ボーマン達との再会⑤
◯アロア
「イズーに何言ったの?」
アーサーはアロアの目を見たが、すぐに目を伏せた。
「別に。何も」
嘘だわ。私には全部わかるんだから。
「ふーん。そう」
そのアロアの顔が気に入らなかったのかアーサーがむっとした。
「何だ貴様、その顔は?」
「別に何も」
アーサーはさらにむっとした。
「おい、お前ら遊んでいる場合じゃないぞ」
アロアとアーサーがボーマンを睨んだ。
「な、なんだよ?」
「やっぱりボーマンが一番変」
「は?」
「貴様、何か企んでいるのではないか?」
ボーマンは、ため息をついた。
「少しは俺を信用しろ」
「だってほんの数日前まで国王軍で子供をいじめていた人が、さあ国王軍を倒そうなんて言える?」
「お前と一緒だよ。アロア」
アロアがきょとんとした顔でボーマンを見つめる。
「気分だよ」
「気分?」
そう尋ねたのはアーサー。
「お前だって親友を殺したも同然の国王軍がほっといたら殺されるかもしれないって状態から気分で救ってくれたろ?それと同じだ」
アロアは小さくああとつぶやいていた。
「それはちょっとわかるかも」
「そう。気分なんだよ。だからさアロア、今はこんな気分だけど、もしかしたら、また前みたいにガキどもをいじめたいって気分になるかもしれねえ」
そう言ってボーマンはちらっとトリスタンとイズーを見つめた。
ふたりは仲良くじゃれあっていた。
「でも、今はあいつらを助けたい気分なんだよ。正直、自分がこれからどうなるのかの不安の方が大きい。でもだからこそ、自分が力の強い奴らに殺されるかもしれないことになってやっとわかったんだ。俺たちがいじめていた俺たちよりも弱い奴らの気持ち。だから今はあいつらを助けたい。本当に心からそう思えるよ。俺は自分がひどい目にあってやっとそう思えるようになるような人間だがな。それでも、そういうもんじゃねえのかな。気分だろうが何だろうが」
ボーマンは唇を噛み締めて俯いた。
ああ、そうか。
ボーマンはこんな単純に助けたいと思ってしまった自分が軽薄な奴なんじゃないかと不安なのか。
アロアはふふっと笑った。
「でも、そういうもんでしょ?」
ボーマンが顔を上げてアロアを見つめる。
アーサーもアロアに視線を移す。
「おかげで、今目の前にいるふたりは助かるかもしれないわけだし。人助けってそういうもんでしょ?自分がいかに軽薄でも誰かを助けたいってほんの少しでも思えたらそれでいいんじゃない?たとえそれが一時のものだとしても」
そう言ってアロアは、ボーマンの横を通り過ぎ、ドアノブに手をかけた。
「ここで話をしていてもらちがあかない。そろそろ行きましょ」
アロアは振り返ってボーマンを見つめた。
アロアの言葉を聞いたボーマンの瞳は少し潤んでいた。
アロアはそんなボーマンを見て微笑んだ。
まだ彼女の中では国王軍は許すことのできない存在であるが、ボーマンのような人間がいるのかと思ったら少し嬉しかったからだ。
「おい、アロア」
アロアとボーマンはアーサーを見つめた。
「貴様、私に嘘をついたな?」
「え?」
「こいつを教会へ連れて行くのは人質に使うためだと言っていたではないか。あれは嘘か?」
「今、そこを言うのね」
真剣に問い詰めるアーサーの顔がおかしくて、アロアはつい笑い出してしまった。
それを見たボーマンも吹き出した。
アーサーの何がおかしい!と叫ぶ怒鳴り声よりもふたりの笑い声の方が大きかった。