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囚われのブルーファンタジー  作者: 麻天無
囚われのブルーファンタジー1巻
2/7

囚われのブルーファンタジー1 CROSS BLUE 2

ディートは、姉のような存在(姉だが姿は幼い)ベルと、不思議な青い髪の少女ティーラと、岬の神殿という場所に行くことになった。なぜか再開したばかりの幼なじみダルグも付いてくることに。

他の賞金稼ぎに狙われたり、別の刺客に襲われたり、と戦闘もはじまり、ますます彼女がいったい何者なのかわからない。その上、もう一人精霊らしき青年が出てきて、ティーラにあんな事を!いったいこれからどうなるのか・・・。


   CROSS BLUE 1-2  動き出す cogwheel


 ティーラは退屈さを感じ、宿屋の窓から小雨の降る町並みを見ていた。

 ここは、『岬の神殿』に一番近い小さな町。たどり着くまでの道中、アクシデントはなかったがベルがいなかった。

 ディートとダルグは、他愛ない会話と幼少の頃の話を楽しそうに話して、たまにティーラに話を振ってくれた。だが、何かが物足りなかった。時々小さくため息をするディートが気になっていた。そのため息はベルがいない所為なんだろうとなんとなく思った。

「どうしたの?」と聞いても、

「なんでもないよ。ティーラはだいじょぶか?」と優しく返されるだけだった。

 空は日暮れとともに曇りだし、雨が降り始めた夜に町に着いた。

 ダルグは知り合いがいるから出かけるといってどこかに行ってしまった。

 ディートは小さな宿で一つだけ部屋をとり、ソファーをベットから離してそこで寝ている。

 この町の一昔前は、迷いの森の原因を解明しようと西から東からこの町に人が溢れ賑わっていたそうだ。トレジャーハンターや学者が躍起になって研究したが、謎は解き明かされず確実な結果は得られなかった。『岬の神殿』以外に目立った遺跡がなく、大街道から外れているため人々は離れ、どんどん小さな町になっていった。

 町に着いたときに、そうダルグが教えてくれたことを、ティーラは外を眺めながら思い出していた。

 そんな人気のない雨の町でも、何時間も窓から眺めていれば僅かな人が往来している。

 何か嫌な視線を感じた気がして、少し不安になりディートを見た。

 ディートの身体はソファーを寝床にするには狭く、窮屈そうに何度か寝返りをして唸ってから、そういえば、というようにティーラがいるベットを寝ぼけ眼で確認した。

「ん・・・ティーラ・・・おきてるの、か?」

「・・・うん・・・」

「そ、か。」

 ティーラはベットから降りディートに話しかけることにした。

「ねぇ、・・・くるしいの?」

「え?なんで?」

「うなってたし、起きないし。」

「悩んでるとねちゃうんだよな、俺」

 狭いソファーで身体を回しながら、腕で顔を隠すディート。

「なやむ?」

「あ、いや、違う、ティーラのことじゃないから心配するな!」

 ディートは上体を起こして元気よく答える。

「・・・・」

「ちょっと疲れただけだからさ」

 それがどこか嘘っぽい。そんな話も飽きてしまった。

「これからどうするの?」

「いつも朝定時にはベルが起こしに来るけど、いつもより遅いから待機・・・いや、喚んでもいいか。いや、でもなぁ・・・」

 ぼさぼさの頭のまま腫れぼったい目のディートは、頼りなくだらしなく見えた。ティーラは自分の退屈度がピークに達したことも相まって、いい加減頭にきた。

「ホントはなにかあるんでしょ!なにかあったんでしょ!?」

 ティーラはディートに歩み寄り怒り顔で睨む。

 急に怒られ、至近距離で眉のつり上がったティーラを見るのは初めてで、ディートは目を覚まし鼓動を跳ねらせた。

「ななななに?ティーラ。なんで怒ってん、の?」

(ってか、この子こんなにしゃべるんだ!?)とディートは思った。

「だって変なんだもん。なんか気になるし!」

 何故怒っているかは言葉からではわからなかったが、ティーラが怒っている事に内心狼狽する。なんで?俺が悪いのか?え?たしかに、ちょっと凹んでた。ベルは家族感覚だから、自分が怒ってようが凹んでようが、気も遣わないしむこうも干渉してこない。

 そうか、他人と時間を共にしているから、気分をありのままに表現していてはいけないのだ。

 そう考えてると、ティーラが急に素っ頓狂な事を言った。

「やっぱ・・・コイビトとケンカすると辛いよね・・・。」

 ディートは耳を疑う。

「へ?」

「ため息いっぱいでるのって、コイだからなんでしょ?ダルグさんが言ってた。」

 頭の整理が出来てないままディートが何か言おうとしたが、ティーラがなおも続けていった。

「ベルに早く謝ったほうがいいよ!」

「はひ?」

「ちゃんと謝れば、解ってくれるよ!コイビトなんだから大事にしないと!」

 力説するティーラの話の影に、ダルグの変な入れ知恵を垣間見たが、

「ちょっ!ちょっとまて。誰と誰が、恋人だって?」

「え?ふたりは、そうじゃないの?」

 キョトンとして、ティーラは答える。

「もしかして、そう思ってたのか?」

 首を縦でも横でもない斜めに頷くティーラ。

「ええと~。違うから!そんなワケねないから!」

「どうして?違うの?」

「いや、ベルは家族なんだ。ねーちゃんみたいなものでっ!ってなんで俺が、あんな神経図太くて策略化で我が儘で・・・」

 ティーラはディートの話を熱心に聞いている。が、視線がだんだん上の方にずれていく。

「変態入ってて、ケチで、見栄っ張りで性格ブスで・・・」

 ティーラの顔は何故か気の毒そうに萎れていって。

「何年も生きてるおばば精霊なんかとコイビトにならなきゃいけないんだよ。俺だって選ぶ権利はあるぞ!だから違うの!って、わかった?ティーラ?顔、どした?」

「う・・・うしろ・・・・・。」

 ティーラが指さした自分の後ろには、

「ひっ!ベル!・・・・ベル・・・??」

 彼女はいつも通りの民族ドレス。金から赤のグラデーションの髪。耳に光る大きな金色のピアス。すべていつも通り・・・だが・・。

 逆三角形のようなつり上がった目。燃えるような、いや、燃えたぎっている真っ赤な瞳。額のくっきりとした青筋。

 いつもと明らかに様子が違う。

「あ・・・・あのぉ・・・・今の話・・聞いてました?」

(人が、言い過ぎたと思って反省して、心機一転な気持ちでこっちに来たと思ったら、おのれはなんてことゆってんのよぉぉ!!!)という、怒りのオーラをディートはぴりぴりと感じながら、ディートは弁解する。

「悪かったっ!冗談だよ!ホント!マジ!」

 ディートの問いかけに答えず、静かに言った。

「ねぇディート?回し蹴りと、怒りの鉄拳と頭突きと炎で焼かれるのと水攻めにされるのと、女装で街歩くの、どれがいい?なんて言わないわ。ひとつだけまけてあげる。選びなさい!」

「ひとっ!!と、どっどれも嫌だ!ごめんって!まじまじ!そんなんで怒らないよね!冗談だもん。ベルっ!」

 青ざめた顔で必死であやまるが、ベルは極上の笑みを浮かべて言った。

「んふふ~♪・・・・許さない!!!」

 握った拳を、ディートめがけて振り上げて、


「・・・・っ!!」

 ガシャン!と窓ガラスが割れ、何かが投げ込まれる。

「手榴弾っ!!」

 ベルが叫ぶと、

 ドォンッ!!

 という音と共に、瓦礫と爆煙が身体を襲う。

「ちょっ!おま!・・・ゲホッ!!」

 簡素にできていた宿屋の二階が半壊した。

「げほっ!ベル!いくら腹立ったからって、爆発なないだろ!」

「アホ!ンな事するわけないやろ!!」

(やべぇ・・・本性が・・・)

 ベルの罵声に内心焦るがそれどころでは無かった。次の一言で、その焦りが本気の冷や汗に変わる。

「冗談はおいといて!これは誰かの攻撃よ!手榴弾なげられたわ!ティーラがいない!」

 と言ってベルが呪文を唱えると、煙はたちまち消えた。ガラスや木などの破片が飛び散っている。今や過剰に広くなった窓から下を見渡すと、

 ティーラと、もう一人・・・。

「あいつか!」


 空から霧のような雨がしとしと降る町。

 さっきまで他愛のない時間が流れていたのに。ほらね。すぐにそんなモノ壊れるんだ。安寧なんてない。

 爆発と共に誰かに引っ張られた。無我夢中でその手から逃れると転んでしまったため、ベルがくれた服はドロドロだ。体にべったり張り付いて気持ちが悪い。同じように、顔に掛かる髪も不快でしかたがない。

「窓から見えてたが、かなりのべっぴんさんだな?こりゃ。」

 銃口が真っ直ぐ自分に向いている。殺されることはない。でも撃つ気はあるだろう。

「動くなよ。女。大人しくしていれば何もしない。殺しはしないんだからな。」

 男が言う。その言葉に従わず立ち上がって逃げる。

「くっ!」

「こいつっ!!」

 銃声が静かな町に響いた!

「っぁ!」

「動くなと言っただろう。傷を付ければ報酬価格が減るかもしれんからなぁ」

 男は起きあがろうとするティーラに言う。

「っつ・・・・。」

 左肩に激痛が走る。血が流れる。紅い血が水たまりにぽたぽた落ちた。

  こんな風に水に流れて薄まって溶けてしまえばいいのに。

 只の一瞬だが、こんな状況なのに物思いにふけっていた。

「青い髪の少女。何のために手配されたかはしんねぇが。金額の割には簡単すぎる仕事だったな。金持ったやつの奴隷か?妾か?額半端ねぇぞ?おい。」

 男は楽しそうにつぶやいた。どうやら賞金稼ぎの類だろう。『獲物』の彼女を連れて行こうとロープを取り出し、細い腕を掴んだ。

「やめろっ!」

 声を怒らせたディートが、賞金稼ぎの後ろに立っている。

「ティーラ!無事か!?」

 その問いかけには答えなかった。無事と言うのも億劫で、タスケテという気力もさらさらない。ただディートがどんな行動に出るのか、ぼんやりと見ていた。

「それ以上その子に触るな!手を離せ!!」

「囲ってた奴らか?わりいな。遊んでるとこ邪魔してよォ。」

 ディートに向かって冷たく言い放つ賞金稼ぎは、短い茶髪の男だ。ディートよりも筋肉質で一回り大きい。すこし派手な模様のスカーフが、モノトーンの旅装束にアクセントになっていて目に鬱陶しい。

「手榴弾で倒れないって事は、術が使えるのか?おお怖え。お前も見たところ賞金稼ぎのようだが、まだ若いんだしほかの仕事でがんばれよ~?この業界では横取りは当たり前だ。金の良い仕事はなおさら、な。この獲物はオレがもらった。」

 賞金稼ぎが誇らしげに嘲笑う。

「『獲物』だと?」

 人間を物のように言い扱う人間。こうゆう奴を見ると虫唾が走る。

 ディートは静かに剣を抜き放つ。だがティーラが一度見た『パーソビュリティ』というクリスタルの剣じゃない。右足に固定された鞘の中に納められている片手剣をそのまま右手で、束を逆手に持って抜き、構えた。

「・・・腹が立った。」

「お~お。怒らせちまったよ。」

 さして危機感のない声で賞金稼ぎが言う。

「まあまあ。そう怒りなさんな。じゃあこうしよう!彼女を売り渡す賞金。少し分けてやるよ?まあ、お前の獲物を横取りしたのがわりぃわな。あんな無防備に獲物ぶら下げてりゃ、横取りされる可能性があるって覚えときな、若いの。」

