ロッシュの頼み
◯ロッシュ
本当は、アロアを連れ帰って会わせたかったんだが。
「いやあ。本当にありがとよ!」
ロッシュがそう言って後ろを振り向くとまっすぐロッシュを見つめる少年の姿があった。
「俺の馬鹿げた頼みを聞いてくれて助かるよ」
ロッシュは少年に微笑んだが少年はロッシュから視線を外し、すたすたと横切っていった。
ロッシュはそんな少年の後ろ姿を見つめながら、昨夜の会話を思い出していた。
「なぜ?なぜ私が貴様の村に行かなければならない?」
少年は先程まで浮かべていた笑みを消し、ロッシュを睨みつけていた。
「死んだ友人の振りをしてほしいんだ」
ロッシュの青い瞳が少年をまっすぐ見つめる。
「あんたにそっくりな俺の友人・・・ネロは、実は5年前に死んでるんだ。でも、あんたはその死んだ友人が生きていたらきっとこんな姿だったって思わせるほど似ている」
「死んだ人間の振りなど無意味だ。それとも化けてでて脅かしたい人間でもいるのか?」
「ほんの気休めだ」
少年は表情を変えずじっとロッシュを見つめた。
「さっき話したろ?アロアって奴の親父さんがもう長くは生きられないって。その人にあんたを会わせたいんだ。アロアの親父さんは、ずっと後悔してる。ネロを死なせちまったこと。今、病気で意識が朦朧としている中で何度もネロの名前を呼んでいるんだ。気休めでもいい。信じてくれるかもわかんねえけど、旦那にネロへ謝らせたいんだ。旦那には・・・コゼツの旦那にはこのまま死んでもらいたくねえ」
ロッシュは頭を下げた。
「馬鹿げた頼みってことは百も承知だ。だが、どうしてもあんたを会わせたい。頼む」
膝の上に置いていた拳に力が入る。
頼む・・・!
ロッシュはまだ頭を上げない。
「村は」
少年の発した声にロッシュは思わず顔を上げた。
「村はここから遠いのか?」
ロッシュは目を瞬いた。
「え?」
「だから貴様の村はここから遠いのか?と聞いている」
「引き受けてくれるのか?」
少年の金色の瞳が光った。
「どうせ私には・・・いや、私はもう宿を追い出される身だからな。次の宿を探したい。それだけだ」