ロッシュの旅⑤
「空いてる部屋ってまたここかよ」
ロッシュは部屋の大部分を埋めているベッドに倒れ込んだ。
この前、この部屋に入った時は、アロアに会えると思ってわくわくしてたっけ。
「馬鹿だな俺。あいつがじっとしているわけないのに」
ロッシュは顔を枕にうずめるとそのまま真っ暗な闇の中に落ちていった。
「もうお代はいらないよ。だから出っててくれないか?」
真っ暗な闇の中で話声が聞こえる。
「ずっとこの部屋に泊まられると困るんだよ」
何の話だ?
「頼むよ。別の村の宿屋を紹介するからさ」
ああ、そうか。
例のお客か。
ロッシュは重い瞼を開けると低い天井が目に入った。
話声は廊下から聞こえた。
「強情な客なんだな」
ぼーっとベッドの上に座っていたロッシュの背筋に寒気が走った。
「ちょっとトイレ」
ロッシュは部屋の扉を開けて、廊下に出た。
その時だった。
ロッシュの心が真っ白になった。
時間が止まったようにも感じた。
そしてある一言が浮かび上がった。
生きていたのか?
「ちょっとお客さん、どうしたの?」
ロッシュがはっと我に返ると宿屋の少女が不思議そうな顔をしてロッシュを見つめていた。
「あ、驚いちゃったわよね。今走っていったのが例の」
「今のが例の客か」
「ええ。お父さんがもう出ていいてほしいって言ったら怒って逃げちゃって」
「俺、追いかけてくるよ」
「え?」
ロッシュはそのまま駆け出した。
「ちょ、ちょっとお客さん!」
少女がそう声を掛けた時、ロッシはすでに階段を下りていた。