあ、おばさんの料理。やっぱうめえや」
「本当ね、ロッシュはいつもあの人のお見舞いですぐ2階に上がってやっと下りてきたと思ったらすぐ帰ってしまうんだもの」
ばくばくと食事を続けるロッシュの横で少年は、ぼおっとエリーナを見つめていた。
「あらジョルジュはお腹すいてないの?」
「いやそんなことは」
「その包帯できっと食べにくいのね。少し解いたらどう?」
エリーナが少年の包帯に触れようとした時、ロッシュが叫んだ。
「お、おばさん!お湯、沸いてるみたいだぞ!」
奥にあるキッチンから沸騰したお湯で揺れるポットの音が聞こえた。
「あら、本当だわ。お茶いれてくるわね」
エリーナがキッチンに駆けて行ったのを見ると、ロッシュが少年に耳打ちをした。
「いいか。コゼツの旦那は今、2階で寝てる。おばさんには、お前がトイレに行ってることにしとくから、その間にコゼツの旦那に会ってやってくれ」
少年は包帯まみれの顔で2階へつづく階段を見つめたかと思うと階段の方へ駆けて行った。
ロッシュは少年の後ろ姿をぽかんと見つめていた。
なんだあいつ。
結構乗り気じゃないか。
◯アーサー
階段を上がるとそこにはいくつもの部屋があった。
順番に部屋を開けていくしかないか。
一番手前のドアノブに手を掛けかけた時だった。低いうめき声がアーサーの耳に入った。
廊下の奥から声は聞こえる。
アーサーはゆっくり奥の部屋へと向かった。
私は一体なにをしているのだろう。
こんなところで死んだ人間の振りなど。
下の階からは楽しそうな声が聞こえる。
エリーナの顔はアロアの顔にそっくりだった。
親子だから当たり前だが。
だからどうしてもアーサーはアロアのことを考えてしまう。
あいつは、私が王になることから逃げることを止めなかった。
そして、自分の死んだ親友に似ているという理由だけで私の手助けをしていたのか。
ただそれだけで。
うめき声はどんどんと大きくなる。
死んだ人間の振りなど何をすればいいのだろうか。
ほんの気休めだ。
アーサーの中にロッシュの言葉が蘇る。
気休めでもいい。
信じてくれるかもわかんねえけど、旦那にネロへ謝らせたいんだ。
コゼツの旦那にはこのまま死んでもらいたくねえ。
うめき声の聞こえる部屋の前にアーサーはいた。
扉は半分開いていた。
中を覗くとやせ細った男がベッドに横たわっていた。