ロッシュの旅
◯ロッシュ
この村を超えてさらにもうひとつ村を超える。
あともう少しだ。
あいつのいる街まで!
「なんだよ兄ちゃん、何かいいことでもあったのか?」
小さな村の宿屋のカウンターで考え事をしていたロッシュは、我に返ってカウンター越しに声をかけてきた男に、にやっと笑った。
「これからいいことあんだよ。それよりおっちゃん、今日部屋空いてるのか?」
「ああ。空いてるよ。一番小さくて一番狭い部屋だけどな」
「上等だよ!俺ァ金がもう底つきそうでさ」
「旅の人間がそんなお金なくて大丈夫なのか?」
「大丈夫なんだなこれが。この村を超えた先に俺の友達がいるんだよ。そいつに会いに行くまでの辛抱だからな」
ロッシュは一刻も早く会いたかった。
かつての親友に。
そして一刻も早く伝えなければならないことがあった。
部屋は聞いていた通りベッドひとつで部屋のほぼ全てを埋め尽くしている狭い部屋だった。
「上等。上等」
ロッシュはそう言いながらベッドの上に荷物を置き、自分もベッドに倒れこんだ。
天井をじっと見つめた後、目を閉じた。
何年振りになるんだ?
俺のこと覚えているかな?
それ以前にあいつ変わっちまって俺、わかんねえかも。
いや、それはないか。
「早く・・・早く会いてえな。アロア」
ロッシュはそのまま眠りこんでしまった。
「ロッシュ・・・ロッシュごめんな。こんな父親ですまない」
ああ。まただ。
またこの夢だ。
なんで謝るんだ?
謝ってももうどうしようもならないのに?
小さい、小さい男だ。
俺は、こんな男にはなりたくない。
ロッシュの目に天井が飛び込んできた。
大きく息を切らしながら、ロッシュはまっすぐ天井を見つめた。
呼吸はだんだんと落ちついてきた。
「やっぱ夢だったか。そりゃそうだよな」
ロッシュは目を閉じた。
大丈夫。
悪夢を見た後はいつもいい夢が待っている。
だから、眠ろう。
今は眠ろう。
ロッシュは再び深い眠りへと落ちていった。