見定めと今知るべきこと
◯ロッシュ
「よし。これで帽子をかぶれば」
ロッシュは少年に帽子をかぶせ、じっとその姿を見つめたかと思うと、吹き出した。
「貴様、わざとだろ」
「いやあ、悪い悪い。ちょっとやりすぎたかなと思ってな」
しかし、ロッシュは少年の姿がおかしくてまた吹き出してしまった。
少年のむすっとした顔でも見れば、笑いなどひっこんでしまうだろうが、不機嫌な少年の顔は包帯で覆われていた。
目だけが包帯の間から見えているだけだった。
「まあ、でも仕方ねえんだよ。村の人があんたの顔を見たらびっくりしちまうからな。顔を隠してもらわないと」
「村はもう近いのか?」
「ああ。この村の隣村だよ」
ロッシュと少年はロッシュの村の隣村の宿屋にいた。
少年は、嫌そうに顔にまかれた包帯を解いた。
「なあ、少し、歩かねえか?この村、案内するよ」
宿屋の外に出ると日はしっかり沈み、空には星が広がっていた。
「田舎の村にしては、賑やかだな」
そう少年に言われて、ロッシュはあたりを見回した。
村の通りではたくさんの村人が酒を飲み交わし、楽しそうな声をあげている。
「ああ。田舎もんの俺らにとったらここは王都みたいなもんだからな」
少年は何も言わず、村の人々の様子を見つめていた。
「ここにいる村の者は明るいな。私が旅をしている最中に見た人々はみな暗い顔をしていた」
「そうでもねえよ。ここの人たちだって、国にお金を払うのに必死なんだ。もともともう少し村は大きかったし、映画館だってあったんだぜ?よくアロアとネロとこっそり裏口から入ってよ。観に行ったんだ」
少年の金色の瞳がじっとロッシュを見つめる。
「でも、今の王様になってから、国に高額なお金を納めないといけなくなった。払えない奴は強制労働で、どっかに連れて行かれたんだ。無理やり兵士にされて隣国との戦争に参加させられてるって噂もあった。だからここの住人も減って村は小さくなってく一方だ。みんな必死なんだよ。あんたはたぶん、まだこの国のちょっとの一面しかしらねえんだな。見たところ、貴族みたいだし。今のこの村のひとたちだってこんなに楽しそうにしているけどよ、それもほんの一面だ」
ロッシュは村の人々を見つめた。
そうだ。
誰も簡単に判断しちゃいけねえんだ。
見えているのはほんの一面でしかねえ。
「ちゃんと見定めないといけねえんだ」
じゃなきゃまたネロみたいに・・・
「私は何も知らなかった。知ろうともしなかった」
少年は苦しそうに胸元をつかんだ。
「だったらこれから知ればいいだけの話じゃねえの?死ぬまでに分かれば、それでいいだろ。一番悪いのは死ぬまで気づかないことだ」
少年がきょとんとした顔でロッシュを見つめたかと思うと急に吹き出した。
「な、なんだよ。俺、なんか変なこと言ったか?」
「貴様らは揃いも揃って」
「貴様ら?」
「田舎者と話していると気持ちが楽になる」
「は?なんだよそれ」
「私は、もう疲れた。宿に帰るぞ。ロッシュ」
そう言って少年はすたすたと歩き出した。
「あいつ、名前教えてくれねえくせに、俺のこと呼び捨てにしやがって」
ロッシュはぶつぶつ文句を言いながら少年の後に続く。