あの騒動のあと②
「俺、見届けたいんだ。この国がどうなるのか。それに、お前らを巻き込んだのは俺のせいだし」
ボーマンは後ろを振り向いた。
トリスタンが繋いでいたイズーの手をぎゅっと握り締めたのが見えた。
その時イズーは、兄が本当は怖がっていることを察したのか、トリスタンの顔を見て口元をぎゅっと締めたかと思うと兄と同じように前をまっすぐ見つめた。
「俺も、姉さんやボーマンの兄さんを巻き込んじまった身だ。兄貴と同じように見届けるよ」
イズーの声はもう震えてはいなかった。
ボーマンはまっすぐ前を見据えるふたりを見て、微笑んだ。
いい兄弟だな。
「わかったわ」
そう言うと、前を歩いていたアロアが立ち止まり、振り向いた。
「じゃあ、これは、イズーに」
アロアは手に持っていた刃が半分になった選定の剣をイズーに差し出した。
「これってアーサーの兄さんが持っていた剣だよね?」
「ええ。これは選定の剣といって、王を選ぶ剣よ。これをアーサーに届けて欲しい」
ボーマンが驚いてアロアを見つめた。
「届けるって、アーサーがどこに行ったのかわかるのか?アロア」
「アーサーは少しでも、ウーサーのいる王都から離れようとする。王都の場所は王国の東側。だから私達が来た西へ戻るんじゃないかと思って。それに西に向かえば」
「西に向かえば?」
「まあとにかく、イズーはこのまま西へ向かって。ただし、途中にある西の果ての街へは寄らないこと。あそこは、ちょっと前に私たちが騒ぎを起こしているから警備が厳しくなっているはず。アーサーもきっとあの街は避けてもっと西へ向かうわ」
「わかった。これをアーサーの兄さんに届ければいいんだな」
「おい気をつけろよイズー。選定の剣は選ばれた者以外が使おうとすると呪われるらしいぜ」
ボーマンが心配そうな顔でイズーを見つめる。
「大丈夫だよ。こんな刃が半分になった剣、使う機会なんてないよ」
「まあ、それもそうだな」
「頼んだわよ。イズー。それから、ボーマンとトリスタン。あなたちは、私と一緒に王都へ来てもらうわ。そこでグウィネヴィアと会って欲しい」
「でも、王都に入るなんて警備が厳しいんじゃ」
「大丈夫。私が騒ぎを起こして捕まるから」
「捕まる!?」
ボーマン、トリスタンとイズーが同時に声を上げた。
「騎士団長のランスロットに会うにはそれが一番手っ取り早いわ」
「でもアロア」
「私は大丈夫よ。ボーマン。知っているでしょう?私がただのシスターじゃないってこと」
「だけど」
「王都の入口で騒ぎを起こすからふたりはその隙に王都に入って」
有無を言わせないアロアの青い瞳を見て、ボーマンはため息をついた。
「わかったよ。お前の言うとおりにするよ」
アロアは微笑んだ。
「頼んだわよ。ボーマン、トリスタン。必ずグウィネヴィアに会って」
あいつはあの時、グウィネヴィアに会ってとしか言わなかった。
説得しろとは言わなかったんだ。
つまり、会えば、すぐに反乱に手助けしてくれると直感で感じているからか。
「大したもんだよ」
「何言ってんだ?ボーマン」
「ただのひとり言だ。さて、明日に備えて今日はもう寝るぞ」
「俺、もうちょっと王都を満喫したい」
「お前なあ、イズーは今ひとりで頑張ってんだぞ」
「あいつは、ひとりでも大丈夫だよ。びびりだけど、根性は人一倍あるからな。それに、俺たちよりアロアから多めに金もらってるじゃねえかよ」
「イグレーヌの金でうまい飯いっぱい食えたからいいだろ。明日はきっと長い一日になる。ほら、行くぞ」
すねるトリスタンをボーマンは無理やり引っ張って行った。