「・・・・。」

 ディートは剣を構えたままなにも答えない。

「1割でもちょっとは遊んで暮らせるぞ?同業者なんだし、血は流さねーよーにしよーぜ、お互い。」

「だまれ。」

 ディートの輪郭が一瞬、陽炎の様に揺らめいた。次に何か、重い物が落ちる音がした。

 賞金稼ぎが目を見開くと、外套をなびかせたディートの元へ、獲物の少女は一瞬で引き戻されていた。

 ティーラも何がなんだか解らず、只一瞬でいつの間にかディートに腕を捕まれていた。

「・・・いつの間に!」

 驚愕の顔でディートを見る賞金稼ぎ。

「それより、自分の心配しろよ。腕を斬り落としたからな。」

 ディートは静かに剣を鞘に収めた。

「!!」

 銃を持った腕があった。地面に自分の腕。さっきまでくっついていたはずのものが、血まみれで・・・。

「うわあぁぁっ!!!」

「・・・っ!」

 男が醜く悲鳴をあげ、ティーラがディートの側で目をそらす。

「逃げるぞ!」

 ディートはティーラを促して、ベルが手招きしている裏路地の方へ走る。

 賞金稼ぎとの距離も十分開きベルとも合流する。いつの間にかダルグも側にいた。

「放して!」

 逃げるときに掴まれたディートの手を、彼女は強く引き離した。

「ティーラ?」

「ひどいっ!どうしてあんな事を!?」

 怯えた目でディート達を睨む。逃げるためとはいえ、腕を斬り落とさなくてもいいはずだ。

「非道い?」

 ディートがティーラを正面から見つめて言った。

「あれぐらいされてもおかしくないんじゃないか?ティーラが撃たれたんだぞ。」

 とても静かで低い声だった。初めて聞いた。まだ幼さも感じる高いトーンで柔らかく話すいつもの声ではなかった。真剣なディートの瞳は底が見えないほどの深い蒼だった。

 ティーラはその眼に反抗する様に睨んだ。何故かわからないが、拳に力が入り、歯を食いしばってる自分が居る。

「・・ッ・・・!!」

 ティーラは必死で罵倒する言葉を探して言いかけた時、

「ティーラ!大丈夫。おちついて。ほら。」

 睨み合う二人に、ベルが割り込んできて、ティーラの手をそっと握る。

「あれは魔法よ。ほら見て!」

 ベルが興奮したティーラの肩を撫でながら、物陰から、さっき居た場所にまだ立ちつくしている賞金稼ぎを指さした。遠目だが腕はちゃんと付いているし、血がながれた形跡もない。

「え!腕が・・・」

「さっきのあれは、幻覚なのよ。」

「な~んだ。幻覚解く前に破られたか。結構腕利きらしいなぁ~」

 茶化した様に微笑みながらディートが言うと、ベルが説明した。

「幻覚魔法は意志の強さがあれば、すぐ破られる魔法なのよ。幻覚なんだから痛みも感じないわ。だけど人は痛いと思ってしまう。それは、痛さを知ってるから。腕が落ちたらとっても痛いだろう、と言う思いこみの様なものが、幻覚でも痛みを引き起こしてしまうのよ。」

「あんな奴の為に俺の剣汚したくないもん。腹立つ。」

 ディートは半分冗談で半分本当に怒っているようだった。

「まだまだ幻覚魔法の精度は甘いけどね~。まじめに修行もしなさいよ?」

「ちゃんとしてるだろ~。たまに。」

 ディートとベルが、にこやかに笑いあっている中、ティーラの頭の中は混乱していた。少し地面が揺れているみたいに感じる。

「げん・・・かく?・・・今のが?」

 幻覚でも体感したものにとっては、気がつくまでその痛みにとらわれ続ける、の?

(だったら・・・あたし・・は??)

「どうしたの?【ディートが恐かった】の?」

 ベルがティーラを気遣う。

 ベルが何気なく言った言葉は的を射ていた。

 恐かった。本気で真剣に自分の事を・・・。

 ディートを心配するふりをして、退屈しのぎに怒ってみただけの、自分の浅はかな心とは全然違う。

「それより早く逃げない?宿も半壊してるし。人が来ないウチにサ。」

 ダルグが提案する。彼の言う通り宿の弁償などさせられるのは冗談ではない。長居は無用。

「確かにそうね。ここからだと岬の神殿まで半日くらいよ。さっさと行きましょう!」

 四人は雨の中、岬の方向へと進路を向けた。



 しとしとと、雨が落ちる様を見ながらたたずむ彼に、何かが囁く。

『戦わずして・・・負けたか。』

 嘲りを含んだ声が脳裏に入る。

「誰だ!!」

 彼は今にも噛みつきそうな勢いで振り返る。だが何も、誰もいない。

『我が見えぬか?見えぬと“不安”か・・・。』

 また声がした。頭にこびりつくような、幾重にも重なったような不快な声。

「くそっ!ンだよ!幻覚の次は幻聴かよ!」

 イライラしながら、滴のついた髪を掻きむしり、辺りを見回す。すると、黒い靄のようなものが浮いている。

「っち。まだ幻覚の続きかってんだよ!」

 なぎ払うように靄をかき消す。が、それは消えずにこう言った。

『“怒り”があるか?あの男に負けたことが・・・』

 靄は炎の様に揺らめく。黒く、妖しく。

『“焦り”があるのか?金が手に入らぬ事に。』

「んだよ!コレっ!!」

『負の感情は素直で純粋だ。真っ直ぐに我に伝わってくる。』

 黒い炎は大きくなり、人の形のように変化する。

『“恐怖”があるか?得体の知れないこの我に・・・。』

 “恐怖”と言われ、自分でも気が付かないほど深くにあった黒いものが、中から吹き上げるように彼を襲う。

 冷たい汗が頬を伝う。腕が、指先が小刻みに震動する。鼓動が早く、強く鳴る。声が出ない。何故だ?これが恐怖?怖さ?味わったことがないほど大きな恐怖。

 黒い炎はそんな彼を包み込む。目が見えない。それは恐怖の所為?黒炎の所為?

『そう・・・もっと・・・もっと恐怖しろ!増幅しろ!!それが我らに力を与える。心地よい悲鳴。鼓動。』

 苦しい。逃げたい。もがいてもあがいても闇に包まれる自分の身体、もう見えない。苦い闇の中。むき出しの自分の今までの出来事が通りすぎる。

 痛い痛い痛い・・・身体じゃない。心が。心臓が圧迫される。

「ぐっ・・・ぐわぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ・・・。」

 断末魔の悲鳴。消えゆく意識の中、ポツリと思う。死ぬのかな・・・と。

『死ぬ・・・?死ぬほうがマシかも知れぬな・・・。』

 大きな大きな黒い炎は、嘲りを含んだ声で言った。

 なんだか気持ちよくなってきた。白く・・・白く。頭も身体もシロク・・・。


 息を切らしながら四人はひたすら雨の森を進む。

「この森を半日も歩けば岬へ着くわ。」

 先頭を歩くベルが髪に含まれた雨を絞りながら言う。

「ベル!ティーラの傷の手当てを・・・」

 ティーラの肩を抱きながら走る。まだかすかだが傷口から血が流れている。傷を見るには、弾丸がかすっただけだと思うが応急処置はしたい。そのことはベルも解ってはいる。だが!

「待って!!なにか、潜んでいるわ。四人・・・否、四体。待ち伏せだわ!」

「また追っ手か!?」

 ディートが舌打ちしながら言う。敵が潜んでいるなら、立ち止まってはいられない。

「何者なんだ?さっきの賞金稼ぎの仲間か?複数犯には見えなかったけどな。別のヤツか?」

「それは・・・」

 ベルが口ごもり、何故かチラリとダルグの方を見る。

「あたしは平気!」

 左肩を押さえながらティーラは言うが、見ている方は痛々しい。

「ベル、応急処置だけでも・・・っ!!!」

 ディートは何かを感じ、ティーラを抱えて後方に跳ぶ。

「なんだ!!」

 木の幹と自分でティーラを挟み、かばうように剣を抜く。いきなり目の前に現れた黒いフードをかぶった機械人形を見据えて。

 人間の形を象っているが、両の手には兵器がついている。緑掛かった機械と宝石の混じった眼のようなものが着いている、のっぺらとした凹凸のない顔が、フードの隙間から光って見えた。

「機械人形が登場だってさ。ディートくん。知り合い?」

 ダルグがふざけながら言う。

「この状況でよくそんなこと言えるな!わかんねーよ!」

「こういうのと戦ったことはあるのかい?」

「何回かは、あるけど、」

 ディートが過去に戦ったことがある機械人形は、定形の言葉以外喋らないし、感情も痛覚もない。寡黙な機械の暗殺兵器。人とは違う特殊な動きと計算でこちらを攻撃してくる。

「ベル!他の三体はどこだ!」

「今模索してるわ!まって!・・・あれ??なんか・・・感覚が狂う。」

 頭を押さえながら気配をさぐる・・・焦る。

「ベルちゃん!!」

 ダルグの声に慌てて前方へ、崩れるように避ける。

 二体目の機械人形。

 三体目はダルグの側へ。

「瞬発性に突起した型だね。高度な魔法は使えない。動きは読みやすいよ。」

 ダルグは冷静に分析した。

「戦うしかないようね。炎よ!」

 ベルが戦闘態勢に入る。

「ダルグ!ベル!そっちは任せた!」

「わかったわ!」

「はいよ~」

 それぞれの返事が返ってくる。あっちは大丈夫だろう。二人とも弱くはない。だが自分は、ティーラを守りながらとなると

『目標“ティアルトーラ”確認。捕縛。実行。』

 電子音の様な声と共に、機械人形の腕が、ディートの後ろのティーラにのびる。それを剣で打ち返す。これもティーラ狙いか。さっきの賞金稼ぎといい!

 ティーラはディートの背中を見ながら、戦いにくそうだと悟る。足手まといになんかなりたくない。

「あたしは守らなくていい!あいつと戦って!」

「そんなことできるわけないだろ!」

「大丈夫!機械相手なら、あたしも何とかなるから!」

 そう言って、ディートの後ろから走り去って森に消える。

「!!な!なんとかなるって!?なんでだよ!!くっ!」

 追いかけようとするのを、機械人形が鞭のようなコードで攻撃を仕掛け邪魔をする。後方へ飛びかわす。こいつをさっさと倒し、ティーラを追いかけるしかなさそうだ。

 ディートは剣を脚の鞘に戻し、ガーネットが着いた左手の籠手から愛剣をすらりと出し構える。パーソビュリティは細く煌めいた。

 ティーラが心配だ。最短最速に突きで一撃でしとめる。ディートは険しく目を細めた。 機械人形の急所は動力の源を破壊すればいい。それさえ壊せばエネルギー供給が失われ止まるはずだ。だが急所が人間で言う心臓の位置や、頭部などにある訳ではない。それに、そんなに大きい物でもないはずだ。

 人形の腕が刃物の様になってディートを攻撃した。ギリギリの所で回避しながら、急所を見極めるため目と第六感で人形を見つめると、感覚が少しおかしいと気付く。ベルが機械人形の気配を探れなかったことも変だ。ベルは熟練した魔法使いと同等以上の力を持っているのに、気が読めないのはおかしすぎる。

 感覚が狂っている気がする。見極められない。集中すればするほど雑念が入ってくるような・・・。そんな術を掛けられているのか?

