トリスタンの叫び②
◯イズ
兄貴どうして?
イズーはトリスタンが国王軍に向かって叫んでいるのをただ見つめていた。
国王軍の言葉をきいていなかったわけではない。
だが、怖かったのだ。
これ以上国王軍を怒らせたくない。
そんな感情がイズーの体を捕らえて離さなかった。
◯トリスタン
歓声は鳴り止まない。
トリスタンの叫び声はかき消される。
「俺はここにいるぞ!」
トリスタンは止めない。
「俺はここにいる!」
その声は歓声を覆うように響き渡った。
黒いかたまりの大群が黙り込む。
そして、舞台にいた国王軍がトリスタンの存在に気が付き、見下ろした。
「仲間に手を出さないでくれ」
舞台の上にいる国王軍は何も答えなかった。
「頼む。あいつらに手は出さないでくれ」
国王軍はにっと笑ったかと思うと、トリスタンに言い放った。
「君は誰だい?」
トリスタンは思わずえっ?と声が出ていた。
「申し訳ないがこれは街の子である君には関係がないんだよ。そこで見ていなさい?」
トリスタンは男が何を言っているのかわからない。
だが、次に男がささやいた言葉はトリスタンをパニックに陥れた。
「やめろ!やめろ!」
トリスタンは国王軍が何をしようとしているのか理解した。
走り出し、舞台に駆け上がろうとした。
「お前ら、そいつを取り押さえろ」
数人の国王軍がトリスタンを地面に押し付けた。
トリスタンは男の囁きが頭から離れない。
「そこでお前の仲間が傷つくところを見ていろ」
あいつらは俺たちの仲間を痛めつけて絶望する俺たちの顔を見たいんだ。
それがあいつらの復讐だ。
「てめえらやめろ!俺の仲間に手を出すな!悪いのは俺だ!あいつらは関係ない!」
国王軍の男はにたあと笑った。
「街の子がおかしなことを言っているね。君には悪いけど、悪いことをしたら罰せないといけないんだ。これは仕方なくやっているんだよ」
そう言う男の手には剣が握られていた。
「お、おい何する気だよ」
「希望ある若者の腕を切り落とことは非常に残念だが罪人は腕を切り落とすのがしきたりだからねえ」
(腕を切る?)
「ま、まって」
国王軍の男はにやにやしながら横一列に並ぶ子供達の前にやってきた。
「さて、誰から切ろうか?」
子供たちは恐怖で声も出ない様だった。
「お、おいやめろ!」
子供たちは腕と足が縛られていて逃げることもできない。
ただ剣を持った国王軍を見つめるだけだった。
「まあいい。じゃあ左から順番にいくか」
男が列の一番左にいる少年に近づいて行く。
トリスタンは言葉にならない叫びを上げた。
やめてくれ。
たのむ。
やめてくれ。
誰か・・・誰か助けて。
「やっぱり国王軍は最低ね」
トリスタンの耳にそんな言葉が飛び込んできた。
顔を上げるといつの間にか横にアロアが立っていた。
「なんだ?このシスターは?」
トリスタンを取り押さえていた国王軍の1人がアロアに近づこうとしたその瞬間、
男の体が吹っ飛んだ。
「え?」
トリスタンは涙でぐちゃぐちゃになった顔をアロアに向けた。
「お、おいこいつ例の盗人の仲間じゃないか?」
「なに!?」
トリスタンの周りに数人の国王軍が寄ってきた。
舞台にいる剣を持った処刑人の男も何事かとこちらを見下ろしていた。
ああ。
大丈夫だ。
トリスタンは今の自分がおかれている状況が理解できていない訳ではない。
俺たちは助かった。
だが、横にいるアロアを見ているとそんな気持ちがわいてくるのだ。
「アロア」
アロアの青い瞳が地面に押し付けられているトリスタンを見つめた。
「助けて」
アロアは目を閉じて大きく息を吸った。