ロッシュの旅②
「おはよう。あら、ひどい顔ね?」
宿屋の少女がふらつきながら廊下を歩くロッシュに声をかけた。
「え?あ、ああ。昨日ちょっと眠れなくてな」
「あなた、あの狭い部屋に泊まったお客さんでしょ?そりゃあんな部屋じゃ誰も寝れないわよ」
「おいおい、じゃあ、あの部屋売り物にするなよ」
少女はくすくすと笑ってカウンターに入っていた。
そのままロッシュも支払いをしようとカウンターに向かった。
「本当に困るわね。かれこれ3ヶ月だよ」
「ひとり旅なのかね?」
カウンターの奥からそんな話声が聞こえてきた。
「なあ、あいつら何の話をしているんだ?」
お金を受け取った宿屋の少女がため息をついた。
「あれね。本当困っているのよ。もう3ヶ月間ずっと泊まっている人がいてね。まあ代金はもらっているんだけど。なんせ小さい村のこんな小さい宿屋でしょ?住み着くんじゃないかって母さんも父さんも気味悪がってるのよ」
「ひとりで3ヶ月もねえ」
「しかもこの辺りの人間じゃないみたいで」
「え?なんで」
「だってそのお客の・・・あ、今帰ってきたわ」
チリンと鈴の音が鳴って扉が開く音が聞こえた。
ロッシュは扉の方へ振り向こうとしたが、肘がカウンターに置いていた財布にあたり、チャリンと音をたてて財布から小銭が散らばった。
「おっと。やっちまった」
ロッシュは小銭を拾おうとしゃがみこんだ。
「大丈夫?」
カウンターから少女が出てきて、散らばった小銭を集めるのを手伝ってくれた。
ロッシュは顔を上げて扉の方を見たが、例の迷惑なお客は去ったあとだった。
「あら、あなたお金持ってないんじゃなかった?それにしてはお財布ぱんぱんよ?」
少女が集めた小銭をロッシュの財布に入れ、ロッシュに差し出した。
「ああ、これな。これは、俺のための金じゃねえんだ。この先にいる俺の親友にいいもん食わせてやろうと思ってよ。そのための金なんだ」
「へえ、素敵。早く会いたいわね」
ロッシュはにやっと笑って財布を受け取った。
「ああ、もうすぐ会える」
もうすぐ会える・・・と思ってたのに。
「国王軍に反乱を起こした!?」
ロッシュの声は教会の中で響き渡った。
祈りを捧げていた数人がロッシュを睨んだ。
「あまり大きな声をだすんじゃない」
「あ、すまねえじいさん。思わず驚いちまって。でも、なんで反乱なんか。二年前きた手紙にはここで元気にやってるって」
「そりゃあ反乱を起こしたのはつい3、4ヶ月前くらいだいからねえ」
「な、なんで反乱なんか」
「さあね。ただこの街の国王軍を全員倒してしまったんじゃよ」
「こ、国王軍を全員!?」
ロッシュの声がまた教会にこだまする。