 ディートは焦りで悪態を付いた。

 そうか。此処はもう、【迷いの森】。


 ティーラは探していた。もう一体を。

 ベルは四体と言った。後一体どこかに居るはずだ。重荷や足手まといにはなりたくないし、自分が無力な所為で人が傷つくのは嫌だ。

 目を閉じて集中する。この辺り全体に術が掛かっている。

 二つ。

 一つは遙か昔から掛けられている、広く浅い迷いの魔法。自分には障害にはならない。

 もう一つは、感覚を麻痺させる・・・術?魔法とは少し違うタイプの力だ。詳しくはわからないけれど・・・ダルグさんの気を、何故か感じる。

 魔の力では説けない。だったら他の力で干渉すればいい。魔力以外にも力はある。やり方は解っている。呪文スペルは・・・

「 ・・・・ !!!」

 ティーラは膝を折って自分の手を見る。頭がクラクラする。スペルが浮かばない。どうして?知っているはずなのに出てこない!記憶にない・・・でも、知っているのに・・・。ありとあらゆる戦術。魔法マジカル神力セレスト法力セインダー霊力スピリト妖術ウィーズ精神力ファイアリ・・・ありとあらゆる力の使い方が・・・・解らない!だけど、解らないはずない。あたしはそういうものなのに!

 力が無理なら武器で・・・武器・・・自分の武器。何!?

 今瞬時に考えたことも、瞬時に忘れる。自分は何をしようとしたの?

 掻き消える知識、乱される思考。頭が割れる様に混ざる。

 解らない・・・知っているはずなのに・・・何も解らない!!

「頭が・・・・ぁ・・・いたいっ!」

 激しい頭痛にうずくまるティーラに突如、音のような声が流れた。

『目標確認。捕縛。』

 音に振り向くと探していた物が居た。腕を、俊速の早さで捕らえようと襲ってくる。それがゆっくりと見える。今!!動けば回避できる。瞬時に回り込み裏を掻いた攻撃を仕掛ける事も出来る・・・否・・・出来たの?そんなこと・・・あたしに出来たっけ・・・??だって身体。ピクリとも動かないのに・・・。

「ぃ・・いやぁぁあっ!!!」

 悲鳴をあげることしか出来ない・・・何故?


「!!」

 遠くから響いてきたティーラの悲鳴がきっかけで、ディートは突きを出す。人形の首に。

 ギギッ!

 堅い物がこすれる様な音がして飛び出た配線が火花を散らす。

「ティーラっ!!」

 しとめたかどうかも確かめずに、悲鳴が聞こえた方に走る。

「・・・ッ・・・。」

 青い髪を地面に流して倒れてるティーラ。細い足首に、両腕に、くびれた胴に、どこから生えているのかわからない触覚とも言える黒いコードを巻かれて倒れている。無機質な(センサー)が少女を縛る。

 カッと熱いものが込みあがり、その衝動に突き動かされて剣を振るう。

「止まりやがれっ!!」

 機械の腕を断ち切り、薙ぎ払った刀身で機械人形を吹き飛ばす。その速さは機械人形より早く、センサーが反応し、行動に移すように考える間さえ与えない刹那の間。

 コードが切れて、ティーラを縛る配線が緩まる。

「ティーラ!無事か?」

「・・・う・・・」

 ディートの肩越しに見た機械人形は、腕の部分と胴が、ひねったように曲がっている。停止したのだろうか?

 ピ、とわずかな電子音をティーラは聞いた。

 ゾワリ、とディートの背筋が訳もなく凍った。

「逃げてッ!!!!」

 ティーラが狂ったように叫ぶ。

 何故?

そうも思ったが、本能のどこかが危険を訴える。

 瞬時に身体が反応する。だが間に合うかどうかは解らなかった。

自爆装置起動

 爆音と一瞬で膨れあがった煙が、森の木々を揺らし地鳴りを起こした!!


「ディート!!ティーラ!!どこっ!?」

 爆発で出来た炎で木が燃えている。爆煙が辺りにこもっていて晴れない。

 ダルグとベルはそれぞれ人形を倒して、爆発の起こった所に駆け込んだ。

 木々の焼けた匂いと残った熱気で、ディートとティーラの姿がみえず、ベルの心がざわめく。無事だろうか・・・。

 ダルグが長い前髪をかき上げながら、懐から符紙を出す。

「『水浸霊術』。」

 呟く。すると雨の水とは別に、森全体に大粒の水が降り注ぐ。

「火事になったら大変だからねぇ~・・・それと・・・『流風妖糸』!」

 さわやかな風が流れ、煙を吹き飛ばす。

「・・・霊素が編み込まれた術。どちらも高等符術よ。やっぱり、すごいわね・・・」

 ベルが驚愕の瞳をダルグに向ける。

「そうだよ。気を編んだ術だから、傷んだ木々もすぐ癒えるように、ね?」

 笑みを返すダルグに嫌味はなかった。いつものくだらないやり取りのように自慢気に言ってもいいくらいの高等術だ。

「そんなことよりディート達をさ~。」

 ダルグが真っずぐ指さす方をベルは見る、そこに倒れた人影があった。

「ディート!」

 ベルが少しまだ煙の残る方へ駆け寄り見回すと、すぐそこにディートが俯せに倒れていた。

「ディート!大丈夫なの!?」

「うっ・・・ベル、」

 なんとか意識のあるディート。身体を起こすのを手伝いながらベルが顔をのぞき込む。

「大丈夫。これのお陰だ。」

 外套の端っこをヒラヒラさせる。ベルの『対熱風の魔法』が掛けられているこのマントのおかげで、なんとか爆発から守られたらしい。

「アンタの持ち物にいろんな防護術かけてンだから。当然よね。」

 そう言いながらもベルは心からホッとした。ティーラも無事なようだ。ディートの身体の下で気を失っている。咄嗟に庇っていたため、身体を打ち付けてしまったのかもしれないが、外傷はない。

「ティーラ・・・」

 ディートがその細い身体を起こしてやり、頬を軽く叩く。

「・・・・ぅ・・・。」

「よかった・・。」

「痛くないか?大丈夫か?」

 ディートもベルも安堵の息を吐く。

「・・・だいじょ、ぶ・・・。」

 ぼんやりとした頭を左右に振りながらティーラが言う。

「よかった。もう急にどっかいくなよ・・・そばにいてくれなきゃ・・・」

「・・・・」

 ティーラは押し黙る。

「ちょ、ディート君そんな恥ずかしい事よく言えるね。ティーラちゃんこまってんじゃんかー。」

 ダルグがにやついて突っ込む。

「え?俺へんなこといった?あああ!ちょ!そういう意味じゃなくて、危ないとき、近くに居なきゃ、な!そういうやつで言ったの!俺わ!」

 ディートが自分の行った言葉の別の意味にやっと気づき、あわてて弁解する。

「そ、そういや、なんか、いやな感じだよな!さっきの機会人形」

 ベルが目を細めながら考える。

「そうね・・・自爆だなんて捨て身。きっと機械人形を捨て駒にする指揮者が潜んでいる、そう考えられるわ。」

「でもさぁー疲れたし。洞窟あたりで一休みしていかない?」

 ダルグが提案した休息を、ディートは否定した。

「いや、先を急ごう。追っ手がいる可能性があるなら休んでられない。」

「その台詞は無傷の場合に言ってくれるかい?ディート君。君の怪我、ティーラちゃんより酷いんじゃない?血の臭いさせてさ。」

「!!」

 ベルとティーラがディートの方に振り返る。

「なんですって?あんた怪我してたの!?早く言いなさい!」

 ダルグの言葉に苛立ちを感じる。早く岬へ行くために隠し通すつもりだった。ダルグの言うとおり、右肩を負傷していた。聞き腕の傷は剣を持つ者には不利になる。ディートは苦々しく言った。

「わかったよ・・・ティーラの傷の手当てもしたいし。」

 雨は、いよいよ土砂降りになってきた。


 昔、海中だったといわれているこの土地は、森と岩肌が幻想的なシルエットを織りなす。大小いろいろな岩や洞窟などが影となって、暗くなると不気味に見える。

 四人は手頃な洞窟を見つけて中に入った。雨が岩を叩く爆音が洞窟の中まで響く。

「ランプを付けるわね。このあたりで休めるかしら。」

 ベルが明かりを灯す。

 腰を落ち着ける前にまず、ティーラの左肩の傷をベルが手早くすませた。問題は特にないらしい。軽く治癒で治った、とベルは告げた。

 それよりも大丈夫じゃないのは、ディートだ。外套と上着を脱いだディートの右上腕を灯りで照らす。

「うげ。刺さってるじゃないコレ!このままじゃ治癒かけらんないわ」

「ティーラ守るに必死だったんだよ。」

「ま、ティーラに怪我させてないから、ヨシとしましょう。」

「だろ?いてて・・・」

 爆発の際に飛び散った機械人形の破片が刺さっている。ベルが手際よく処置していく様子をティーラは眺める。

 ディートの身体はしなやかだ。服を着ていたら華奢に見える。きれいな瞳とあどけない表情を持つので男性としては頼りなくさえ見えるのに、裸になった彼は鍛えて引き締まった筋肉がとても力強く、男の人だとちゃんと認識出来る。

 男の人。自分とは違う身体の造り。よく考えれば肩幅だって自分の倍はあるのだ。

「ティーラ、こんなの見ててだいじょうぶ?い、いててっ」

 立ち上がり何も言わずその場を去るティーラ。

「ティーラ、気に病んでるのかな?」

「さあ。」

 ベルが包帯を巻きながら答える。

 ディートはちょっとだけ、シュンと肩を落とす。

「・・・。」

 洞窟の入り口にふらりと来たティーラ。

「あれ?ティーラちゃん、傷大丈夫だった、よね、もちろん。」

 ダルグの引っかかるような言葉遣いにティーラはむっとなりつつも、声の方に向いた。

「ねーちょっと、そこの袋とってくんない?」

 ダルグは洞窟の外のすぐ横にある出っ張った高い岩の上でびしょぬれになっていた。ティーラはダルグの指さす足下を見ると、小さな革袋があった。手に取るとジャラリ、と音がした。石のような感触。

「雨に濡れるから、そこから投げてくれればいいよ~」

 そう言うから、雨が入ってこないギリギリの所から投げる。ティーラの握力じゃ距離が足りない。弧を描いて高さに届かないまま落ちるだろう袋は、ふわりと浮いてダルグの手に入った。

「さんきゅー。」

 浮かすことが出来るなら、自分でとればいいのにと、思った。

「満月だから、術加減がむずかしいなぁ~。」

「!」

 ダルグがなにげなくつぶやき放った言葉に、ティーラの眉がつり上がった。

「・・・あなたは、何をいってるんですか?」

「結界張ってるんだよ。休憩の間、見つからないようにね。」

 雨の音で聞き間違えたのか、何をやっているのか教えてくれたが、ティーラからすれば見当違いの言葉に苛立ちを感じる。

 答えながら上の方でなにやら作業をしている。少し遠くて見えない。睨んでいる青い瞳も、この距離じゃ見えにくいだろう。ティーラはため息を飲み込んでうつむき、また洞窟の中に入る。

