謎の男の訪問
◯アロア
暗い鉄格子の中でアロアは自分の腕に巻かれた手錠を見ながら、ランスロットの顔を思い出していた。
アーサーと同じ金色の瞳。
そして、なによりも、友を思うそんな顔をしているようにアロアは思えた。
やっぱりランスロットは味方だわ。
後は、ボーマンたちがうまくやってくれれば。
「シスター」
アロアは、暗い鉄格子の外から声がして、はっと顔を上げた。足音が近づいていくる。
暗闇にいて顔がよく見えない。
「教えていただけませんか」
アロアは声のする方を目を凝らして見るが、顔はまだよく見えない。
「なにを?」
足音が止まった。
「以前、ここで団長とお話されていた内容を」
男が鉄格子をはさんでアロアの真ん前に立ったその時、かすかな明かりで照らされた男の顔をアロアは見た。
誰?この人。
「教えてください。シスター アロア」
アロアは男の顔から視線をそらした。よく見ると男は騎士団の制服を着ていた。
「そんなに警戒しないで下さい。以前一度会ったことがあります」
騎士団なんてあのとき家に来たランスロットしか知らない。
アロアは少し考え込んでから思い出した。
ああ・・・あの時の。
「あの時」
アロアがつぶやく様に喋り出した。
「私の家に踏み込んだ人ね」
「ええ。そうです」
「ねえ、あなたも騎士団員なら直接ランスロットに聞けばいいじゃない」
「聞けないから聞いているのです。団長はなかなか私に全て教えてくれません」
アロアはもう一度男の顔を見た。
男は、どこにでもいる普通の青年のような顔立ちだったが、アロアには不気味な顔に見えた。
「もしかしてウーサー王のスパイ?」
男は笑いだした。笑い声も今のアロアには不気味に聞こえた。
「スパイでしたら、反逆者の警備を頼まれたりはしません」
「じゃあ、どうして?」
「私は」
男はにやっと笑った。
「私は、ただ知りたいだけです。私が知らないことが身近にあるのが嫌なんです。ただそれだけ」
「他人の秘密まで?」
「私以外が知っていて私だけ知らないなんて不公平ではないですか?」
「言いたくないことだってあるわよ」
「尚更聞きたい」
アロアは男と会話をしていると胸がざわついた。
「私は、話さない。聞きたいのなら、ランスロットに聞いて」
男は笑いだした。
「あなたもあの方と同じことを言うのですね」
そう言って男は鉄格子に背を向けた。
「また、会いましょう。シスター アロア。次は鉄格子の外で」