約束
ボーマンとトリスタンが振り向く。
しまった。
思わず引き止めてしまった。
「えっと、私、ここから宿泊しているホテルへの帰り方がわからないの。道案内してくれない?」
「しかし何で貴族のあんたが王都の道がわからないんだ?」
「王都は常に変わっている。だから久々に来たらわからなくなっていたのよ。王都だけじゃなくて、この国の地形自体ね」
「何で?」
グウィネヴィアは、大通りで賑わう人々を眺めた。
「さあ。王様の考えることはわからないわ」
自分の身を守るため、ただそれだけで平気に街を国を変えてしまう王。
「本当、ひどい国になったものよね」
「ん?何か言ったか?」
「ううん。別に」
「おい!ここじゃねえの?お前の泊まってるホテルって」
前を歩いていたトリスタンがグウィネヴィアとボーマンに振り向いた。
ボーマンが口をぽかんと開けてホテルを見上げた。
「さすが貴族だな」
「そう?」
グウィネヴィアは微笑んだ。
「ねえ、ふたりとも明日の午後、ここに来なさいよ」
ボーマンとトリスタンが不思議そうな顔でグウィネヴィアを見つめる。
「私、案内するわ。グウィネヴィアの城まで」
「本当か!?」
ボーマンとトリスタンが同時に声を上げた。
「ええ。本当。馬車で行けばすぐよ」
トリスタンの目が輝いた。
「俺、馬車に一回でいいから乗ってみたかったんだよ!」
「じゃあ、ちょうどいいじゃない」
「でも、いいのか?イグレーヌはまだ王都に用があったんじゃ?」
喜ぶトリスタンの横で、ボーマンが心配そうな顔でこちらを見つめる。
「もう目的は果たしたから大丈夫よ」
「でも」
「いいじゃねえか。ボーマン。イグレーヌがいいって言ってんだからよ」
「そうゆうこと。遠慮しなくていいわよ。じゃあ、明日の午後、太陽が真上に昇る頃にここに集合で!」
そう言ってグウィネヴィアは、ホテルの入口に駆けて行った。
後ろからありがとう!とボーマンたちの声が聞こえた様な気がした。
グウィネヴィアは決めていた。
明日、ふたりに会った時自分の正体を正直に話そうと。