 ふと感じる頭の重さ。さっきから身体を動かすのが苦痛だ。

 きぶんがわるい・・・・

 まんげつ・・・・そうか、今日は・・・・。

「お・・居た居た。ティーラ」

 ディートが洞窟の奥から名を呼ぶ

「・・・傷・・・」

「ん?この通り。俺は平気。」

 丁寧に包帯が巻かれている右腕をディートは見せた。

「平気じゃないわよ!利き腕なんか怪我して!間抜けもいいトコだわ!」

 背後からベルが小突く。

「どうして包帯してる、の?治さないの?」

 ティーラは指摘した。いくらベルが治癒専門ではないといえ、傷跡まで綺麗に治す事は十分可能な程度なはずだ。

「ああ、まだ戦闘になるかもしれないから力の温存、だな。スタミナないからな」

「アンタが強くなってくれればいいだけの話なんだけど?アンタから力もらってるんだし?ってゆうかいい加減治癒術使えるようになってよ!」

 ベルはディートが治癒術練習中なのを明かした。

「魔法使える素質はあるのにイマイチどんくさいのよね!」

「むずかしいんだよっ!理論とか、原理とか、うーってなるじゃん。」

「もう。おばかに教えるのはこっちだだって難しいのよ。」

 二人は相変わらずのやり取りをした後、ベルがティーラに優しく気遣った。

「何はともあれ・・・夜が明けたらちゃんと岬の神殿へ送り届けてあげるから。」

 笑顔と共にベルが言う。何故こんなに明るいのだろう。こんなに手間をかけているのは自分の所為なのに、とティーラは思う。

「海まだかなー。泳ぎてぇ~。」

「クラゲに刺されてピーピーなくわよ。ダルグさんは刺されないのにアンタばっかり・・・」

「子供の頃の話はやめてくれ!」

「アンタは昔っから弱虫の泣き虫の・・・・」

 ベルはぶつぶつ言いながら洞窟の外へ向かう。結界を張る手伝いでもしに行くのだろう。

「話盛るなよ。泣いたことねーし!余計なかっこわるい話するならダルグとやってくれ」

 とディートはベルの背中に小声で呟いた。

 洞窟の中は、ティーラとディート二人っきりになった。

 立ったままなので、ディートはその辺に腰をおろす。ティーラはなにも言わないで黙ったままだ。さっきから表情がない・・・と言うか顔色が悪い。宿屋が襲われるまでは、少しだが表情に変化があったし、話に好奇心の目を向けていたりしていたが、また無表情に戻ってしまった。なんとか興味を引きたくて話し出す。

「この辺りってな、昔すごく荒れた海だったんだって。」

 独り言になりそうな勢いだが、ティーラに向けて話しかける。ディートの思惑通り、興味を示したのか少しこっちを向いてくれる。

「海の主が怒ってて、人が住めるような場所じゃ無かった。岬に竜がやって来て、海を鎮めたんだと。その竜が眠ってる場所が神殿なんだって。」

 ティーラはディートの前にゆっくりと腰をおろし、膝を抱える。

「だけど、その神殿にはどうしても辿り着けず、さっきの森で迷ってしまって、トレジャーハンターや考古学者が、何人も遭難してるらしい。」

「だから・・・だれも依頼を受けてくれなかったんだ・・・。」

 呟く。そして疑問が生まれる。そんなことを知ってるのに、何故依頼を受けたんだろう。

「知って、たの?」

「ああ、実はちょっと知ってた。」

「だったらどして・・・あたしの依頼を・・・?」

「ん?まあ、何とかなるかなーって。ウチにはベルもいるし、まあ、勢いで。」

 苦笑しながら言う。

「実際何とか森入れたし。神殿までもうちょっと、あ・・・それより、なんでそんな所に行きたいだ?」

「・・・・・。」

 問いには答えないでいるとディートは謝った。

「言いたくないなら、いいけど」

「あ・・・えと・・・。」

 ティーラは濡れた髪を耳にかき上げながら理由を言おうとした。何と言えばいいか解らないし、言いたくない部分もある。でも、もし言えば何と言われるんだろう。言ってみたいという気持ちもあって、感情が綯い交ぜになって、結局、沈黙してしまった。

「なあ・・・」

「え?」

 ディートが頭をポリポリ掻きながら、照れくさそうに言う。

「もしかして・・・海の精霊??」

「ぇ・・え?な・・んで?」

「だって。髪。青いじゃん。」

 雨に濡れて青が一層強い髪を指す。

「あ・・・これは・・・えと・・・。」

 何と答えればいいのか解らない。自分でも解らないからだ。こんな髪の色の意味が。

 一般では出るはずのない色味だ。純粋な人間では決して。亜人種でも珍しい。海辺の種族ならあるかも知れないが、珍しいことには変わりない。

「えっと・・・海の色・・・じゃあないでしょ。」

 自分の髪を一房つまむ。

「そうだな。空の青だ。」

 躊躇いながら手を伸ばす。頬に近い髪を指で梳いて見る。指がするりと抜ける。美しい髪質。

「綺麗・・・だ。」

 素直な感想。だが、ティーラは喜ぶことなく俯く。

「キレイなんかじゃないよ・・・。その目の方がキレイ。」

 ティーラは彼の瞳を見つめる。そう、出会ったときからぼんやり思っていた。真っ直ぐな、突き抜かされそうな深い海の色。吸い込まれる。

「その目こそ、海の色だと、おもうよ・・・。」

 空と海の宝石のような瞳が交わる。無表情を守っていたティーラの顔がふっと、色を慈しむように緩んだ。

「・・・ッ!」

 ディートは身体を硬直させた。身体の深い場所の芯に、電流が走ったような感覚と、泣き叫び出したいような、すさまじい哀愁と、懐かしい安心感のような、すべてがない交ぜになった感じに襲われる。

 雨に濡れた身体は冷たい。だが芯が熱い。なんだろうこの感覚。

 胸が締め付けられて・・・

これは、なに?

「あらン★らぶらぶ♪」

「手が早いねーディート君☆どこ触ったの~教えて~」

 ベルとダルグがやってきて、それぞれからかう。

「さっ!触ってないし!(・・・髪しか)」

「またまたぁ~真っ赤に照れちゃって~。ってか、いい感じだねぇ~この洞窟。覚えてるか?」

 腰を下ろしながらダルグが言う。

「は?なにを?」

「オレたちの、秘密基地サ!」

「ああ。村の林の奥にあった洞窟かぁ。洞窟というか小さな穴だったけど。なんか、ガラクタとか持っていって夜遅くまであそんでたなぁ。」

「10歳くらいのとき、火遊びしてサ。」

「ベルと母さんに怒られて・・息ができなくなるでしょ!って・・・」

 ディートは言葉を止める。本当に懐かしい。子供の頃のこと。幼くて何も知らなかった。流されるまま考える事無く生きて。守られて。

「なつか、しいな・・・」

 自分が生きてることが誰かの犠牲の上に成り立っている事を知らずに。知らない事は罪なのに、無知と幼稚な自分。

 知らないことにしたい。何もかも。忘れたい。

 小さな孤島。小さな村。今は無き家。無惨な場所。

 ゆっくりと、速く過ぎ去った幸せ。壊れた。壊された。“あの時”に。

「ま・・・過去話はよそう。オレは楽しいことしか覚えてないが、ディートはそうじゃないみたいだしね。」

 軽いダルグの冷やかし。

「過去は大変だったけど、オレも君も。今生きてるしねぇ~。」

 説得力のない口調なのに、その言葉が救いに聞こえた。そうだ。大事なのは、悲しみを繰り返さないこと。傷はまだ癒えないけれど、今は助けてくれる人がいる。ダルグは生きていた。そして再会できた。相変わらずなヤツだけど楽しくて嬉しいんだ。

「・・・へくちゅっ!」

 可愛いクシャミがディートの思考を止める。

「やだ!濡れたまんまだったわ!大変!」

 ベルは、ティーラを洞窟の奥の方で着替えさせようと促し手を取る。

「!!ちょっと、熱あるんじゃない?」

 ティーラの額に手をあてる。

「やだわ。けっこう熱い。」

「へいき・・。」

「白い顔でンな事行っても説得力ないよ。ティーラちゃん。」

 ダルグが叱る。

「そうね、奥で着替えましょう。」

男達の目が届かないように奥へ歩き、ランプを岩肌に置く。

「さ、こっち来て。暖かくしましょ。」

 ティーラのワンピースのファスナーを下ろす。想像以上に肌が冷たい。

「大丈夫じゃないでしょ!これ!ちょっとこれかぶってて・・・代わりの服を持ってくるから」

 そう言ってから手渡したのは、ディートの外套だった。裸の上からそれを羽織り、靴を脱いで丸まる。

「いい、におい・・・。ね・・・むい・・・。」

 自分の肩を抱き、ギュッと目を瞑る。

「大丈夫?やっぱり、側にいてあげようか?」

 ベルがそっと問う。

「・・・いい・・から・・・・あたし、は・・・・。」

 平気な訳ない。少し息があがっている。風邪・・・もあるかもしれない。だけど今日は・・・月が・・・。

「やっぱり側にいるわ。」

「・・・・だめ・・・ひとりに・・・・・して・・・」

 ティーラの言葉を無視して、横に座り込む。彼女はもうなにも言わない。眠ったのかもしれないが、眉間にしわが寄るくらい顔をしかめていて、浅くて不安定な呼吸。肩が外套から少し出ている。自分が着ている短いショールを掛けてやる。

 まるで手のかかる子供が増えたみたい。そう思う自分自身もまだ大人だとは思えないけど。世話は掛かるし忙しいけど、なにか楽しさがある。つつけば拗ねるし叩けば怒る。それでも前を向いて進もうとする精神。さっきのディートの思考のような、過去を克服する力。『正』の精神。

 ティーラの青い髪をそっとなでる。特殊な力の抵抗感が手のひらに伝わってくる。

 彼女にも、『正』の精神を持って欲しい。前を見る力。問題を克服する強さ。目を閉じ、耳を塞ぐのではなにも解決しないことを知って欲しい。

 だが、彼女には只教えるだけでは理解できないだろう。暗い闇の底にいる彼女を、そう簡単に救えはしない。重く。暗く。冷たい。闇。

 だからこそ肌で感じて欲しい。光や暖かさ、そう言ったものを。そして、それらは人の中にある。私たちが一緒にいることをもっと感じて欲しい。

 だけど自分は知っている。この後起こる人の運命。誰かの絶望。未来が見えるわけではなくて予想だけれど。

「・・・リ・・ア・・・」

 今はもう居ない。仕えるべき人。否、大切な人の名。

 願いを託し消えていった彼女。その想いを叶える事。それが自分の使命。そして自分自身のためでもある。

 だから、自分が出来うる全てのことをしてあげたい。たとえこの身が滅ぼうとも。身体が無くなろうが、消滅しようが、道を失うであろう彼らの為に。いつでも足下を照らしてあげていたい。

 この心に強く燃え続ける炎で。

 だから願う。どうか、闇を見つめないで。壊れないで。

 きっとこの願いは叶わないだろう。だって今も聞こえてる。強く、悲しい悲鳴が・・・喉を裂くような苦しみの声が。

 だけど願う。だから願い続ける。


「ベルちゃん?」

 身体がビクリと震える。

「だ・・・ダルグ・・さん・・・ヤダ・・・私ったらうたた寝を・・・」

 ティーラを起こさないようにそっと立ち上がる。

「ディート君も仮眠しちゃってさぁ~。」

「そう、じゃあ、今のうちに精霊界に言って服とかとってこよっかなぁ。」

「行って来なよ。オレちゃんと二人のこと見ておくから。」

 結界もはってあるし、二人とも寝ている、大きな心配はいらないだろう。

「それに、時間的に、『発作』が始まる頃だよ。ティーラちゃんの側でいたら、消滅しちゃうよ?」

 意味深に微笑みながら、ダルグは言った。ベルはあきれながら溜息をついた。

「あなたは何でも知ってるのね。ホントに人間なの?」

「君が知ってるとおり☆ただ者じゃない人間です。くせ者?」

 ベルは鼻で笑った。彼にぴったり当てはまる表現だったから。

「ダルグさんってほんっと面白い人よねぇ。恋人にしたいわ。」

「愛人の席ならば大歓迎です☆」

「セカンドはイヤよ。」

 ベルは唇をとんがらせ、拗ねたふりをした。

 闘いと緊張状態のまっただ中で、こんな軽口を言い合えるのが嬉しかった。だから冗談は冗談で応えて、言葉遊びをしよう。

 でも、楽しい時間は長くは続かない。隣で眠っている彼女の気は、膨れつつあるから。

 切ない瞳で彼女を見て、振り切る様にベルは言った。

「・・・じゃあ行ってくるわ。」

「ゆっくりしてきていいよ。君だって、本職ほったらかしでしょ?」

「そんなことないわよ。私はコレがメインの仕事よ?」

「そうなの?その身体のメンテナンス、結構大変なんじゃあないの?」

 ベルが笑いながら眉根を寄せる。

「・・・・油断ならない男ね、ほんと。」

「あはは。ベルちゃんに褒められるの、ゾクゾクするなぁ~。まあ二人はオレに任せていってらっしゃいな。」

「行ってくるけど、私がいない間にティーラを持っていったりしない?」

「そんな卑怯なことはしないよ。するときは、ディートくんの前で、正々堂々、宣戦布告だよ☆」

 ダルグはにっこり笑ってベルが異世界へ行くのを見送る。

「まあ、人間で言う『第六感』。ちょっとだけ読みづらくしただけで右手を負傷するようじゃあ、まだまだだけどね。」



 誰かが泣いている。悲しんでいる。


そんな感覚だけで目を覚ます。

「ふあぁ・・。」

 ディートはあくびをして首をコキコキとならす。雨の音が静かになっている。あれから数時間はたったのか、真夜中は過ぎているだろう。洞窟の中はベルが炊いた何個かのランプの灯火で、ほんのり揺らめいている。人影はない。

