思い出の景色
◯グウィネヴィア
「好きなもの食べていいわよ?」
「ほ、本当にいいのか?」
「ええ」
グウィネヴィアの前に座るボーマンとトリスタンは、グウィネヴィアから視線を外し手元にあったメニューを見つめたかと思うと手をまっすぐ上げ、店員を呼んだ。
「お、王都特製デミグラスソースのハンバーグ」
「王都特製ことこと煮込んだシチュー」
「王都特製さくさくほくほくコロッケ」
「王都特製とろとろオムライス」
「王都特製」
グウィネヴィアが吹き出した。
「あなたたちさっきから王都特製ばっかり」
「だってよ、俺初めてなんだ。王都で飯を食うなんて、次元の違う人間のすることだと思ってたから」
「俺もこいつと同じだ。王都は金持ちの街だって思ってたからな。年甲斐にもなく興奮しちまった」
グウィネヴィアはふたりをみて微笑んだ。
「そうね。でも、今日は好きなだけ食べてよ。ぜーんぶ私のおごりよ」
「ほ、本当にいいのか?飯までおごってもらって」
「いいのよ。ひとりで今日は夕食を食べる気分にはならないわ」
「よっしゃ!俺、遠慮なく食いまくるからな」
トリスタンはそう言うと、店員に注文の続きを言い始めた。
グウィネヴィアは嬉しそうに微笑んでいた。
「お前、家に帰ってもひとりなのか?」
ボーマンがじっとグウィネヴィアを見つめる。
「え?ええ」
「親はいないのか?」
グウィネヴィアは視線をボーマンからそらした。
「親はいないわ。母は私を産んですぐ亡くなったの。父は・・・えっと、戦争で戦って亡くなったわ」
「父親は兵士だったのか?あんた貴族なのに?」
しまった。
「えっと、し、司令官だったのよ」
「そうか・・・。立派な父親だったんだな」
「え、ええ」
なんとかごまかせれたわね。
「お待たせいたしました」
「おお!きたきた!」
トリスタンは待ちきれなかったのか両手にはすでにナイフとフォークが握られていた。
「うわ!うまそう!」
ボーマンも料理を見ると目を輝かせた。
ふたりは夢中になって目の前にある料理を食べ始めた。
グウィネヴィアはそんなふたりがかつての親友たちの姿と重なった。
1年前の旅でアーサーやガウェイン、ランスロットもこんなふうに食べていたわね。
アーサーは文句を言いながら、ガウェインはどんな食べ物もおいしいって言いながら、ランスロットはそんなふたりにうるさいって怒りながら・・・。
「お、おい、どうしたんだ?」
「え?」
ボーマンとトリスタンがきょとんとした顔でこちらを見ていた。
グウィネヴィアは頬に手を触れた。彼女の手に涙がこぼれる。
「あ、私・・・。ちょ、ちょっとごめんなさい」
そう言ってグウィネヴィアは席を立った。
もう思い出してもどうしようもないのに。
グウィネヴィアは店の外に出て、夕日の消えかけた空を見上げた。
涙はぽろぽろと彼女の頬をつたっていく。