墓地にて
こんな会ったばかりの奴の頼みをまさか引き受けてくれるとは。
「あんたいい奴だな」
ロッシュの前を歩いていた少年が立ち止まった。
「そういえば、名前、聞いてなかったよな。名前何て」
「貴様の親友の名でいい」
ロッシュの言葉を少年が遮った。
「え?」
少年がロッシュに振り向いた。
「今から私は貴様の親友の振りをするのだろう?では、私の名など知る必要はない」
少年は再び前を向いて歩き出した。
なんだ?名前を言いたくないのか?
「お、おい!待てよ」
ロッシュは少年の後を追った。
◯ボーマン
ここは・・・墓地?
ボーマンは立ち止まり、あたりを見回した。
そこには、たくさんの墓が建っていた。
どれも立派な墓だな。
貴族や王族の墓か?
「こっちよ」
少女に声を掛けられてボーマンは我に返った。
ボーマンの視線の先に花束を抱えた少女がいる。
見た感じ貴族の子だろうとは思っていたが。
「あんたの家族の墓があるのか?」
少女は少し微笑んでボーマンから視線を外し、歩き出した。
「この先にあるわ」
ボーマンは黙って少女の後に続いた。
ボーマンの横を歩くトリスタンがじっとボーマンを見つめていた。
「なあ、ボーマン。本当にあいつ信用できるのか?俺たちが護衛をしたらなんでも望みを叶えてくれるって」
「見たところ貴族の様だし、なにかしら願いは叶えてくれるだろ」
「でも、それならなおさらおかしくないか?貴族なら普通護衛を連れて街に出るだろ?なんでであいつひとりなんだよ」
「さあな。ま、とりあえず何もしないで王都にいるよりかはましだと思うぜ。アロアとの約束を果たすには貴族か王族の協力がいるしな」
「まあ、それもそうか」
トリスタンは渋々納得した様な顔をしていた。
そんなトリスタンの背中をぽんっとボーマンが叩いた。
「なんだ、お前、まさか前みたいに裏切られるとかでも思ってんのか?怖がりだな」
「う、うるせえな。慎重になってんだよ。前みたいなことはもうごめんだからな」
「ああ。そうだな」
前を歩いていた少女が立ち止まった。
ボーマンとトリスタンも立ち止まる。
「ここよ」
少女はしゃがみこんで花束を墓に供えた。
ボーマンとトリスタンは少女の後ろから墓を覗き込んだ。
墓には、私達の永遠の友 ガウェインここに眠る と刻まれている。
ガウェイン?
なんだ?
どこかで聞いたような名だな。
「家族じゃなかったのか?」
「ええ。そうよ。彼は、私の親友なの」
「病気で死んだのか?」
そう尋ねたのはトリスタン。
「いいえ。彼は殺されたの。この国に」
ボーマンとトリスタンは驚いて顔を見合わせた。
ふたりに背を向けたまま少女は立ち上がった。
「彼は、ガウェインはこの国を救うために犠牲になったの。でも、この国にとって彼は反逆者。本当はお墓を建てていけない」
少女はふたりに振り向いて、微笑んだ。
「だからこのことは秘密にしといてもらえる?」
反逆者と友達の貴族。
こいつは何者なんだ?
「とりあえずどこかに入って話しましょ?あなたたちの望みを聞かないと」
「本当にいいのか?護衛って言っても墓地まで付いてきただけだ」
「いいのよ。それだけで十分。王都もちょっとの間に治安が悪くなってしまったみたいだし。それに、誰かと一緒にガウェインのお墓に来たかったから。ひとりで来ていたらきっとまた泣いていたわ」
少女は優しくボーマンとトリスタンに微笑んだ。
また泣いていたってことは、前来たときはひとりで・・・。
「さ、行きましょ?」
ボーマンには一瞬、横を通り過ぎた少女の姿がアロアに見えた。
そうか。
この子もアロアと同じなんだ。
国を憎んでる。
心の底では。