 なんだろう。さっきから妙な感覚がする。自分じゃない何処かが苦しいような、自分の身体じゃなくて、だけどとても近いモノ。そんな場所が・・・痛い?という感覚に近いのだろうか?言葉には表しがたい。

 伸びをしながら立ち上がると、奥に気配があるのが感じ取れた。それに集中すると、妙な痛みが更に増した。

「・・・っ・・・」

 ふと聞こえた息づかい。ランプを照らしながら奥へ足を運ぶと、自分の外套をまとった青い髪がうずくまっていた。

「ティーラ?」

 側に寄り抱き起こす。ぐったりしていてその顔は苦悶に彩られている。

「・・ぅ・・・や・ぁ・・・。」

「ティーラ!?」

 強く呼んでみた。返事はなく苦しそうに悶えるだけだ。

 ただ事ではないような苦しみ方で、背中に冷や汗が流れる。頬をそっと包むと、高い温度と冷たい汗が感じ取れた。

「ティーラ!おい!しっかり!ティーラ!!」

「・・・・・・だ、れ?・・・・・ト?」

「よかった!」

 細い身体を力一杯抱きしめる。腕の中のティーラの身体は、反射的な警戒で強ばった。

「あ・・・ごめん・・つい・・・」

 そっと身体を放してあげるが、ティーラはディートに向かって倒れ込んできた。力の抜けきった身体が重くのしかかる。

「ティーラ??」

 それをそっと受け止める。

「恐い・・・・・・・恐い・・よ・・・。」

 うつむき肩を震わす。強い力でディートの上着を握っている。震えている身体。

「・・・・助けて・・・お願い・・・・あた・・しを・・・・。」

 消え入りそうな囁きにディートはゾっとした。熱にうなされた言葉が、とても哀しい。

 なぜ、何度もそんなコトを呟くのか、聞きたくても今の彼女の様子では問うことが出来なかった。

 そんなこと思わなくて良い。怖がらないで。泣かないで。

「大丈夫・・・だから泣かなくていいよ。」

 自身も確信もない。だけどそう言いたかった。

 その言葉を、夢と現の境目で聞いたティーラは、大丈夫なわけがないと思った。

 そう思っているのに、なぜ否定せずに安心してしまうのだろう。今まで感じたことがない温かい体温が伝わり、縛られていた身体の痛みが軽くなったような気さえする。

 ワームが自分に掛けた術。『口づけ』という接触の仕方は力が込めやすい。身体の芯まで確実に術がかかる。あの日の『口づけ』は、この日の苦痛を減らす為の術。今までも何度か掛けてもらったけど、ここまで軽くはならなかった。

 癒しの象徴とも詠われる風の精霊にも、癒やせない『呪』が自分には掛けられている。月の満ち欠けに支配されながら。

 そんな痛苦と圧力に押しつぶされそうな暗い海の底から、太陽が煌めき見守る波打ち際まで、温かい腕で引き上げてくれたのは誰?暖かい力ある水にたゆたい癒やされる感覚。繰り返す悪夢から、解放してくれたささやき声は何だろう?

「どう・・して・・?」

 この身体に、醜く付いた象徴の傷跡が薄れていく。

 自分が今、他人の男の腕の中にいることに気付いた。身体が酸欠で重たいため、腕から離れることが出来ないで居ると、彼の腕に力がこもり、優しくこう言った。

「大丈夫。こわくないよ。」

「・・・・・・。」

 苦痛とは違う、胸の痛さで吐息が漏れた。急に視界が滲んでくる。なに?この苦しさは?

彼に触れていると、心地よさと同時に、衝動の様な、衝撃の様な、暴れる前の様な疼きが深いところで込み上げそうになる。

 その両方で、よくわからなくなって頭がぼぉっとする。

 頭は働かないのに、身体が勝手にもっと触れていたくてディートに抱きつく。頬をすりよせる。

「ティー、ラ?」

 ディートはその反応にとまどいながらも、胸が締め付けられて彼女を包むように抱きしめる。

 何も考えず二人抱き合う。出会ったばかりの人物、違和感なく、こんなに無意識にぴったり抱き合っていることが不思議なほどだ。でも・・・。

 ティーラは少し冷めてきた頭で彼の腕の傷を見る。ディートが爆風から庇ってその所為で負った右上腕部の包帯。

 そして、守ることに真剣すぎて背筋が凍る様に怒る、深い蒼い瞳を思い出した。

 そうだ。忘れていた。

 暖かい水面に、墨を落とした様な真っ黒な不安がティーラを襲う。この腕の中で甘えている訳にはいかない。壊れてしまうんだ。自分の居場所はすべて。

 誰かを傷付けてしまう。自分の存在の所為で。だから甘えちゃいけない。頼っちゃいけない。助けを求めてはいけないんだ、絶対に!

 なのに、いつまでもこうしているわけにはいかないのに、抜け出せない快感。安らぎ。感じたことなかった。いろんな事。いろんな感情。初めての事ばかり。

「ずっと・・・こうしていたい・・・」

だなんて・・・自分は願ってはいけない。呟くと尚更、この願いが愚かだと感じた。

 これ以上願うことは罪だ。早く抜け出さないと罰が下る。

 だから、日が昇るまで。あとわずかな時間だけ・・・。

「お願い。もう少し。もう少しだから・・・許して・・・」

 心の中で強く願ってから、徐々に意識を飛ばす。安らぎに身を委ね、温もりに酔いしれる。只無心に求め合い、抱き合って、わずかな時を眠る。

 今は何もかも忘れさせて。これが逃避だと解っていても・・・。

 雨の音は次第に弱まり、洞窟内にも薄明るく光が入ってきた。

 ティーラはそれを期に、どうしようもなく甘えていたい感情に強く叱咤して、ディートが起きないように徐々に身体をはがす。外套の裾がディートの下敷きになっているのをゆっくり引き抜く。

 起きてないことを確認する。彼の目は閉じられ、小さな寝息を立てている。

 腕の包帯を見つめる。自分の所為で付けられた傷。

 そっと、触れた。

 そして、足音を殺して側から離れる。裸足なので無音に近い。入り口近くで外套を羽織りなおす。外からの風に布がはためく。

 空を見上げると東の空に大きな朝日。雨はもうやんでいる。窪んだ岩肌にたまった水が陽光を反射しで輝く絶景を作り出していた。その光に目を打たれ首をそらすと洞窟の中に目がいった。光が入らない闇。そして外は眩しいくらいの光。なのに、彼が眠ってる暗闇の方が光に見えた。一歩でも独りで歩き出せばもう戻れない。戻らない。だけど甘えているわけにいかない。彼が闇に消える。それだけはしたくないから。だから。

 一歩。洞窟の影から出る。それしか出来ないから離れる。そしてまた一歩・・・。

 最後にこんなに温かく接してくれたあなたへ。

ありがとう

 自分の耳にも届かないような小さな声で彼女は言う。

 そして青い光の尾をまき散らしながら外套一つで駈けてゆく。



 その儚い背中を見送りながらダルグも呟く。

絶望か、再生の。始まりの音がする・・・と。

 長い前髪をかき上げながら・・・。 

長く短く、この儚い人生を今振り返る。ゆっくりとかみしめるように。



 夢を見ていた気がする。母に抱かれたように安らぐ反面、半身を失ったような言い知れぬ喪失感。そんな暖かさと切ない夢に囚われて、目を覚ますことが出来なかった。ティーラが腕の中から去ったと感覚の何処かが告げていたのに・・・。

 ディートは虚ろになっている頭を振り払い立ち上がる。身体は少し衰弱している。

「誰も、いない・・・な。」

 その独り言のように洞窟には誰もいない。ベルはまだこっちの世界に帰ってきていないのだろう。近くにいる気配がしない。

 ダルグは・・・?

 それよりのティーラだ。きっと独りで神殿へ向かったのだ。

 何故急に?何故、独りで?そう思うと只、衝動に駆られた。無意識に、彼女を側に置いておきたいと感じた。

 ディートは走った。暗がりの洞窟を抜け出して、岩肌の斜面を颯爽と駆け上る。

 神殿だろう灯台のような白い塔の天辺が、葉の大きな木々の隙間から見える。もうそう遠くない。岩肌で木々が生えてない場所と、林になっている場所があり、神殿はまだもう一つ林を超えた先だ。夜は見えなかったが岩肌の下は崖で海が遙かに広がっている。潮の香りと海風が強く吹く。

「あっちー・・・」

 晴れ渡った空に、昨日の雨で残った水たまりを蒸発させている太陽。熱気で蒸し暑く、地面近くは陽炎で揺らめいている。そんな地熱を、足で蹴り上げる様に掻き分けてただ走る。

「ティーラ。なんで。なんで離れるんだよっ!」

 早く彼女に会わないと、何か取り返しが付かなくなりそうで。気が狂いそうで。

「あれ・・・?腕が痛くない。」

 ふと、腕の痛みが無いことに気付いた。そしてほんのり温かい。きっとティーラが治してくれたんだろう。何も根拠はないけどそう思う。だが確信はあった。なぜなら彼女は優しいから。だけど、自分で自分を責めて傷ついている。そんな一面を、青い瞳の奥から何度も感じ取った。だから、それを止めたいんだ!

 が、突如、大気が揺らめくものが見えた。

 陽炎のようだが、空気の歪みだけではなく空間がゆがんでいるような、その空間から黒い炎が現れた。目の錯覚かと思い瞬きをする。

「なんだ?」

 炎は徐々に大きくなる。いきなり背中が急激に冷え汗がつたった。感覚の何処かが警報を訴えている。

『貴様が精霊憑きの俗名ディートか。大層な柱名を持つが、覚醒前の小さき人間よ。』

 闇が話しかける。ディートを囲みながら。

「なッ!なんで俺の名?」

『我が主の欲する青い鳥。それに関わるものは消去させてもらう。』

 いつの間にか闇はリング状になってディートを囲っていた。ザワリと背筋が凍る。

「闇、がしゃべってるの、か?」

 ディートは得体の知れないモノに戸惑いながら、パーソビュリティを抜き闇を払おうと試みた。だが、自分の左手に着いている金細工の籠手をみて愕然とする。

「な!」

 相棒の心のような嬉々として赤く煌めく、魔除けのガーネットは其処にはなかった。

真っ黒い闇しかなかった。いやそもそも籠手なんかなかった。

 パーソビュリティ?しらないそんな剣。

 ベル?いないよ。家?帰るとこもない。

 目的?なんだった?友人?一人もいない。

 母さん?死んでしまった?恋人?奪われてしまった?妹?いたっけ?

 そもそもなんで生きてる?いらないだろ?

