少女の名前
◯ボーマン
ボーマンは席に戻ってきた少女をじっと見つめた。
ボーマンの視線に気が付いた少女は不思議そうな顔でボーマンを見つめる。
「あの、何か?」
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったなと思って」
「あ、本当だ。俺たちは名乗ったのに、まだ、あんたの名前聞いてねえや」
トリスタンは新たな料理が運ばれてくると騎士団の男にさっきまでびくついていたことなどまるでなかった様にまた食事を再開していた。
「食いながら話すな。汚ねえ」
ボーマンとトリスタンは、墓地からこの店に来る途中で少女に名前を教えていた。
だが、その時、少女は名乗らなかったのだった。
今考えるとそれがボーマンにはわざと名乗らなかった様に思えていた。
「あ、まだ言ってなかったかしら」
「ああ。聞いてねえよ。俺たちの望みをなんでも叶えてくれるって人の名前はちゃんと知っておかないとと思ってな」
何よりもさっきの騎士団の男と友人ってのがひっかかる。
もしかして俺たちの正体を本当は知っていて
「イグレーヌ」
ボーマンは目を瞬いて少女を見つめた。
「え?」
「だから、私の名前はイグレーヌ」
「ふうん、イグレーヌってのか高貴な名前だな」
トリスタンはそう言って、また別の料理を手にとった。
ボーマンはそっけなく名前を答えた少女にあっけにとられていたが、すぐ我に返った。
「イグレーヌは、貴族なのか?」
「ええ。そうよ」
「ずっと王都に?」
「いいえ。王都から少し離れた街に住んでいるわ」
「騎士団と」
「騎士団?」
「騎士団と何かつあがりがあるのか?」
「え?ああ、もしかしてさっきの見ていたの?あれは、ただ騎士団に知り合いがいてその人と一年ぶりに偶然会ってね、少し話をしていたのよ」
本当にただの知り合いなのだろうか。
でも、確かに貴族なら騎士団長と親しくてもおかしくはないか。
「そうか」
「ええ。そうよ」
「トリスタン」
トリスタンが食べ物をほおばりながら、ボーマンを見つめた。
「そろそろ食べるのやめろ」
「え?なんで?だってまだ俺」
ボーマンがトリスタンをじっと見つめる。
「わかったよ」
持っていた皿をおいたトリスタンを見て、ボーマンは視線をイグレーヌに移した。
「約束だ。俺たちの望みを聞いてくれ」
ボーマンの青い瞳がイグレーヌを捉える。
「旧王族のグウィネヴィアに会わせてくれないか?」