 いらないだろ俺。

 いらないいらない!いらないんだよ!だって俺は“あの時”!!!


『たやすい!たやすいぞ人間!こうも掌握が早いとあっけなさすぎるではないか!』

 闇が嘲笑った。

 それと似たような声で誰かが自分を責める。

 その誰かは、思い出したかった執着しているある人物のシルエットと同じ、銀色の光をまとって嘲笑うように問いかけた。


 復讐?誰に復讐するんだ?最愛の母と姉を失ったのが誰かの所為だと?人の所為にするつもりか?それとも、自分自身に復讐するつもりか?あの時、本当はドウダッタノカナ?


  「やめッ!やめろォ!こんなモノを俺に見せるなぁ!!」


あの、雪の街を静かに思い出す。

 無我夢中で駆け抜けた。ただただ走り続けた。一刻も早く手の届かないところへ。

 捕まるのは明確だった。だけど、助けてくれたから。あたしは今此処にいる。

   罪を償うために。終わるために。

 だからきたの。願いを叶えるために。あたしは・・・。

「ラファール」

 ティーラは彼の名を慕いながらそっと呼んだ。

 真っ白な波打つ髪と、視力があるのかどうか疑うほどの、色のない水晶のような瞳。だけど肌はすこし焼けていて、銀世界の人間ではないと思った。

 綺麗な外見とは裏腹に、おおらかで力強い性格。

『オレはそこに住んでいるんだ!此処とは気候がまったく違うからもうさみいさみい!雪は珍しいけどもう見飽きて。辛気臭ぇ。』

 大きな所作と活気な声の彼は、たった何日かの間だが沢山話しかけてくれた。

『一緒に行こうぜ?オレの家に。そうしたらすんげぇ力で、お前の願いはこのオレが叶えてやるよ!』

 白い紙面に描かれた、ゴールまでの地図。力強いお星様。

 そう教えてくれた。助けてくれた。だから、

「だから・・・来たよ・・・ラファール・・・。」

 崖の上にひっそり立つ古代建造物。灯台のように高くそびえ、教会のように純白に輝く。 はるか崖の下には蒼い海が一面に広がっている。

 雨上がりの晴れ渡った青空にさわやかな風。まだらな影を映す気象が作り出した岩の彫刻。

 きっと誰もが感嘆の息をもらす、すがすがしい風景。

 だが、自分はなにも思わない。色のない病んだ心。その鮮やかな青い瞳が映す世は無彩色だった。

 石畳の門の向こうに鉄で出来た扉があるが、堅く閉じられている。

 白い石畳に足を乗せると赤い足跡が付いた。足の裏が切れている。そんなことはどうでもよかった。それより気になるのは固く閉じられている扉だ。

「此処を開けて!」

 叫ぶ声は風に流れて消える。取っ手も何もない扉を手で押すと、不思議な感触がした。「封印・・・」

 重々しく古く頑丈な封印術を感じた。

「あたしじゃ開かないの?」

 重い扉に額をあてる。

「・・・できないの?もう、少しなのに。」

 この身には、全ての力が詰まっているのに。何故、壊して傷つけるばかりで、必要な時無力なのか?

「開けてあげようか?」

 軽快な声。だが芯は強く、揺るがない言葉。意味のある言葉を惜しげもなくまき散らし、力を振るうその男の声。

 振り向くと、長い前髪をかき上げながら彼はティーラの後ろに立っていた。

「ダルグ、さん。・・・どうして此処に。」

「かよわい女の子を独りにしておくわけにはいかないじゃん。」

 気配なく背後にいることに鼓動が早くなる。この人は、恐い。

「開けてあげようか?この『火竜主の結界』を。」

「あ・・・開けられるの?」

 半信半疑に問うティーラにダルグはこっくりと頷いた。

「だけど・・・一つ・・・約束して欲しいことがある。」

 ダルグは意味深に近づき、扉と、自分の身体でティーラを挟み込む。最初に出会ったあの湖の時の様に、逃げられなくさせる。

「い、いや・・・」

 ゆっくりとした手つきで細いティーラの頬をなぞろうと手を伸ばす。ティーラは、それを嫌がる様にダルグの手を払いのけようとした。が、逆に手を握られてしまった。

「放して・・・近寄らないでっ」

「ティーラちゃん。知ってる?」

 ティーラの反応を無視したまま、おとぎ話を語る様に、そして、まるで魔法をかけるように、ダルグの瞳は琥珀に輝く。ティーラの青い瞳を奪ってゆく。

「遠い、遠い昔から、語り継がれているいくつもの仮初めの伝説。その中の僅かな真実。オレの頭の隅にこびり付いて離れない女神のお話。」

「な・・・なにを・・・言ってる・・・の?」

「神話や伝説と見せかけた真実のお話だよ。歪められて嘘で固められた中に埋もれた本当の歴史。神や精霊のみが知る真実の貴女。」

 ティーラは、ダルグの琥珀の瞳を見ながら辺りが真っ白になっていくのを感じた。身体の表皮の感覚はぼやけていくのに、身体の芯は熱く燃えているみたいだ。

 頭に霧がかかる。忘れて葬った過去の記憶の鍵が・・・・

「そして一人の少女にまつわる悲しいお話。」

 ・・・上も下もない真っ暗で真っ白な世界に扉があった。自分は開けようとしているのに自分は開けられるのを止めていた。

 アケテハダメ!

「やめてっダルグさん!思い出したくないのっ!!!」

 そう叫んだ後に気付いた。何を思い出したくないの?

 あたしは何かを忘れているの?

 息をのむティーラの瞳と、どこか冷めた琥珀の瞳がしばし沈黙した瞬間、

 何かの空振動と爆発音が流れ、地面が少し揺れた。

「「!!」」

 いきなりの地響きに、現実に戻された二人は、爆炎が上がる森の方を見た。鳥たちが逃げるように羽ばたいてゆく。

 その方向は、野営した洞窟の方角だった。

「まさか・・・!」

 ダルグは焦り、ティーラの腕を強引に掴んで音の方に駆ける。

「いや、離して!痛い!ダルグさん!!」

「離さないよ!!」

 まだクラクラする頭でダルグに引きずられる。

 何かとんでもないことを知っている彼を。神殿の結界を開けられるであろう彼を。

 『鍵』を持っている彼の背中を、ティーラは必死で睨んだ。



「はあっ・・・・はあっ」

 ベルは、玉の汗を浮かべながら咄嗟に造った朱い結界を解く。

「ったく・・・・っ・・・なにピンチやってんのよ!ヤバイ相手と戦うなら私を召還してからにしなさいよっ!」

「あ・・・わり・・ぃ」

 助けてもらったベルに適当に礼を言うが頭の中は真っ白だ。今まで味わったトラウマを、抑えつけられて無理やり見せられたようなビジョンをみた。

 疲労感を必死で振り払おうと頭を振るが、手足がしびれてうまく動けない。

「っく・・・・俺、は・・・」

「ディート!しっかり!」

「ベ・・・ル・・・」

 冷や汗を拭うディートに上品とはいえない笑い声が聞こえた。

「ひっひゃっひゃっ!炎を統括する精霊ベルアース。主を守りに空間を超えたか。」

「なによっ!アンタ!ウチの大事なご令息をこんなにしてくれちゃってさ!」

「我が名はマイル。恐れ多くも魔術の王の手によって生み出された偉大な人工人間だ!」

 真っ黒なフードを翻すと服に包まれた継ぎ接ぎの身体が見えた。それは昨日の機械人形よりも精巧になっているが、より生身に近づけている場所が不気味さに拍車をかけていた。 人間らしく感情をもって会話するのがいびつに感じる。昨日の機械人形を指揮していたのはきっとこいつに違いない。

「その偉そうな機械人形が私たちに何の用よ。」

 熱く語るマイルに対し冷静に睨め付ける。

「人形?人形ではない!我は一つの生命。偉大な半機械生命体だ!半霊魂的物質で象った貴様も同じモノだろう。」

「全然違いますー!何でアンタがそんなことしってんのよっ!」

「ティアルトーラに関することならだいたいはデーターに入っている。お前の事も、神の子の事もな。」

 ベルが眉をピクリと動かすと、継ぎ接ぎの唇がにやりと笑う。まばたきをしないセンサーアイがこちらを凝視している。気持ち悪い。虫酸が走る。

「そう。つまりストーカーの変態ってわけね。女の子のプロフィール勝手に調べるなんて。さいっっっっってーーーーーね!!!」

「ティアルトーラの痕跡を消させてもらおう。」

「アンタは私が葬ってあげる。ティーラやディートを脅かすモノは・・・」

 揺らめく紅い気熱がベルを包む。

「私が許さないわっ!!!!」

 熱波が刃になって辺りを切り刻む。

「すばらしい殺意だが。貴様にそれが出来るかな?」

「・・・・。」

  ディート。ディート。

  ベル・・・恐い。俺は・・・恐い。無くなるんだ・・・消されるんだ!母さんも、ベ  ルも・・・みんないなくなった・・・・

  しっかりしなさい。あなたは今までのあなたじゃない。だって今は・・・

 ディートへと、心の中で精一杯叫ぶ。今はそれしか言えない!だから動いて!

「必殺『霊火焼石・乱』!」

 言葉に出してベルが叫ぶと、それに応える様に周りの石という石が浮き、炎を帯びて高速で目標に攻撃する。四方八方から飛び散る鉄のような熱い石に回避は不可能だ。

「行きなさい!!ディート!」

 ベルが高く吼えるとそれを合図に、ディートは戦場を抜けた。彼女に会うために。

   だって今は・・・守りたいものがあるでしょう?

「私はどうなってもいいの。主役は、あの子達だから。」

 ディートを叱咤して逃がしてから、呟く。霊火焼石が効いてるとは思わない。マイルの装甲はこんなものじゃ傷はつかないだろう。必殺!なんて言ったけど、威力は弱い。

「息子とやらを・・・逃がしたのか?」

「そおよ。いいの?放って置いて。」

「お前を切り刻んだ後でも殺せるしな。それに、事実貴様と戦いたかったのさ。オレと同じ、知性をもった人造人間とな・・・。」

「一緒にしないでっての!お前の存在は愚かよ!人を傷つけるだけの存在なんて!」

 マイルは苦笑した。

「理解できんな。貴様ら精霊は闇の歴史を知っているだろう。それなのに何故愚かな奴らを!生きとし生けるものを憎まない!?そして何故!憎むべきモノと行動を共にする!?」

 ベルは嘲笑した。

 たしかにあの時は辛かった。いろんなモノを失ったけど、それと同時に沢山のモノを・・・

「ハンっ。理由は簡単よ。そんなの疲れるじゃない。」

「愚かだ。」

「この意味が解らないお前は、もっと愚かよ。」

「残念だ。貴様のカラダをバラして記憶領域を引き出し、我が王にもっと美しく作り直してもらおう。」

「ふざけんじゃぁないわよ!脇役でも変態に負けるわけにはいかないわ。」

 ベルは両の拳を強く握り、手から肘にかけて真っ赤な炎をまとわす。脚にも同じように膝あたりまで炎を灯し構える。

 マイルは大きなコートに両腕を引っ込める。そして出してきたものは、鞭のような剣。それを構え、センサーでベルを捉える。

 ベルは赤い瞳で睨み返す。

「「こいっ!」」


 まだだ、まだ消化できてない。この恐怖は根強く、心の中を巣くう。

 それは忘れられない。だって、恐いんだ。俺は、ソレが、恐くてたまらない。臆病だ。

 でも今は・・・ベルの言う通り、今は!

 過去じゃなくて未来を!!


「あれ?ディート君?奇遇だね?無事かい?」

 焦って走っていたディートはその声にびっくりして足を止めた。だが、二人を見て心がほっとする。

「ダルグ!よかった、ティーラも・・・。変なヤツに襲われてないんだな!?」

 少し複雑な気持ちでティーラを見ると、ティーラは気まずそうに目をそらした。

「こっちは大丈夫だ。それよりさっきの爆発音は?ベルちゃんは?」

「そうだ!ベルはあっちで変な奴と戦ってて・・・!」

「助けにいこう。」

 ディートがすぐにベルの所へ向かって走り出し、その後をダルグは緊迫した様子でティーラの手を引く。

「もう、はなして・・・」

「悪いねティーラちゃん。まだ、なんだよ。」

 その言葉の意味はまだ解らない。


「っあっ・・・・!!」

 マイルのしなる剣がベルを襲う。

 鱗のように角張った小さな刃が、何枚も順序よく切れやすいように並んだ不思議な剣。鞭より長く、平べったく硬い。その切っ先がしなり、ベルの身体を傷付ける。

『エネルギー40%減少。魔導石32.8%損傷』

 左耳の軟骨にあけているピアスに内蔵された機械が、やかましく数字で身体の損傷率を警告する。

「ひゃっひゃっひゃ。口ほどでもないなベルアース。宝玉を失った統括精霊など、そこらへんの妖精にも劣るんじゃないか?一応手加減はしているんだがな。」

 ベルは舌打ちをする。

「甘く見てると痛い目見るわよ。」

「ほざけ。」

 怒りでベルは攻撃に出た。傷ついた身体で高く跳ぶ。

「『炎舞翔剣・轟』!」

 手にまとった炎が剣のように鋭く伸び、凄まじく斬りつける。

「ぐっ!」

 ベルの攻撃の途中で強引に後ずさる。痛みが無いマイルには、伝導元を壊さなければ止まらない。それが無事なら攻撃の途中で無茶な回避も出来る。痛みに捕らわれることもない。いくらでも甦れる。

「ひゃーーっひゃっひゃ!無駄だベルアース。我が装甲と鎧は、ティアルトーラの使う特殊神力を第二波までも防ぐ!」

「ふぅん・・・・。あーそう。」

 ベルは嫌悪感と苛立ちを込めて、脚を狙って回し蹴りを入れる。

「だったらこれはどう!!」

 バキンっと言う音とともにマイルの足の装甲が少しはがれた。

「なにっ?」

「特殊神力をも防ぐんじゃなかったっけぇ?」

「なぜだ・・・あり得ん!!なんだその力は!」

「あれぇ~?知らないの?意外とおバカなのねっ!」

 言いながら間合いをとる。

「なんだ貴様の原動力は!エネルギー供給はどこから成されているッ!!」

「そんなトップシークレット、いえるわけないでしょー!」

「っち!いい気になるなよベルアース!」

 マイルもしなる剣を、ピッと真っ直ぐ構える。今は剣のように真っ直ぐ立てっている。長さは一般的な刀身の二倍弱はあり、かなりの伸縮性がある。

 その剣をどうにかしないと、鎧が壊せたとしても劣勢なままだ。魔導石が何処に仕組まれてるかも解らない。完全に止めないと、何度でも立ち上がるだろう。

 懐に飛び込み、根本から折るしかない!

「はっ!!」

 ベルはマイルに向かって走った。

 マイルも剣をしならす。

「ベルっ!!」

 ディートが帰ってきたらしく、声が耳に飛び込んできた!特殊な装甲を壊せたのは、彼が近くに戻ってきたから。彼の特殊な力があるから。

完全体じゃない不安定なこの身体は、マイルが言った通り弱い。普通の精霊ほどの力しか無く無力に等しい。だが、ディートの想いの力が在ってこそ強くなる。

 だから、できる!

 うねる剣を俊速で避けマイルに突進する。剣の中に回り込んだ。

 いまだっ!

 今、この剣を叩き折れば、マイルの戦力は減少する。

「かかったな。ベルアース。」

 マイルが笑い、左手から細い糸のようなものを出す。それが身体にからみつく。

「!!」

 構えた両腕が縛られ、糸が足をからませ、転倒する。そこにうねっていた剣の先が戻ってくる。ベルの頭部を狙って!

 やばいっ!

「ベルーーーー!!」

 大丈夫。彼が側にいるから。力を・・・。彼が願うなら未知なる可能性も引き出せる!

「「火の獅子!!」」

 ベルとディートが同時に叫んだ。

 ベルの身体から生まれた紅い気が、太く勇ましく速く噛み砕いた。

「なにっ!!」

 パキンっ!!

 剣の根本が噛み砕かれ、総ての鱗がバラバラと崩れる。菱形の小さな刃が無数に散らばる。

「ベルっ!」

 ディートが転倒したままのベルに駆け寄ろうとした。その刹那!

「かかったなといっただろう!ベルアース!終わりだ!!」

 落ちた刃たちが目にも留まらぬ速さでもとの形を成し

 ベルを襲う。

 今度こそ確実にベルの頭部を貫こうと!

「っ!!」

「やめろっ」

 太く響く第三者の声にマイルの手が微動に反応するが、剣先は止まらず

「ぅあぁぁっ!」

 かすかな火花と一緒に切り口からどろりと液体が流れる。軸となる骨と、血管や神経が飛び出す。

 ごとりと少し離れた所に転がったのは、いつもキレイな色に染まった爪がついたベルの腕だった。

「 っあぁッ 」

 左腕を無くしたベルが身体を痙攣させて突如止まった。瞳を見開いたまま静止。『物』のようにピタリと。微動だにもしない。

 ディートもなにが起こったか解らずベルに近寄り顔をのぞき込もうと、そろそろと肩に触る。

「・・べ・・る・・?」

 どうしたのか・・・止まってしまって・・・もう動かないんだろうか・・・まさか・・・嘘だ!!

 不安とざわめきがディートの鼓動を乱す。

「んもーーーーいった~~~いやんけ~~こんちくしょうがぁー!!」

 天空まで届きそうなヒステリックな声を上げるベル。

「べ、べべべる、だだだいしょ・・・???」

「このくらい大丈夫よ!もう!ちょっとこの糸のけてーもぅ!」

 真っ青な不安顔のディートに、苛立った声ではあるが元気に話すベル。からまった糸をほどきにかかる。切れた腕からは銀色の鋼が見えており、粘性の高い蜂蜜のような、ゴールド帯びた液体が絶えず流れている。

「それ、だいじょうぶ、なのか?」

「・・・平気よ。生身じゃないんだから。」

 痛みを感じる器官が壊れてしまった。自分は『物』なんだとわかりやすくさらけ出された身体。赤くない血。白くない骨。

「・・・・っ」

 ベルは忌々しいとでも言うように舌打ちをした。

 これが頭部だったらもっと危ないところだった。剣先は確かに頭を狙っていたのに、軌道を変えた。誰かの、声で・・・。

 何故かマイルはもう攻撃してこない。その代わりに誰かに話しかけた。

「何故止めた?デスター辺境司令官。狙いが狂ったではないか!」

 聞き慣れない言葉にベルもディートも目を向ける。

 マイルが司令官などと呼んだ、一人の男に。

 珍しく真剣な表情と声色で彼は言った。

「任務は私が受け継ぐ。コード【猫探し】・・・『青い髪の少女』の捕縛。すでに完了している。」

「!!」

 その『青い髪の少女』の細い手首は、ダルグがギュッと握って話さない。

「いやっ!はなしてぇ!」

 いち早く状況を察したティーラが悲鳴をあげる。掴んだ手は微動だにせず、逃げる行動を許しはしなかった。

「え・・・まさか・・・ダルグ・・・」

 ディートが半信半疑で口を開く。

「・・・ティーラを・・??」

 ゆっくりと唇の端をつり上げるダルグ。そこにマイルが抗議する。

「任務はまだ完了してはいない!関わったモノの消去がまだだ!」

「それは私がやる。此処は下がれ。」

「納得いかん!もう少しでベルアースを倒せる!」

「下がれと言ったら下がれ!このネスでは、お前に決定権はない!」

 強い口調で言われ、舌打ちをして、吐き捨てるようにベルに皮肉を言うマイル。

「お前を切り刻むのが先延ばしになったなベルアース。」

「位の低い機械人形はさっさと消えればー!」

 言った後舌をだすベル。それを見てか見ないか、マイルは颯爽と跳び退った。

 それを静かに見送った後、何事もなかったように明るい声に戻り、続けた。

「・・・じゃあそういうことで~ティーラちゃんはもらっていきま~す。」

「ちょっとまて!ダルグ!!」

 ディートが叫ぶ。ティーラを狙っているのは世界最大の何でも屋組織デスター!?そしてダルグ!?ネスの司令官!?

「冗談はいい加減にしとけ。」

「冗談じゃないヨン」

「ダルグでも、それは許さない。」

 友人の突然の裏切りでとまどいながらも殺気立たせるディートを、ダルグは鼻で笑う。

「ふふ。なにを許さないんだい?なんで君がそんなことを言うんだい?」

「な・・・なんでってなんだよ!ティーラ嫌がってるだろ!」

「じゃあなぜ許せない?」

 ダルグの声色は太く深く

「なぜ?なぜ焦っている?」

 琥珀色に光っているようなダルグ瞳に、底知れぬ力のようなものを感じてディートは戸惑う。

「少し離れたくらいで、焦って、戸惑って。心を乱すからマイルなんかに闇を捕まれるんだ。そんなにディートって弱かったっけ?」

「ふざけんな!!」

 カッと熱くなりそう叫んでいた。だが、それ以上の言葉は出てこない。弱くない!とは言えるわけがなかった。まるで子供の強がりに聞こえそうで。

「・・・っ!!」

 ティーラがダルグの腕を掴み、爪を立てたり叩いたりと、一生懸命逃れようとしていた。

「おとなしくしてろ!」

 ビクリと震える。ダルグの底知れぬ鋭い瞳に恐怖を感じ、ティーラは力を緩める。

「君もさ、なぜ離れる?それで守ったつもり?逃げてるんだよ。目を伏せて、耳をふさいで。そのままでいいと思ってんの?」

 小馬鹿にした口調に抵抗するためティーラは精一杯睨む。ディートも同じく鋭い瞳に負けじとダルグを睨んだ。

「可笑しいなぁ二人とも。あれあれ。あれだね。まだまだガキだね。いっちょまえのセリフ吐く前にさぁ、もっと・・こうカタチで示してよ。」

 ダルグの瞳はフッと、いつもの人をからかうような目に戻り、空いている手で前髪をかき上げて楽しそうに語った。

「なにが必要で、何がしたいか・・・とか」

 ティーラをチラリと見る。

「なんのために、どう動くのかとか」

 そしてディートを正面から見つめる。

「問題も答えも・・・そして何よりその感情に言葉も付けてないお子さまたちが、今からの困難を超えて行ける訳がない。甘いね。」

 ベルと似たような事を言う。なにかの事を遠まわして言っている。未来や運命なんて言う大きな事を語っているのか?

 ダルグはポケットから一枚の紙を出す。それは難しい方陣のかかれた符紙。

「ほしけりゃ取り返しにきなよ。」

 その呪符を高く掲げると晴天の空から突如実態をなした巨大な鳥が現れる。

「消化できない想いに理由付けてみなよ。」

 緑色の所々に桜色の羽根が混じった大きな鳥は、ダルグの横に降り立ち、かしずくように頭を下げた。

「そうしたらこの後、動きやすいだろ?」

 ティーラをつれて、ひらりと鳥の背に乗る。

「さっさとお姫様救いに来なきゃあ、オレっちがもらっちゃうよ~じゃあね~~!」

 軽いノリでそう言うと、鳥は言葉を理解しているかのように羽ばたき、高く飛んでゆく。

「うそだろ・・・」

 ディートは呆然と立ち尽くす。否、考えろ。おかしい。この状況を許さないはずのやつが声を発していない。

「ベル!!」

 ディートがベルをにらみつけると、気怠そうにベルはディートを見上げた。

「ダルグの居場所をしってるんだろ?」

 その指摘にベルは素直に頷く。

「ええ。」

「やっぱりな。たちまち危険はないんだろ?」

「わからないわ。ダルグさんが何を選ぶのかは。ただ、場所は聞いている。」

「なんで言わねぇんだよ!!知ってたら事前にダルグを止めれた!」

「止められないわ!!」

 ベルは、困惑したディートよりも更に強い声できっぱり言った。

「ダルグさんは強い。それに」

 ベルはしばし沈黙した後、ぽつりと呟いた。

「覚悟した人間に、手出しは出来ない」

「・・・・・・」

 重々しい口ぶりに、ディートは何も言えなかった。何より状況がまだ把握できない。

「と、とりあえず、ベルの腕治そう。そしてすぐ追いかけよう!」

「このままじゃ、行けないわよ。一度精霊界に帰って身体を治さなきゃ」

「・・・・・。」

「心配しないで。すぐ治る。これで先に行きなさい」

 そう言いながら残っている右腕を翻し、炎の輪を創った。

 空に浮いた炎は地上に落ちるとすぐ、円の中に複雑な文字と図形を、蛇のように描き進んだ。そしてその中心から炎でできた馬が現れる。

「丸一日くらいは術が持つわ。それにこのコのスピードなら一日もかからないでしょう。」

「どこに行けばいいんだ?」

「行き先は、デスター辺境本部のある街。街の真ん中にデスターのビルが建ってるわ。ダルグさんはその中、よ。」

「わかった。」

 ディートは熱くなく質量がある不思議な馬にまたがった。

「ダルグさんに言い負かされているようじゃあ、ティーラの心は開けないわよ。」

「・・・・。腕、ごめん。俺のせいで・・・・」

「なんであやまるの~?私はアンタの守護精霊よ!今考えるのは私の事じゃないでしょ!!湿っぽいのうっとーしいからさっさと行きなさい!」

 そういって馬の尻を思いっきり叩いた。馬は小気味よく蹄を慣らし駆けていく。

 後に残されたベルは一人でつぶやいた。

「まったく。私って辛い身分だわ。」



「ダルグさん!離して!!」

 飛び降りようとするティーラの身体をダルグは抱き留めた。彼女の悲鳴が風に舞う。

「ちょっ!気丈だね!飛び降りるのだけはやめてね!いくらそんな身体でもグロイでしょ?」

 ちょっと油断すると逃れようとじたばたするティーラにダルグはため息をついた。

「やれやれ、こんなことはしたくないんだオレもさ、オトナだから、ね。でも」

 ダルグは見下したような目を向けてティーラを鳥の背中に押しつけ覆い被さった。

「いやっ!はなし・・・てぇ・・・」

 覆い被さられたティーラは強気な声とは裏腹に、身体は力を失った。

「いったいどうすんのさ。神殿へ行くの?それでなに?君の願いを叶えてもらうの?」

 ダルグは意地悪く冷たく見下し、息がかかるほど耳元でわざとささやく。

「そっ・・そうよ・・・」

 押さえつけた両の手首は、小刻みに震えていて、今にも痙攣しそうだ。

「君は間違ってる。」

「間違ってない!!」

 ティーラは腕の中からダルグをきっと睨んだ。

「離さないと、殺すわ!」

「やってみなよ。出来るなら。」

 だめだ、これじゃあ、売り言葉に買い言葉だ。ダルグはまたまたため息をつく。

「じゃあ、震えずに言ってよ。願いを、言葉に出して、オレを説得してよ。そしたらオレちゃんとどくから、さ」

 ティーラはダルグの言葉に目を背ける。自分が一番曖昧で信用できないモノ。だから自分の願いも、覚悟も、世界で一番信用できない。

 でも、わかっていても、

「おねがい、行かせて・・・」

 小さく泣きそうな声でそう言った。

「・・・おねがい。他に方法がないの・・・。これが最善策なの」

「じゃあオレは、その最善策とやらを、徹底的に邪魔する。」

「なんでよっ!!」

 きっぱり言い放つダルグに対しティーラは怒鳴った。

「ダルグさんにはカンケーないでしょ!あたしのことはほっといてよ!!」

「だってバカらしいんだよ君の願い。叶わないって言ってくれる人いるのにさぁ~意地張って一人で頑張ってさぁ~頑張っても空回りしてさぁ~大事な人失っちゃってさぁ~それでもって一人で何にも出来ないくせにぃ~?悪者にもなれなくて~棘はっちゃってさぁ~他人も自分も傷付けちゃってさぁ~真実なんか全然見えてないの。」

「もう黙ってッ!」

 顔をそらし唇を噛んで、小刻みに震えるティーラ。ソレを見てダルグの瞳は優しくなる。

「ごめん、言い返せないよね。オレ言い過ぎ、だね」

 優しくティーラを撫でる。その手のひらがあまりにも温かくてティーラは我慢していた涙を零してしまった。

「・・・・っ・・・もう、やめて。優しくしないで」

「べつに優しくしてるつもりないよ。」

「ううん、わかるの。だからもうやめて」

 ティーラは泣き顔を見られたくなくて、顔を両手で隠した。ダルグは少し何も言わず、包み込むようにティーラを抱きしめた。

 抱きしめられたティーラは、自分が少しの嫌悪感も沸かないことにびっくりしている。ディートと似た暖かさをダルグにも感じる。

 服の隙間から夕空が猛スピードで流れる。オレンジ色の光が式鳥の影を山の斜面や湖面、やがて大地に影を落とす。

「おねがい、あそこにはかえりたくないの」

 ティーラが呟いた。行き先が其処だとは思っていない。だが不安でたまらない。

「うん。帰さないよ。」

「ひとりでいたくない」

「大丈夫、孤独にさせない。」

「傷つきたくない」

「傷つけたくない、だろ?」

 ティーラはまた沈黙した。ダルグの言う事は出会った頃から、痛いほど当を得ている。

「よしよし。言えるじゃん、ちゃんと自分の気持ち。溜めてちゃだめだよ。こうやって吐き出さなきゃ。むかつくことも怒ったりする事も大事なんだよ。」

 ティーラの背中を撫でてやる。

「・・・・っ・・・」

「こうやって泣くこともね。いいことだよ。ちゃんと笑うためには、ちゃんと泣くことだよ。泣いたらスッキリするでしょ?」

「しないよっ!」

 ティーラは涙目で抗議した。

「あれれ~?」

 ダルグは苦笑う。自分の不満を言葉にも出来ないほど縛られて。やっと泣きじゃくって抗議の声を上げれる自由を手にした。

 そしてその生活を今度は守って行かなきゃならない。

「ね、約束して。少しでいいから、ディートに頼ってあげてよ。」

 ティーラはその名前が出たことに戸惑って、反射的にこう言った。

「いや。」

「まったく。意地っ張り・・・」

 ティーラの身体の力が少し抜けるのを感じ、ダルグは優しくこういった。

「少しゆっくり眠ろう。そしてもっともっとオレと話しようね。本音を聞かせてよ。自分でもきっとびっくりする言葉たちを、聞かせて?」

「・・・・いや・・・」

「大丈夫。きっとうまくいく。君が信じさえすれば。君が変わればすべてが変わる。今からオレっちがいろいろ教えてあげるよ♪」

 ティーラはまどろみ落ちていく寸前でその言葉を聞いた。自分が「いや」と言ったか「うん」と言ったか解らないけど、なにかか細い声が出た。

式鳥は緩やかにカーブし、降下してゆく。

「ディート、君と似た力を練るのはさすがに疲れるかな。でもティーラちゃんには絶大な安定剤になるよ。」

 ダルグはここにはいない親友を思いながら、岬の神殿の方を眺め呟いた。

「早く追いついてこいよ。本物の力じゃないと、癒せないんだからな。」


「あ~。あー・・・めんどくさぁ~」

深くため息をついた。身体が損傷してる上になけなしの力で移動魔法も使い、力が足らず立ち上がるのも億劫だ。

 精霊界に帰って腕と身体を治さなければ。見た目を元通りにするため、腕を治すのは早いが、この神経が切れてしまったのを直すのには結構な日数がかかるだろう。第一この特殊な液体は希少すぎるのだ。自分の今の身体の構造理論を考えかけてぞっとした。現実逃避するように、しばらくぼーっとしていると、

「!」

 風が吹いた。

 その風が只の風では無いことを悟り、ベルはちぎれて転がっている腕を慌てて拾い、四つん這いでコソコソと木の陰に隠れる。

「誰から身を隠しているんですか?」

 ギクリっ

 背後から涼しい穏やかな声がした。

「あ・・・っ!・・・ぁ・・あ~らウィルワームさん。お久しぶりですわぁ~ねオホホ・・・。」

「久しぶり、ベルアース。で、誰から隠れてるんだい?」

「ぁあんたよ!アンタ!バッカじゃないの!」

 にこやかな声を跳ね除けて罵声を浴びせるが、彼は穏やかな調子のまま何かを差し出した。

「落とし物ですよ。」

 赤いベースの色に、ラメのラインが入ったそれは、付け爪だった。それを奪い取る。

「どうも。」

「それと、腕をみせて。なおしますから」

「冗談よしてよ。」

 ベルはキッと彼を睨む。風の統治精霊ウィルワーム。自分と同じ地位で昔からの知り合いを睨む。殺意さえ込もった瞳で。

「私が敵の手など借りると思う!?あいつに従う奴なんかに話す言葉もないわ!」

「話してますけどねぇ~」

「ふざけないで!!!」

 叫ぶベル。冗談で話を進めるほどこの問題は小さくはなかった。

「精霊界の恥よ!偉大な精霊があんな奴に仕えるなんて!精霊王様も嘆いていたわ!どうしてあんな奴に従うの!?」

「さて、昔のことは忘れました。」

「しらばくれないで!!悪に成り下がって何が望みなのよ!」

 ワームは優しく微笑んでみせる。統治精霊になるに相応しい、慈愛と、掴み所のない風の微笑み。

「望み。そうですね。ティアと一緒です。」

「なによ。殺しても死ななさそうな、図太いあんたが、自死でも願おうっての!!」

「まさか。ティアの本当の望みも、そんなくだらないことではないはず・・・」

 呆れながらもワームは、長い袖をなびかせて腕を高く上げる。問答無用に、光の渦がベルを包む。

「やめてっていってるでしょ!」

「ティアと同じ。叶えたくて、叶わなくて。焦がれて切なくて・・・・。」

「おろして!ここから出して!!あんたなんかにっっ!!」

「・・・・そんな想いを叶えるために。少しでも実現に近づける為に・・・。」

 光がベルの身体を捕らえ、ゆっくりと抗えない睡魔に襲われていく。頭に血が上っているのに!ウィルワームを責めたくて仕方がないのに!安らぎが身体を蝕んで、どんどん意識がまどろむ。

 傷付いた腕が熱い。物になり痛みも何も感じなくなった自分の身体が治ってゆく。熱さを。痛みを感じる。

 こんな身体の自分が、物から人へ。

 こんな身体でもまだ生きてるから。存在してるから。生きてるから痛みは感じたい。たとえ擬似でも。涙を流したい。だから心から笑いたい。

「・・・ウィル・・ぁ・・」

 ベルの意識がゆっくりと光に消える。光の繭に包まれたベルの身体。この光は数時間でベルの身体を元に戻す。

「その願いを叶えるために、私は私の正義を貫きます。あなたを傷付けることになっても。自分を壊すことになっても。」

 ワームは静かに光の中のベルを見つめる。安らかな寝顔を。

 ティーラを見るときよりも、もっと切ない瞳で・・・。

「悪、か。ふふふ。正義に敵対するのはいつだって、別の正義、なんですよ。」


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